
世界が驚く「日本の焼き魚」──『COOL JAPAN』で再発見した素材を引き出す究極の技 (元教授、定年退職831日目)
魚をひっくり返すのはマナー違反?
私は、焼き魚を食べるのがあまり上手ではありません。人に見せられないほどではありませんが、食べ終わった後は、まあ色々と散乱してしまいます。友人の中には、外科医のような見事な技術で、しかも短時間で、頭と骨以外何も残らないほどきれいに食べる人がいます。さらに頭まで分解し、目玉やその奥の身まで食べてしまうのです。誠にスマートで、羨ましい限りです。聞いてみると、小さい頃からの特訓の成果だと言います。特に私が問題なのは、魚の片面を食べ終えた後に裏返してしまうことです。仲の良い友人からは、それは「転覆」や「不漁」を連想させるのでマナー違反だと言われたりします。ただ、私はその方が美味しく食べられると思っているので、「漁師じゃないので大丈夫だ」と言いながら、ついひっくり返してしまいます。もちろん正式な場では、不器用ながらも骨を箸で外して食べます。正式な場といえば、和式の結婚式で出てきた持ち帰り用の「鯛のお頭付き」に、知らずに箸をつけていた友人のことを思い出しました。この場合の「友人」は、私ではありません(笑)。
『COOL JAPAN』で焼き魚の特集
さて今回は、NHK BS『COOL JAPAN 発掘!かっこいいニッポン』という番組を視聴しました。この番組を note で取り上げるのは初めてです。訪日外国人の方 10 人弱をパネリストに迎え、彼らの視点から日本文化の魅力を再発見する番組です。欧米の方が多い印象ですが、アジア、アフリカ、南米の方もおられ、英語で議論が進みます(通訳テロップ付きです)。司会は、演出家の鴻上尚史さんとタレントの関根麻里さんで、日本語と英語を交えながら楽しく進行していきます。この回のテーマは「焼き魚」でした。日本での生活が長めの外国の方が多いようで、挙手してもらうと、ほとんどの方が「焼き魚が好き」と答えていました。番組では、パネリストの方々が日本各地で焼き魚に関するレポートを行い、それぞれの視点から意見を述べ、世界に発信すべき日本の「ベスト・オブ・クール」を決めていました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

西洋の「切り身」 vs 日本の「一匹丸ごと」──焼き魚に見る、敬意と引き算の美学
現代の西洋社会では、魚は骨や皮、頭部を取り除いた「切り身」の状態で販売・消費されることが一般的です。そのため、頭や尾、目が残ったまま丸ごと提供される日本の焼き魚を見て、外国の方が不気味に感じることもしばしばあるようです。一方、日本では、魚がもとの姿をとどめた状態で皿の上に美しく盛り付けられることが、自然の恵みに対する「敬意」の表れとも考えられています。また、西洋の魚料理がバターやクリーム、ハーブ、複雑なソースを用いて風味を重ねる「足し算の文化」だとすれば、日本の焼き魚は、少量の塩や醤油だけで素材の味を引き出す「引き算の美学」の極致とも言えます。
フランス人が「最高の朝食」と絶賛! パリッ、ジュワッ、そして白米と味噌汁
フランス出身のニコラさんは、焼き魚のパリッとした皮、ジュワッと広がる脂、思わずごはんが進む旨さに感激していました。さらに、ご飯や漬物などが調和する日本の「焼き魚定食」の構成にも絶賛していました。欧米の方にとって、甘く軽い朝食の対極にある「朝の焼き魚」は、脂の匂いだけで生理的な抵抗を感じることもあるようです。しかし、炭火で焼かれた香ばしい魚、白米、出汁の効いた味噌汁の組み合わせを一度体験すると、「最も贅沢な朝食」へと認識が変わるようです。(下写真もどうぞ)

また、イギリスのリサさんは、駅ビルにある持ち帰り焼き魚専門店の利便性を称賛していました。母国では魚といえばフィッシュ&チップスなどの揚げ物が中心なので、日本の焼き魚の種類の豊富さや季節感を高く評価したようです。一方、各国の食文化と比較すると、中国では魚は富の象徴として濃い味付けがなされ、イタリアでは階級によって皮を食べるかどうかが異なるなど、多様な文化の違いも浮き彫りになりました。(下写真もどうぞ)

日本の技術が詰まった「魚焼きグリル」進化論
フィリピンのカレンさんが、家の中で焼き魚を「クール」に作る方法として紹介したのが、システムキッチンに組み込まれた「魚焼きグリル」でした。この極小の加熱装置は、点火から数分で約 300℃ に達し、外はパリッと、中はふっくらジューシーに短時間で焼き上げる高い熱効率を誇ります。番組では、その進化についても詳しく解説していました。魚焼きグリルは、テーブルガスコンロが一般家庭に普及し始めた頃、「そこで魚を焼きたい」という消費者のニーズから開発が始まりました。1966 年に初めてグリル搭載のコンロが発売されましたが、初期のものは片面ずつしか焼けず、家族4人分を焼くのに1時間近くかかっていたそうです。その解決策として生み出されたのが、「輻射熱」の利用です。グリル上部に金属板を設置し、その金属板を熱することで強い輻射熱を発生させる仕組みを開発しました。これにより、短時間で焼き上げる技術が確立されました。次に、「一度に4〜5匹の魚を焼きたい」というニーズに応えるため、グリルの幅を広げる「ワイド化」に挑戦しました。そのために、ガス穴を一定の間隔で段違いに配置するという緻密な工夫が施されました。炎の方向を上下に分け、上向きの炎は手前に、下向きの炎は中央まで届くように制御することで、まんべんなく焼き上げられるようになったのです。この完成に至るまでには、30 年以上の試行錯誤が費やされたそうです。現在では技術がさらに洗練され、上下両方のバーナーを用いることで、裏返す手間なく、従来の半分ほどの時間で美しく焼き上げる最高技術の結晶ともいえる製品もあるそうです。(下写真もどうぞ)


熱海の伝統をアップデートする「ハイパー干物」
イタリアのフラビオさんが紹介してくれたのは、「ハイパー干物」という進化系の干物でした。彼は、熱海で話題の干物クリエイター・藤間義孝さんに会いに行きました。藤間さんは、衰退しつつある熱海の干物文化を次世代に残すため、伝統的な天日干しを核としながらも、魚種ごとに塩の種類や純米吟醸酒の使い方、漬け込み時間を分単位で調整する革新的な下処理を行っていました。これにより、単なる保存食であった干物を、「焼くだけでご馳走になる」レベルへと昇華させたのです。この取り組みは、海外のパネリストからも「文化を継承するために、社会のニーズを満たす美しい革新」として熱烈な支持を受けていました。(下写真もどうぞ)

さらに番組では、骨の多さに抵抗を感じる外国人や、安全性を求める子ども・高齢者のために開発された新たな試みとして、「骨まで食べられる養殖ニジマス」も紹介されました。餌の成分を工夫することで、骨を軟骨のように柔らかくしたのだそうです。このような工夫によって、これまで焼き魚に苦手意識を持っていた海外の方にも、この文化が広がっていくと良いですね。それでは、また。(上写真、下段もどうぞ)
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注1:NHK BS『COOL JAPAN 発掘!かっこいいニッポン』の特集「焼き魚」より