
【短編小説】明日もそんな君に会いたい
君は、1人の時間が大好きな人。
私は、ちょっとだけ寂しがり屋。
好きな人とは、一緒にいたい。 声を聞きたいし、
できることなら毎日でも会いたい。
でも、君は少し違う。
誰かと一緒に過ごす時間も大切だけれど、1人で過ごす時間も同じくらい大切な人だ。
それは、付き合い始めた頃から分かっていた。
「ぼくは、自分の時間がないとだめなんだよね」
君は、そう言っていた。
私は、その言葉を聞いて思った。
そっか。 そういう人なんだな。
無理をして一緒にいてもらっても、きっとお互いに苦しくなる。
だから、君の1人の時間も大切にしたいと思っている。
……思ってはいるんだけどね。
*
この間、三日間一緒に過ごした。
楽しかった。
でも、帰る時間が近づくにつれて、君の表情が少しずつ変わっていくのに気づいた。
なんだか、ほっとしているように見えたのだ。
「……もしかして、疲れた?」
私が聞くと、君は少し驚いた顔をした。
「え? なんで?」
「だって、なんか嬉しそうだから」
「いや、そりゃ1人の時間も欲しいよ」
君は、いつもの調子で答えた。
分かってる。
分かっているんだけど。
「私といるの、嫌になっちゃった?」
つい、そんな言葉が出てしまった。
君は困ったように笑った。
「そういうことじゃないじゃん」
「……うん」
嫌になったわけじゃない。
ただ、1人になりたいだけ。
頭では分かっている。
それでも、好きな人が自分と離れてほっとしているように見えると、少しだけ寂しくなる。
私は、君と一緒にいても、自分の好きなことをして過ごせる。
同じ部屋で、それぞれ別のことをしていても平気だ。
でも、君にとっては、それと1人の時間は違うらしい。
誰かがそばにいることと、本当に1人になること。
その違いは、私にはまだ少し難しい。
そして、この「分かっているのに寂しい」という気持ちは、夜の電話でも何度も顔を出す。
*
君は、よく眠る人でもある。
夜、電話をしていると、決まってこんなことを言う。
「ねむい😴 どうしよー。寝ていい?」
……どうしようって。
もう、寝る気満々じゃない。
「えー、もう?」
「うん、ねむい」
「あとちょっとだけ」
「何分?」
「五分!」
そう言って、私は少しでも長く話そうとする。
だって、会えない時間が長いから。
せっかく声を聞ける時間くらい、もう少し話したい。
でも、君の声はだんだん小さくなっていく。
「……もう、寝ていい?」
「……うん」
本当は、もう少し話していたい。
でも、無理に引き止めたいわけじゃない。
「おやすみ」
「おやすみ😊」
電話が切れる。
スマホを置いて、私は小さく息を吐く。
寂しいな。
もう少しだけ、話したかったな。
そんな気持ちを抱えながら、私も眠る準備をする。
君が眠いのは、私のことが嫌だからじゃない。
それくらい、分かっている。
……分かっているんだけどね。
そんなふうに、君の気持ちを頭で理解しようとするほど、私の中で「それでも寂しい」という気持ちが残っていく。
*
ある夜、私は仕事のことで自信をなくしていた。
「私なんかにできるのかな」
「やっぱり、やめたほうがいいのかな」
電話の向こうで、君はしばらく黙って聞いていた。
そして、ぽつりと言った。
「そんなことばかり言われたら、嫌になっていくよ」
胸が、ちくっとした。
分かってる。
自信がないからって、ネガティブな言葉ばかり並べていたら、聞いているほうだって疲れるよね。
「……うん。ごめん」
私はそう答えた。
君が間違ったことを言っているわけじゃない。
それでも、もう少しだけ優しい言葉が欲しかった。
「大丈夫だよ」とか。
「きっとできるよ」とか。
そんな言葉を期待していた自分がいた。
電話を切るとき、私たちはいつものように「おやすみ」と言った。
これ以上、君を困らせないように。
私も、もう少し前向きにならなくちゃ。
そう思いながら、スマホを置いた。
しばらくして、君からメッセージが届いた。
「おやすみ☺️」
その言葉と一緒に、以前、私が興味を持っていると話したことについて、ひとつの情報が送られてきた。
「これ、どう?」
私は、画面をじっと見つめた。
さっきは、あんなことを言われて寂しかった。
でも、君は私の話を覚えていてくれたんだ。
わざわざ調べて、私に知らせてくれた。
もしかしたら、私が思っているよりも、私のことを信じてくれているのかもしれない。
「私なんかにできるのかな」
そう言っていた私に、君は別の形で答えてくれたのだろうか。
君ならできるよ。
そんな言葉が聞こえたような気がして、私はもう一度、君が送ってくれた画面を開いた。
……そっか。
応援してくれているんだ。
私のことを、ちゃんと見てくれているんだ。
君は、言葉で私を安心させるのが得意な人ではない。
でも、行動で示してくれる人なのかもしれない。
スマホを握りしめて、私は小さく笑った。
それでも、やっぱり。
ときどきは、優しい言葉も欲しいんだけどな…
君の「1人になりたい」という言葉に寂しくなったときも、眠いから電話を終えたいと言われたときも、私は同じように、言葉の奥にある君の気持ちを探している。
*
私は、君のことを少しずつ知っていく。
1人の時間が必要なこと。
眠くなったら、何よりも睡眠が大切なこと。
思ったことを、飾らずに口にすること。
そして、私が何気なく話したことを、ちゃんと覚えていてくれること。
全部が私の望む形ではない。
時には寂しいし、時には傷つく。
それでも、君の言葉だけでは分からなかった気持ちが、行動から見えてくることもある。
だからといって、私の気持ちを全部しまい込むのは違うと思う。
本当はもっと一緒にいたい。
たまには、甘い言葉も欲しい。
「ずっと一緒にいたい」とか。
「君がいないと寂しい」とか。
そんなことを言われたら、きっと私は、ものすごく喜ぶ。
……まあ、君はなかなか言ってくれないんだけど。
いつか、そんな気持ちも素直に伝えられたらいいな。
君のひとりの時間を大切にしながら、私の寂しい気持ちも大切にする。
どちらかが無理をするのではなく、ふたりにとって心地よい距離を見つけていけたらいい。
君は、1人が大好きな人。
私は、ちょっと寂しがり屋。
正反対の私たちだけれど。
だからこそ、分かり合えることもあるのかもしれない。
……ねえ。
明日は、あと五分だけ長く話してくれる?
そんな君に、私は明日も会いたい……

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