メインコンテンツへスキップ

サンタに扮した不審者によって危害を加えられた話

    バイト先に行くと「先程までここにサンタが居ましたが、突然砂になりました」というようにサンタの衣類と髭が並べられていた。

    幼児親子がクリスマスイベントを開催しているが、サンタ役が来れず代役を頼まれたようであった。職員は急ぎの書類で多忙な為、私がサンタに扮する事となった。

    皆の「サンタさーん」と呼ぶ声を合図に私は襖を開き登場する予定であった。
    しかし、立て付けが悪く開かず、ガタガタと不穏な予兆を持たせた後に、襖は凄い勢いで開いた。それと同時に餓鬼の様に腹の出た赤い不審人物の姿が露わとなった。
    サンタのお出ましである。
    ホラー映画の一幕の様であった。
    不穏なご登場に子供達が真顔になった為、挽回すべく「ホッホォ、メリークリスマス!」などと言い盛り上げようと私は口を開いた。

    「ンホォ、メリィクリスマサァ……」

    不気味な物言いになってしまった。

    発音にネイティブさを求めた結果、最後が吐息交じりとなり、不審者感がより加速してしまった。
    声色は汚いグーフィーを想像して頂ければ良いだろう。
    サンタを呼んだはずであるのに、途中で進化が枝分かれした似て非なる生き物が来てしまった。
    子供達は人に慣れていない野良猫の距離を保ち、その間合いを詰める事はなかった。

    そんな中、子供達からサンタへの質疑応答の時間が始まった。
    しかし、子供達は警戒している為か、質問は母親を介して投げかけられた。
    「乗ってきたソリはどこですか?」などと問われたが、私はこの手のアドリブは大変苦手である。
    懸命に考え夢のある返答を心がけたが
    「月極駐車場に、停めてあるよぉ……」
    などと妙に現実味のある答えになってしまった。
    道路交通法を考慮した事が裏目に出た。

    喉への負荷により、私のサンタボイスは徐々に汚いグーフィーから乾燥地帯に棲まうIKKOさんへと変貌していった。
    子供たちとは対極に母親達は皆口を歪ませ震えている。

    質疑応答の後、あわてんぼうのサンタクロースの歌に合わせ皆で踊るというアクシデントが私を襲った。
    事前に聞いていなかったため心の準備ができなかった事と、持ち前の乏しいダンススキルが重なり、私は「不気味な赤いおっさん」から「呪われた動きで腹を揺らす不気味な赤いおっさん」へと嫌な進化を遂げた。

    ダンス中、サンタの腹からバサッと音を立てて何かが落ちた。
    先程少しでもそれらしく見せる為に、職員が私の腹に詰め込んだバザー売れ残りの子供服が落ちてしまった。
    途端にサンタが民家に入り込み盗んだ子供達の服が腹から落ちたような雰囲気が漂った。
    今夜は鈴の音に代わりサイレンが鳴り響く事だろう。

    子供服を拾い懐に戻したが、皆に背を向け首元から入れた為にサンタの子供服捕食シーンがクリスマス会で御公開された。
    場が騒ついたので、途中から正面を向き腰を屈めて上着の下から入れたが、それはそれで犯行の一部始終の再現VTRのようになり詰んだ。

    その最中、目の前にいた親子と目があった。
    我々の間に緊張が走ったので場を和ませようと私はサンタらしく微笑み掛けた。
    「ンホォ……」
    幼児は逃げだした。
    母親はもう踊りどころではない。
    呼吸の危機を迎えていた。
    状況からして犯行を目撃した相手を次のターゲットとしてロックオンした際の笑顔に見えなくもない。
    あわてんぼうのシリアルキラーの誕生である。

    ふと、扉の方を見ると職員が心底楽しそうにこちらを見ていた。
    急ぎの書類とやらはどうしたのだろうか。

    【余談】
    この職員は鈴で威嚇すると去っていった。

    因みに「あわてんぼう」と、入力しようとしたところ「淡天坊」と変換された。
    黄昏時に現れる妖怪だろうか。

    文字変換ですらもサンタに扮する才能がないので次回からは万が一に頼まれたとしても謹んで御辞退申し上げようかと思ったが、奇妙な事にこの次の年も私はサンタに扮する事となった。


    あなたへのおすすめ