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[詩]これはつくりかけのスープです

    これは
    つくりかけの
    スープです
    本当は
    ここに
    スパイスを
    もう三種類か
    四種類
    具材もあと
    二種類か
    三種類
    それから
    火を止めて
    冷ましたり
    火にかけて
    温めたり
    ざるで
    漉したり
    そういうことを
    しないと
    完成しないのですが
    見てのとおり
    これは
    つくりかけの
    スープです
    わたしは途中で
    このスープを
    最後まで
    完成させる
    気力を
    失いました
    わたしは
    呆然とするでもなく
    悔やむでもなく
    怒るでもなく
    悲しむでもなく
    ただ
    つくりかけの
    スープが
    鍋の中で
    冷えて
    固まっていくのを
    ぼんやりと
    眺めています
    なんで
    この料理を
    つくりはじめたころは
    あんなにも
    やる気に
    満ちていたのだろう
    なんで
    これを
    つくりはじめてからは
    みるみるうちに
    やる気が
    失われていったのだろう
    ああ
    もう
    こんなもの
    見るのもいやだ
    見るのもいやだ
    いろが変わった
    ニンジンの欠片が
    スープの表面に
    浮いている
    他の具材は
    底に沈んでいる

    これは
    つくりかけの
    小説です
    本当は
    ここからさらに
    登場人物を
    もう一人加え
    エピソードも
    追加して
    終盤に向けて
    伏線を張り
    それから
    気の利いた
    哲学や
    人間観察や
    価値観や
    登場人物の生い立ちや
    死にざまなどを
    どんどん
    書き加えていかないと
    完成しないのですが
    見てのとおり
    これは
    つくりかけの
    小説です
    わたしは途中で
    この小説を
    最後まで
    完成させる
    気力を
    失いました
    わたしは
    知能を振り絞るのでもなく
    うろうろ歩き回るのでもなく
    泣き叫ぶのでもなく
    諦めるのでもなく
    ただ
    つくりかけの
    小説が
    頭の中で
    魅力を失って
    バラバラになっていくのを
    ぼんやりと
    眺めています
    なんで
    この小説を
    書きはじめたころは
    あんなにも
    気力に
    満ちていたのだろう
    なんで
    これを
    書きはじめてからは
    みるみるうちに
    気力が
    失われていったのだろう
    ああ
    もう
    こんなもの
    見るのもいやだ
    見るのもいやだ
    巨大な星が
    落ちてきて
    大地を大きく
    震わせた
    最後の文は
    これで終わっている

    これは
    つくりかけの
    建物です
    本当は
    ここからさらに
    配管を
    張りめぐらせ
    柱も
    もう何本かたて
    配線も
    行わねばならず
    それから
    床をはったり
    屋根をふいたり
    断熱材や
    タイルや
    外構や
    あと塀を塗ったりと
    どんどん
    手を加えていかないと
    完成しないのですが
    見てのとおり
    これは
    つくりかけの
    建物です
    わたしは途中で
    この建物を
    最後まで
    完成させる
    気力を
    失いました
    わたしは
    材料をかき集めるのでもなく
    資金をかき集めるのでもなく
    人をかき集めるのでもなく
    助けを求めるのでもなく
    ただ
    つくりかけの
    建物が
    野晒しにされて
    風雨を浴びて
    ボロボロになっていくのを
    ぼんやりと
    眺めています
    なんで
    この建物を
    建てはじめたころは
    あんなにも
    気力に
    満ちていたのだろう
    なんで
    これを
    建てはじめてからは
    みるみるうちに
    気力が
    失われていったのだろう
    ああ
    もう
    こんなもの
    見るのもいやだ
    見るのもいやだ
    大きな生物の
    骸骨のように
    柱が曲がって
    立っている
    骸にたかる
    虫すらいない

    これは
    つくりかけの
    国家です
    本当は
    ここからさらに
    法律を作り
    学校を建て
    市場とか
    道路とか
    役所とかも
    用意しなければならず
    それから
    文化をはぐくんだり
    伝統を打ち出したり
    祝日とか
    祝祭とか
    あとは軍隊も用意して
    兵を鍛えるなど
    どんどん
    国家に必要なものを
    加えなければならないのに
    見てのとおり
    これは
    つくりかけの
    国家です
    わたしは途中で
    この国家を
    最後まで
    完成させる
    気力を
    失いました
    わたしは
    鼓舞するのでもなく
    導くのでもなく
    罰して脅すのでもなく
    恩恵を施すのでもなく
    ただ
    つくりかけの
    国家が
    放置されて
    ありとあらゆる
    悪と不善と犯罪が跋扈するのを
    ぼんやりと
    眺めています
    なんで
    この国家を
    つくりはじめたころは
    あんなにも
    気力に
    満ちていたのだろう
    なんで
    これを
    つくりはじめてからは
    みるみるうちに
    気力が
    失われていったのだろう
    ああ
    もう
    こんなもの
    見るのもいやだ
    見るのもいやだ
    巨大な生き物に
    無数の寄生虫が
    巣食っていて
    その寄生虫は
    ほかでもない
    この私が引き寄せた

    これは
    つくりかけの
    世界です
    本当は
    ここからさらに
    宇宙をつくり
    銀河をつくり
    恒星とか
    惑星とか
    いのちとか
    物理法則とか
    それから
    ものを感じて
    こころをもつ生き物
    運命とか宿命
    自由意志
    さみしさ
    せつなさ
    そのほか無数の
    世界に必要なものを
    用意しなければならないのに
    見てのとおり
    これは
    つくりかけの
    世界です
    わたしは途中で
    この世界を
    最後まで
    完成させる
    気力を
    失いました
    わたしは
    慈しむのでもなく
    愛するのでもなく
    育てるのでもなく
    興味を持つのでもなく
    ただ
    つくりかけの
    世界が
    放置されて
    さながら虫食いだらけの葉が
    激流に飲まれるような光景を
    ぼんやりと
    眺めています
    なんで
    この世界を
    つくりはじめたころは
    あんなにも
    気力に
    満ちていたのだろう
    なんで
    これを
    つくりはじめてからは
    みるみるうちに
    気力が
    失われていったのだろう
    ああ
    もう
    こんなもの
    見るのもいやだ
    見るのもいやだ
    世界には
    数えきれないほどの
    いのちが芽吹きつつあって
    生まれたい
    生まれたいと
    盛んに声をあげているのに

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