
シロクマ文芸部お題「待つ時間」
「待つ時間」
それは、昭和の頃。
父は毎朝早く家を出て、
森の小道を抜けてバス停まで歩き、
バスと電車を乗り継いで、通勤していた。
その頃、家ではサバトラの大きなオス猫を飼っていた。
名前は「倫太郎」。
リンは、強くて、元気で、どこかしら頼りがいのあるボス的な猫だった。
私たち小さい姉妹の遊び相手もよくしてくれていた。
彼はどういうわけか、朝ご飯をもらった後、時々長い時間いなくなる事があった。
あの頃の飼い猫は、家と外を自由に出入りしていたので、それほど心配はしなかったけれど、帰りが夜遅くなることもしばしばだったから、どこに行ってるんだろうと思っていた。
そんなある日曜日、父が倫太郎を撫でながら、
「倫太郎は森の出口まで見送りに来て、帰りもちゃんと待っててくれるんだよ」と教えてくれた。
「リンちゃん、偉いねぇ、賢い賢い」
母も目を細めて褒めた。
家を出て小さな住宅街を抜け、茶畑の脇を通って森の小道へ入り、坂の上のバス停の手前まで。
リンはパパを見送って、それから夜までの長い時間、どんな風に待っていたのだろう。
小鳥や蝶を追いかけたり、立木で爪とぎをしたり、陽だまりでお昼寝したりしていたのだろうか。
まだかなぁ、帰ってこないなぁ、そんなふうに思うのかな。
それとも、私たちが学校に行っている間、家に帰ったりしてたのかな。
私はいろいろ想像していた。
ある時、母と妹と三人で、祖母の家へ遊びに行った。
倫太郎も付いてきて、私たちの足元をチョロチョロ駆け抜けたり、前になり後ろになりして楽しそうに歩いた。
そして、森の出口に着くと、ちゃんとお座りして見送ってくれた。
「可愛いねえ、賢いねえ」
私たちは嬉しくなって、
「行ってくるねー」
バイバイして、何度も振り返って見た。
倫太郎はバス通りの車道に出ることもなく、いつまでも私たちを見送っていた。
ある時、家族全員で出かけて、帰りが遅くなったことがあった。
「倫太郎ーただいま!」
倫太郎はいなかった。
「おかしいわねえ、まだ帰ってないのかしら」
「森の入口にもいなかったし……」
あっ!!
バス停への小道は、二本あった。
私たちは、その日に限って行きとは違う道を通って帰宅したのだった。
「リンちゃん、きっと待ってるよ!」
「あたし、迎えにいって来る!」
私たち姉妹は、朝歩いた道を急いで走った。
いた!
倫太郎は、ちゃんと森の出口で待っていた。
「リンちゃん、ごめんね!」
「偉いねぇ、賢いねぇ」
二人と一匹は前になり後ろになり、絡まるように走って、家に帰った。
おわり
シロクマ文芸部のお題に参加させて頂きました。
小牧さま、いつもありがとうございます😊✨️
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