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『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』感想 彼らを善と悪とに分つことなく

    ネタバレありますよ。

    『ちいかわ』観てきました。のーみそグッチャグチャにされましたね。何これ、こんなに考えさせてくるの、ってビックリした。教養じゃなくて強要。強制的に頭を使わされる。観といてよかったと思う。

    とりあえずざっくりとした感想から。主人公が意味のある言葉をほぼ喋らないというのにみんなには通じてるでしょう。わかってくれてるでしょう。言葉が不完全でも話を全部聞いてくれてるあの感じには癒された。え、この優しい世界は何、みたいなヒーリング効果がありましたね。全体的な構成としては見事にまとまってるもんだと思った。これを九十分くらいで収めるわけじゃん。ちょうどよかったかもしんない。過不足がないと思う。キャラの名前は知らないのですが、みんなそれぞれ独立した行動と考え方と役割があるあたりもおもしろい。扱ってるストーリーを見れば、エンタメで哲学やってる、というのか、そこも衝撃的。そんなことができるとは思ってなかった。哲学書だけが哲学じゃなかったんだねえ。参りました。

    以下つぶさに書いてみます。楽しそうな旅に行こう、という冒頭から、ストーリーが進むにつれてシリアスになってくるんですけど、けっこう神話学の要素が出てましたね。出立とか禁止とか越境とか怪物退治とかですか、それら自体は古風なもんだと思うんだけど、堂々とやるもんだから心地よい。

    古風なのね、とか思ってるうちに違和感というか新鮮味を覚えてくるわけですよ。元が神話の類型だとしても新しく載せてきた要素が現代的、なのか、わかりやすくしてくれてるというのか。

    じゃあ何が新しいのか。たとえばあのモフモフの食い意地のはったやつがいたじゃないですか。だいぶエゴイストなやつ。最初はこれ悪役じゃねえのって思ってたけど別に悪いことしてないし裁かれないのね。うまいもん食いたいだけの人だったじゃん。その享楽的なとことかさ、普通にいるじゃんそういう人。私もそれに近いノリで生きてるけども、興味があることしかしたくないという人間くささよ。リアルさに驚いたよ。

    そうやってキャラそれぞれに言及しようとしてもちと忘れてるところがあるんで、終盤の問題まで飛ばしますね。

    食べると不死になる人魚の肉を食べちゃった島民のふたりなんですが、まず片方が死にそうになったからといってもう片方が人魚の肉を食わせて復活させてましたよね。そうしてそもそも死にそうになった原因というのがセイレーンと人魚たちの海での遊びで、セイレーンたちは無自覚とはいえ遊んでたら島民を殺しかけてしまったと。これは事故です。起点はそこでした。

    で。自分の大切な人の命を救うために他人(人魚)の命を奪えるかって問題がある。奪っちゃったんですよ。これは殺人です。そこの効果音えげつねェ感じでした。そしてこれがただの他人ではなく、自分の大切な人を殺しかけたやつらである、というのもソロバンに入れなきゃならんのかもしれんが、ともかくそれからセイレーンたちが島民たちを襲うようになりましたと。なぜなら自分たちの大切な人(人魚)を殺されたからで、というけっこう入り組んだ構造でストーリーが組んである。ぞわぞわするわこんなん。せめて情状酌量といいますか、いったいどこの誰がどの程度悪いのか、またはどのくらい許されるのかをパーセンテージで考えろみたいになってくるじゃんね。なってこない?これ法廷で揉めない?ゼロか百かって話じゃないよね?

    そして人魚を食べると不死でも電池式で動く体になってしまう。ビビった。現代文明を撃ってきてるじゃんこのメタファーで。我々はもうリチウムイオンバッテリーなしでは生きていけないんで、だってみんなスマホ持ってるでしょ、もしかしてそのことをいってるんですかと。ではそれで我々が不死になったかというとそうでもないんだけど。強いていえばデジタルタトゥーといわれるようにネット上で永遠に発言が残るくらいで……といま思い当たって慄然としたところです。発言は不死じゃん。ともあれ、電池。ひょっとするとブレインマシンインターフェイスとかサイボーグとかのことも予言してるのか、とまでいうとちと違うか。なにか不気味な描写でした。

    ラストあたり、秘密を知ってしまった主人公が最後まで誰にもそれを喋らなかったこと、沈黙するということと、秘密について自分では何も判断を下さなかったというのはもうね、あとはこれを観たあなたたちが考えなさいよっていわれてる、でいいんでしょうか。主人公のようにこれについて何もいわない、判断しないのがせいぜいかもしんないけど。たぶんこれ正解とか答えとか出ませんよ。誰が善とも悪ともいえないでしょう。語りえぬものについては沈黙しなければならない、をナチュラルに、地でいってますよ主人公。もうウィトゲンシュタインですよ。なんか小さくてかわいいやつなのに。

    あと永遠の命。古くは王様とかの見果てぬ夢として扱われてたもんですが、この映画では少々しんどいことになる。最後の最後にセイレーンたちが人魚を食べた不死のふたりのいる島へ向かっていって話が終わるでしょう。これはセイレーンの考えていた復讐を思い出すとものすごく残酷なオチになりますよね。キッツいオチです。

    などと、頭がまとまらないなりにまとめてみました。何が悲しくてこんな映画を作ったのかはわかりませんが、非常におもしろかったです。



     
     
    文筆業のメンズ。ZINEの販売休止中。 公募の戦績は文學界新人賞の二次予選通過、他。 読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、美術鑑賞、天然石収集、 カメラ、将棋、チェス、神社仏閣巡り。

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