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Photo bykani224

静寂の歌 2-4

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        四

     僕は好物の豆大福をつまみながら、ため息をついた。
     「安心してください。ここでのことは口外されませんから」
    それを聞いて、ようやく落ち着いたのか。藤本は正座をしたまま、押し黙っていた顔を、ほんの少し持ち上げた。八枯れはとうとう話しに飽きたのか、縁側に出て伸びをしていた。しかし、邪植も「文字喰い」に興味があるのか、僕の隣にしゃがみこんだまま、細い目でじっと、藤本の様子をうかがっている。
     「ともかく、失踪前後のことをくわしく教えてもらわないと。そのあと、実地調査にうかがいますから」
     藤本は青いくちびるを震わせながら、ぼそぼそと話しはじめた。彼の話しによると、その夜はパチンコで負けて、むしゃくしゃしていたらしく、帰り際に安い出店で飲んで、相当酔っ払っていたらしい。
     家に帰ると、とも子がバッグなどを持って出かけようとしていたらしい。階段の中途でそれを発見したため、藤本は、しつこくとも子に絡んで行き、抵抗したとも子が足をすべらせ、階段から落っこちて意識を失ったんだそうだ。藤本のほうも相当飲んでいたので、とも子が落ちたことも、気を失ったのにも、一向頓着しなかった。そのまま、二階の部屋へ上がって、その日は眠ってしまったんだそうだ。
     翌日、目を覚ましてすぐ昨夜のことを思い出す。大変なことを仕出かしたと、あわてて階下に降りたが、とも子の姿は無かった。バッグなどは投げっぱなしになっていたが、肝心のとも子本人と、とも子の靴が無くなっていたのだそうだ。二三日は、いずれ帰って来るだろうと、のんきにしていたが、四五日過ぎると、途端不安になってきた。生きているとも、死んでいるとも見当がつかず、捜索しようにも警察へ行くと、都合が悪い。
     仕様がなく探偵のところへ相談に行ったら、「何でも屋」の東堂と言う女を紹介されたが、その女も赤也のところが良いだろう、とようやくここを紹介された。と、たらい回しの経緯まで細かく教えてくれた。
     「まったく、自分が面倒だからって」と、件の「何でも屋」に対して小さく愚痴をこぼしたが、いまは置いておくことにした。大福の粉がついた指を拭いて、茶をすすった。「行き先に心当たりは無いんですか?」
     「あったら、とっくに見つけてる」
     藤本はようやく、はじめに会ったときと同じくらいのふてぶてしさを表情に取り戻して、くちびるを曲げた。まあ、たしかに、東堂などはこうした人種が、毛虫とゴキブリの次に嫌いだ。たらい回しにしたくなる気持ちもわからなくはないが、依頼人を選ぶと言うのはどうなのだろう。
     「まあ、こちらも慈善事業じゃないので、さっさと済ませましょうか。確認しますが、とも子さんを見つけるだけで良いんですね?事後処理に関しては、一切の保証はしかねますよ」
     「良い。ともかく、生きてのるか、死んでるのか。生きてるならどこにいるのか。それだけわかりゃ、良いんだ」
     失踪前後で、よほど恐い想いでもしたのだろうか。このとき、藤本の顔の内側には、何か得体の知れないものへの恐怖心が、ひそんでいるようだった。
     「わかりました。前金の十万はすでにいただいていますから、事後の金額は依頼内容と照らし合わせて、こちらで設定させていただきます」
     「ええ、もうここを追われたら、行くとこもありませんから」
     「まあ、そうですね。あとは警察に行くことになるでしょう。何かあなたがまずいことになった場合は、僕が良い刑事を紹介しますから、そちらに相談なさい。その場合には事後料金はいりません」
     「じゃあ、今日はもう帰っても」藤本は、肩膝を立ててようやく安堵の景色を露にした。こんな化け物屋敷、一刻も早く飛び出したい。そう顔に書いてある。僕は、煙草盆を引き寄せると、マッチをすって微笑を浮かべた。
     「その前に、一つ聞きたいことがあります」
     「なんです」
     「とも子さんは、なぜ文字など喰うようになったんですか?」
     「そんなこと」藤本は眉間に皺をよせて、低くうなった。
     「よく思い出してください。何かきっかけがあったはずです」
     「きっかけ」白髪のまじった髪の毛をかきながら、しばらく表情を歪ませていたが、やがて「思いだしたら、お話します」と、言って立ち上がった。なるほど、こればかりは本当に心当たりがないようだ。邪植に見送りなどを任せて、吸った煙を吐き出した。
     「神経衰弱とも思えないし、よくわからん」
     「妙なやつがみな衰弱者なら、貴様は何じゃ」と、縁側であくびを浮かべながら、八枯れが嘴をつっこんできた。それに微笑を返して、まあ、そうだな。と、灰皿の上に灰を落とした。


         五へ続く

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