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Photo byfuten_seisuke

つばめグリル

     広告の撮影に立ち会うので、東京のスタジオへ行った。都内のどこだったかは覚えていない。有名な大学がすぐ傍にあったから、それで調べればわかるだろうが、わざわざ調べるほどでもない。
     そう思っている内に、もう二十年が過ぎた。

     撮影の後で森元さんと食事に行った。森元さんは広告屋の担当者である。
     どこか行きたい店はあるかと訊ねられ、名古屋にはない、昔の勤めていたパスタ屋の名前を出したら、あいにくこの辺りにはないと云う。それならお任せしますと云うと、つばめグリルへ案内された。
     お冷やを持って来たウェイトレスに何がお薦めか訊ねると、包み焼きハンバーグがお薦めですと顔を輝かせる。
     そうして森元さんも「包み焼きハンバーグは間違いないですよ」と、同じ顔をする。
     自分は薦められるまま、包み焼きハンバーグをいただいた。
    「私はねぇ、学生時代にここでバイトをしてたんですよ」
    「あぁそうでしたか。私はパスタ屋の店長でした」
    「百さん、ビール飲みませんか?」
    「いいですねぇ」
    「でも、うちの会社には黙っといてくださいね」
    「チクる義理はありません」
     背の高い洒落たグラスに入ったビールで、昼間から乾杯をした。
     ビールを飲もうと云い出した割に、森元さんはあんまり酒に強くないようで、二口三口で夕焼けのような顔色になった。これで帰社すれば、チクらなくたってバレバレだろう。
     自分の懸念をよそに、森元さんは肩に掛かった髪を払い、「百さん、私、来週富士山に登るんですよ」と言った。
    「富士山ですか。それぁ突然だ」
    「突然じゃぁありませんよ。先月から用意して来たんですからね」
    「じゃぁ周到ですね」
    「百さんは登ったことありますか?」
    「いやぁ、山と云えば、ヒョットコ山ぐらいですねぇ」
    「ヒョットコ山?」
    「はぁ。実家の近所の丘です。マツダの社宅が建っていて、友達が住んでました。子供の頃にはUFO騒ぎがありました」
    「UFO騒ぎ、ですか?」
    「ヒョットコ山の裏へ降りて行ったって云うんです」
    「それは大変だったでしょう?」
    「いえ、幼稚園の友達が一人で云ってただけなので、大したことはありません。時に、森元さん」
    「はい?」
    「富士山には、龍と鳳凰がいるらしいですね」
    「は? 龍と鳳凰ですか?」
    「前田日明が見たって、先週テレビで云ってましたよ」
    「そうなんですか?」
    「だから写真撮って送ってください」
    「はぁ。いれば撮ります」
    「いれば、じゃありません。きっといるから、きっと撮ってください」
    「わかりました。きっと撮って送ります」

     翌週、森元さんからメールで写真が届いたが、何の変哲もない山の風景である。どれだけ探しても、龍も鳳凰も写っていない。
     せっかく富士山まで行って、これではどうもつまらない。
     自分はその写真にアプリで龍と鳳凰を貼り付けたのを添付して、「さすがですね」と返しておいた。


     こちらの企画から、「つばめ」のお題を拝借しました。あとは「新茶」でビンゴです。

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    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

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