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雨やどり 

    ☔雨の日のちょっと昭和っぽいラブコメです☔


    神様なんて、信じていない。

    だいたい神様が本当にいるなら、湿気であたしの前髪を「すだれ」状態にはしないはずだ。
    朝、三十分かけて整えたのに、駅に着くころにはもう、べったり。
    おろしたての白いブラウスも、雨粒を吸ってじんわり肌に張り付いている。

    絶対、天気の神様って性格が悪い。



    空が光った次の瞬間、バケツをひっくり返したみたいな雨が降ってきた。

    あたしは悲鳴を飲み込みながら駅前の軒下へ駆け込む。
    パンプスが滑って危うく転びかけた。

    その軒下には、先客が二組いた。

    ランドセルを濡らした小学生の二人組は「お前のランドセル、浸水してんぞ!」なんて騒ぎながら雨宿りをしている。

    反対隣には、サイドをビシッと刈り上げたツーブロック。
    濡れても崩れない黒髪。
    たぶん高いやつだろうなってわかる紺色のスーツ。

    ……なのに、びしょ濡れだった。

    シャツが雨と汗で肌に張り付いている。
    本来なら「うわ、ベタついてそう」
    で終わるはずなのに。

    その人が腕時計を見るたび、
    なぜか爽やかな洗剤のCMみたいな空気が漂う。

    なにこれ。
    マイナスイオンでも出てる?

    彼は何度も時計を確認して、落ち着きなく雨空を見上げている。

    あ、これ。
    漫画でよくある「大事な会議に遅れそうな主人公」のやつだ。

    しかもたぶん、部下に優しいタイプ。

    あたしは勝手に脳内設定を盛り始めた。

    その時、彼と目が合った。

    「あっ……」

    しまった。
    なんか見てたのバレた。

    あたしは誤魔化すようにカバンを漁る。
    出てきたのは、さっき駅ビルで買ったばかりのハンカチだった。

    白。
    レース付き。
    まだ値札シールも剥がしていない。

    いや、待って。

    なぜ。

    なんでこれを今出した?


    でも、次の瞬間にはもう口が勝手に動いていた。

    「あの! これ、よかったら!」

    勢い余って、彼の鼻先にハンカチを突きつけてしまう。

    うわ。
    変な女。

    絶対いま、「なんだこいつ」って思われた。

    終わった。
    社会的に終わったぁ~。

    しかし。

    「えっ? あ、ありがとうございます!」

    彼は顔をぱあっと輝かせた。

    ニコォォッ!という効果音が見えそうなくらい、満面の笑みだった。

    その瞬間。

    (キラリン✨)

    見えた。

    👀!

    綺麗に並んだ白い前歯。
    その奥。
    左へ四本目。

    銀歯。

    照明を反射して、そこだけが妙に眩しく光った。

    ツーブロック。
    高そうなスーツ。
    爽やか笑顔。

    そして銀歯。

    なんだろう、この急激な親しみやすさ。

    完璧超人かと思ったのに、急に「人間」が混ざった感じ。


    心臓が、バックン!と跳ねた。

    神様。

    さっきはごめんなさい。
    撤回します。
    銀歯の神様、一生ついていきます。



    「急ぐので失礼します! これ、絶対返しますから!」

    彼はそう言うと、ハンカチをバサッと広げた。

    あたしは一瞬、「あ、顔を拭くんだ」と思った。

    違った。

    彼はその純白のハンカチを、自分の頭にポンと乗せた。

    そして。

    そのまま雨の中へ猛ダッシュ。

    「えっ」

    待って。
    それ、三歩で貫通するよ?

    白いハンカチは即座に雨を吸い、彼の頭にぺったり貼り付いていた。

    なのに彼は気にする様子もなく、全力で交差点を駆け抜けていく。

    真っ白な布をなびかせながら。

    なんかもう、ちょっとしたお祭りだった。

    あたしは呆然と、その後ろ姿を見送る。



    雨の向こうへ消えていく背中。
    そして脳裏に焼き付いた、左四本目の輝き。

    「……あ」

    ぽつりと声が漏れた。

    「傘の方が、よかったかしら」

    でも、もし傘を貸していたら。

    彼はただの「スマートな人」で終わっていた気がする。

    雨粒を弾く白いハンカチ。
    爽やかな笑顔。
    そして、あの銀歯。

    それを思い出した瞬間、あたしは吹き出した。

    軒下で一人、にやにやしながら両手を合わせる。

    「神様、お願いです」

    雨音がアスファルトを叩く。

    「もう一度だけ……」

    左四本目を。

    「……じゃなくて、彼に!」

    危ない危ない。
    危うく銀歯そのものを召喚するところだった。

    「逢わせてちょうだいませ」

    思わず口をついて出た、自分でも謎な言葉遣い。
    すると、隣にいた小学生二人が、同時に私の方を振り返った。

    「ませ?」
    「ませ?」

    二人はシンクロして首をひねり、怪訝そうな顔で私を見ている。
    ……あ。  聞こえてた。

    天気の神様は性格が悪い。

    でもまあ。

    たまには、悪くないか。


    おしまい


    ※このお話は、さだまさしさんの名曲「雨やどり」に影響を受けています。

    昭和のかわいいドジが詰まった、楽しい曲です。
    雨の日にぜひ。
    ませませも(笑)

     
     
    笑わせるつもりが、泣かせてしまう。 泣かせるつもりが、笑わせてしまう。 そんな物語を書いています。 結末の、その先はあなたへ。

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