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[詩]海がくれるもの

    おれが
    原始人だったころ
    おれは
    海の近くに
    住んでいて
    毎日
    海に行っては
    獲物をとっていた
    海は
    穏やかな時もあれば
    不機嫌な時もあり
    泣いている時もあれば
    怒り狂っている時もあった
    そして
    穏やかな時にしか
    得られない獲物があれば
    不機嫌な時にしか
    得られない獲物もあり
    それは
    泣いている時も
    怒り狂っている時も
    同じだった
    海は
    青い時もあれば
    赤い時もあり
    緑の時もあれば
    紫の時もあった
    おれはそのころ
    まだ原始人だったから
    海洋学の知識も
    気象学の知識もなく
    したがって
    海の機嫌の良し悪しや
    海の色が
    何を意味しているのか
    その理由や
    原因などは
    まったくわからなかったが
    それでもおれは
    経験豊富な
    原始人の漁師として
    どういう獲物が得られるかは
    よく知っていた
    貝は
    穏やかな海で
    よくとれた
    巻貝に
    二枚貝
    ツノみたいな貝に
    ひらべったい貝
    色とりどりで
    味もうまいが
    ときどき
    毒を持っている
    煮るとうまくて
    身もスープも
    ご馳走だった
    それは海の味だった
    貝をとるまえに
    原始人のおれは
    いつも
    穏やかな海に向かって
    はなしかけた
    おい
    海よ
    今日は
    貝をとっても
    良いのかね
    お前は
    貝を
    おれに
    くれるのかね
    穏やかな海は
    おれに向かって
    こう答える
    いいわ
    あなたに
    貝を
    あげましょう
    でも
    助けてくれと
    頼む貝がいたら
    とらないで
    やってね
    そしておれは
    貝を拾い始める
    たいていの貝は
    おとなしいもので
    おれに拾われても
    文句ひとつ言わないが
    たまに
    命乞いしてくる
    貝がいる
    助けて
    ぼくはまだ
    こうして海で
    楽しくして
    生きていたい
    おれは
    貝を助けてやる
    楽しく生きろよ
    そういって
    そっと海にもどしてやる
    貝はいつでも
    多く手に入ったが
    多すぎるほど
    手に入ったことはなかった
    原始人のおれは
    それで心から
    満足していた
    カニは
    海が不機嫌な時に
    よくとれた
    ハサミの大きなカニ
    ちょこまか動くカニ
    あまり動かないカニ
    堂々としているカニ
    カニは茹でないと
    おいしくなかったが
    茹でると
    このうえもなくうまかった
    カニをとるまえに
    原始人のおれは
    いつも
    不機嫌な海に向かって
    はなしかけた
    おい
    海よ
    今日は
    カニをとっても
    良いのかね
    お前は
    カニを
    おれに
    くれるのかね
    不機嫌な海は
    おれに向かって
    こう答える
    ほしいというなら
    くれてやる
    とりたければ
    とれば良い
    おまえが
    なにをしようと
    私の知ったことか
    でも
    助けてくれと
    頼むカニがいたら
    決してとるな
    そしておれは
    カニを集める
    不機嫌な海は
    暗くて
    波は荒々しくて
    おれのからだに
    しぶきがかかる
    カニたちは
    逃げたり
    逃げなかったり
    穴に潜ったり
    岩の隙間に
    入ったりする
    おれが捕まえると
    たいていのカニは
    おとなしく
    捕まったままだったが
    たまに
    命乞いしてくる
    カニがいる
    助けて
    ぼくはまだ
    こうして海で
    面白おかしく
    暮らしていたい
    おれは
    カニを助けてやる
    面白おかしく
    暮らすんだぞ
    そういって
    そっと海にもどしてやる
    カニはいつでも
    多く手に入ったが
    多すぎるほど
    手に入ったことはなかった
    原始人のおれは
    それで心から
    満足していた
    魚は
    いつでもとるのが
    大変だった
    大きな魚に
    細長い魚
    うろこのない魚に
    銀色に輝く魚
    焼くとうまいし
    煮てもうまいし
    骨と皮は
    道具にすることができる
    ふだんは素早い
    魚たちだが
    海が泣いている時ならば
    なんとか銛で
    捕まえられた
    魚をとるまえに
    原始人のおれは
    いつも
    泣いている海に向かって
    はなしかけた
    おい
    海よ
    今日は
    魚をとっても
    お前は
    魚を
    おれに
    くれるのかね
    良いのかね
    泣いている海は
    おれに向かって
    こう答える
    話しかけないで
    わたし
    とっても
    悲しいの
    わたしに
    話しかけないで
    くれるなら
    魚をとっても
    いいわ
    あなたに
    魚を
    くれてやります
    でも
    助けてくれと
    頼む魚がいたら
    どうか
    とらないであげて
    そしておれは
    魚を狙いはじめる
    海は真っ暗で
    しとしとと雨が降っている
    波は立っていなくて
    おれは海に潜る
    たいていの魚は
    海の中で
    泣いている海のために
    じっとして
    心を痛めている
    おれが近づいて
    銛を構えると
    たいていの魚は
    興味のなさそうに
    おれを見るだけだったが
    たまに
    命乞いしてくる
    魚がいる
    助けて
    ぼくはまだ
    こうして海で
    悲しみに
    暮れていたい
    おれは
    魚を助けてやる
    悲しんでおけよ
    そういって
    そっと銛の狙いを
    外してやる
    魚はいつでも
    必要なだけ
    手に入ったが
    必要以上に
    手に入ったことはなかった
    原始人のおれは
    それで心から
    満足していた
    海が
    怒り狂っている時は
    決して
    近づいてはならない
    波は
    巨大で
    生まれては
    砕け
    寄せては
    崩れる
    空には
    稲光と
    雷鳴
    海の上には
    竜巻と
    暴風
    こういう時には
    近づいてはならない
    それでも
    原始人のおれは
    ある日
    どうしても
    怒り狂った海で
    どんなものが
    とれるのかを
    知りたくなって
    ひとりで海に
    来てしまった
    猛烈な風が
    大きな雨粒を
    おれに打ちつけて
    空には
    風と雷の
    轟音が満ちている
    こういう時には
    見たこともない
    すばらしい獲物が
    手に入るのではないか
    おれは
    そんなことを思って
    身を震わせた
    なにせ
    おれと海との
    付き合いは
    もう何十年にも
    なっている
    海もきっと
    おれにだけは
    特別な獲物を
    教えてくれるだろう
    おれは
    期待して
    怒り狂う海に
    話しかけた
    おい
    海よ
    今のお前は
    いったいなにを
    おれに
    くれるのだね
    その瞬間
    海は
    猛獣の叫びのような
    こどもの癇癪のような
    男の悲鳴のような
    女のささやきのような
    鳥の鳴き声のような
    岩が落ちるような
    地面が割れるような
    いろんな音をあげて
    原始人のおれを
    巨大な波で
    つかまえて
    そのまま
    海にひきずりこんでしまった
    そして
    原始人のおれは
    命をうしなった
    というより
    おれのほうが
    命を海に
    くれてやったのだが
    いつも海から
    もらっていたのだから
    おれが海に
    命をくれてやるのも
    フェアといえば
    フェアだった
    そういうわけで
    現在を生きる
    今のおれも
    海が穏やかな時には
    貝をとり
    海が不機嫌な時には
    カニを追い
    海が泣いている時には
    魚をとって
    海が怒り狂っている時には
    決して海に
    近づかないようにしている
    なにせおれは
    まだ
    楽しく
    面白おかしく
    悲しみに暮れて
    生きていたいからだ

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