
落とし物の持ち主【拝啓文芸部】
駅までの道のりの途中、クマのぬいぐるみが落ちていた。私の手のひら位の大きさで首に白いリボンが巻かれていた。
幼い子供のものだろうか、それとも若者のカバンにたくさんぶら下がっているあの一つだったのだろうか。
幼少期に大好きだったタヌキのぬいぐるみを落としたことがある。まだ母の自転車の後ろに乗っていた頃だ。大きな橋を渡っている時にガタッと大きな振動が伝わったかと思ったらぬいぐるみは私の手から離れ見事に橋の下に落ちていった。
私は母に叫んでぬいぐるみが落ちたと伝えたが、母は少し止まって後ろを振り向き、少しため息をついてからまた走り始めた。私は泣き叫んだが、母は構わず走っていった。
あの橋を渡る時、今でもたまに思い出す。タヌタヌとの突然の別れだった。
このクマの持ち主はどうしているだろう。
落とした事に気付いているだろうか。
ここにあるよ、伝えてあげたい。
せめてと思い、ぬいぐるみを道の端のブロック塀の上に乗せた。持ち主が引き返して来るまで無事にいてくれよ。
帰り道、気になってブロック塀を見ると暗闇にまだクマはそこにいた。
次の日雨が降っていた。ブロック塀にクマはいなかった。
雨で流されてはいないかと周りを見回したが無かった。ひょっとすると持ち主以外の誰かが持っていったのかもしれないとも思った。
でも、持ち主が探しに来て見つけてくれたと信じたい。濡れたクマをドライヤーで乾かしている笑顔が浮かんだ。
