
地理の重要度は人類の無力さの指標
ペルシャ湾のすぐそばまで、4000メートル級の山が壁みたいに並んでいる。
イランの地形の話です。海岸線ぎりぎりまで山が迫っていて、陸から攻め込むのは相当きつい。逆に、山の上から下に向かって撃つのは簡単になる。
で、その山を吹き飛ばす、という攻め方の選択肢は誰も持っていない。
次々と技術革新が起こっている印象はありますし、実際すごいと思っています。数百キロ先の建物をピンポイントで壊すミサイルがあって、無人機が空を飛んでいる時代です。
その最先端の兵器を並べた国でさえ、ただの山の前で何もできない。
ロシアが300年、一度も手に入れられなかったもの
山が最新の兵器を止めるのは、イランだけの話じゃありません。同じことが20年続いた場所があります。
アフガニスタン。米軍は2001年に踏み込み、20年戦って2021年に撤退した。山は最後まで兵器を通さなかった。
ここまではABEMA Primeで内藤正典教授が話していたことです。
そのあと社會部部長というチャンネルの動画を見て、同じ構図が陸ではなく海で、しかも300年のスケールで出てくるのを知りました。
トルコ海峡。黒海と地中海をつなぐ、唯一の出入り口です。
ロシアはここを300年欲しがり続けた。何度も戦争をして、一度も自分のものにできなかった。
第二次大戦のドイツは、黒海に軍艦を入れられませんでした。それでどうしたか。小型艦や潜水艦を分解して、川を伝って運び、黒海沿岸で組み立て直した。
2022年には、トルコが海峡を閉じた。ロシアは外から増援の軍艦を送れないまま、黒海艦隊の旗艦モスクワを失っています。開戦から7週間後のことでした。
変わらなかったのは地理だけ
ここまでの話は、300年のあいだに起きたことです。その間に、いろいろなものが入れ替わりました。
オスマン帝国は消えた。ロシア帝国はソ連になって、またロシアに戻った。イギリスが握っていた覇権はアメリカに移った。条約の中身も何度も書き換わった。
変わらなかったのは、黒海の出口が一つしかないという事実だけです。
体制が変わっても条約が書き換わっても、黒海から出るには同じ海峡を通るしかない。だから、どの時代のどの国も、この一本の水路の前で同じように詰まってきました。
なぜ地形だけがそうなるのか。人間がどうにかできないからです。逆に、どうにかできるようになったものは、そこで重要度が下がる。
実際、同じ海の上で条件から外れたものがあります。風です。
帆船の時代、風向きは艦隊が動ける方向をそのまま決めていた。動力船が出てきて、風向きが行ける方向を決めることはなくなった。
ただし、人間が制御したのは風そのものじゃありません。風に頼らずに動く方法を手に入れただけです。それでも重要度は下がった。
地形は違います。海峡を通らずに黒海から出る方法は、いまだにありません。
人間がどうにかできないものは、軍事以外にもあります。台風を弱めようとした実験は何度もあったけれど、どれもうまくいかなかった。できるのは、いまも逃げることと備えることまで。
だから地理の重要度というのは、人類がどれだけ自然をコントロールできていないかの指標なんだと思います。コントロールできる範囲が広がれば、地理の重要度は下がる。
運河は掘れるじゃないか
でも人間は、地形そのものにも手を入れてきたはずです。運河を掘り、トンネルを通してきた。
運河というのは、迂回路のことです。じゃあ黒海にも、もう一本引けばいい。
引けません。スエズが掘れたのは、あそこが平地で、地中海と紅海に水位差がほとんどなかったからです。閘門すらいらなかった。山がちなパナマでさえ、越えた高さは26メートル。
黒海から運河を引くとなると、1000メートル級のアナトリア高原を越えることになります。桁が違う。
掘れる場所と掘れない場所を分けているのも、結局は地形でした。
1945年のポツダム会談で、スターリンはトルコ海峡をソ連が管理すべきだと要求しています。スエズやパナマを他国に閉じられる立場だったら、英米はどれほど騒ぐか。それがそのときの理屈でした。
でも、どちらも人間が掘った運河です。平地があったから掘れた。ソ連にはそれがなかった。
だから交渉で取りにいくしかなくて、それも通らなかった。
これが永遠に無理なのか、いまは規模が足りないだけなのか。僕にはまだ決められません。いまのところ前者だと思っている。
いまも黒海の出口は、一つのままです。
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