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Photo byryuseizan

占師殺し

     甘木さんから届け物を頼まれて、駅裏のビルへ行った。
     ビルの前の道はあんまり広くなかったが、駐車場が見当たらないのでビルの傍へ車を停めた。ちょっとの間ならいいだろうと思ったのである。

     古びたビルだが中はきれいで、廊下の両サイドに店が並んでいる。花屋、昭和のブティック、保険屋、自動車ディーラーも入っている。こんな裏通りへ車を買いに来る人があるのだろうかと思うのはこちらの勝手で、存外お客があるのかも知れない。
     一番奥の突き当たりが占屋だった。ドアの上に「占屋」の看板が掛かっている。届け物を頼まれたのはその占屋だった。

     入ってみると、占屋の中は何だか味気ない。医院の待合室みたいな按配である。もう少し雰囲気を作っておいてもよさそうだと思ったが、物々しくするよりも逆にこういう方がリアルで信じられやすいのかとも思う。
     受付には誰もいない。「すみません」と呼んでも反応がない。出直そうと思ったら、奥からネクタイをしたおやじが出て来た。恐らくこれが店主なのだろうが、どうも一々雰囲気がない。
    「はい?」
     そう言って、おやじの癖に訝しげな顔をしている。
    「届け物」
    「あぁ、ありがとう」
     こちらが差し出した封筒を受け取りながら一応の礼は言ったけれど、随分つまらなそうな様子である。
     愛想の欠片もない。この調子ではきっと商売も上手くいっていないだろう。事によると何かの隠れ蓑に店を開いているだけで、本当は売上なんかどうでもいいのかも知れない。どちらにしても、あんまり関わりたいおやじではない。
     さっさと退散しようと思ったら、「お礼にちょっと占おうか」と言い出した。ようやく笑ったが、汚らしい、嫌な笑顔である。
    「何の占い?」
    「ビートルズ占い」
    「は?」
     店主は棚を指して、どれか1枚選べと云う。棚にはビートルズのCDがぎっしり詰まっていた。
     適当に一枚抜いて渡すと、「ん、これか」と言ってプレイヤーに入れた。液晶画面にRNDの表示が点滅して、『イエローサブマリン』が流れ出した。ビートルズはあんまり詳しくないが、この曲は知っている。途中で「おっさんが屁こいた」と言う曲である。
     曲が終わると占屋はCDを取り出し、「うん、いいだろう」と言った。「そのままでいいよ」
    「何が?」
    「全部」
    「……は?」
    「じゃぁ、30万」
    「何が?」
    「見料」
    「は?」
    「占師は生活が苦しいんだよ……」

     外へ出たら、何故だか自分の車がぺしゃんこになっている。甘木の仕業かも知れない。これでは逃げられないと思っていると、段々遠くからパトカーの音がした。


     
     
    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

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