
涌蓋山からWAITAを湧かせろ
WAITAの聖地、涌蓋山で今年も祭りが始まった。
九州は熊本県と大分県の県境。かつて大雨が降り、雷が鳴り、大地が揺れたあと、数日のうちに山が湧き出したという伝説まで残っている。山とは、もっと時間をかけて完成するものだと思っていたが、涌蓋山は違う。思いついたら湧いたのである。
山麓には今年も、世界各国からWAITAたちが集まっていた。ナイジェリアから来た男が「WHAT AM I TALKING ABOUT?」と書かれたTシャツを着て歩き、ベトナムから来た学生たちは、巨大な盆栽を担いで山頂を目指している。少し離れた場所では、筋骨隆々の女性が松の枝を見つめながら鋏を握っていた。

昼を過ぎるころ、山を下りた人々は、そのまま麓に広がる「わいた温泉郷」へ流れ込んでいった。山から人が湧き、地面から湯気が湧き、浴衣姿の外国人たちが湧いてくる。道路脇では白い蒸気がもうもうと立ち昇り、その向こうから食欲を刺激する匂いまで漂ってきた。
温泉の蒸気で蒸された「地獄蒸しの鶏」を、世界各国のWAITAたちが無言でむしっている。さっきまで山頂で未来や文化や人生について語っていた人たちが、今は骨の周りに残った肉を前歯でこそげ取ることに集中していた。
僕も鶏をひと口かじった。皮はしっとりとして、噛めば肉汁がじわっと広がる。地獄という名前のわりに、かなり優しい味である。

その塩気を流すように、小国ジャージー牛乳をゴクリと飲み干した。隣ではナイジェリア人が腰に手を当てて瓶を傾け、その隣ではベトナム人学生も同じ格好をしていた。牛乳を飲む姿勢は、どうやら世界共通規格らしい。
温泉街を歩いていると、道端に木製の案内板が立っていた。
⬆️ 岳の湯
⬇️ 山川温泉
➡️ はげの湯

……はげの湯?
僕は一度通り過ぎ、五歩ほど進んでから、無言で引き返した。
案内板の指す右方向には、ただただ濃い湯気が立ち込めている。僕はそのまま湯気の向こうへ消えていった。
祭りの会場からは、まだ何やら歓声が聞こえている。風に乗って、「LOVE!」だの「PEACE!」だのという断片的な音を背中で受けながら、僕は湯に浸かった。
湯船から見上げると、涌蓋山の頂は白い湯気の向こうに霞んでいた。祭りの旗も、人影も、もう見えない。
僕は湯上がりにもう一本、小国ジャージー牛乳を買った。
遠くで「WHAT AM I TALKING ABOUT?」の声がこだましている。
僕は腰に手を当て、涌蓋山へ向けて瓶を掲げ、そのまま最後の一滴まで飲み干した。
♨️ あとがき
詳しくは、山本蛇内さんの記事へ。
なお、読んでも「 #なんのはなしですか 」です(笑)
ついでに、ゆりゆりこさんの「#あの名作の書き手を・・らせろ」企画にも便乗します❣️
「✴︎1800…♾️✴︎」
ゆりゆりこさんの大人の色気を感じれる、素敵なエッセイです⌚️✨
コニシ木の子さん、連日の回収ありがとうざいました🍄