
未開封の段ボール│ショートショート
AIが生活を管理するようになった。必要なものは段ボールで送られてくる。人が指示する必要はない。常時計測しているデータをもとに必要な物品が選定されているからだ。
他人と会うのは画面越しや電脳空間が主で、外に出ることは少なくなった。私はもう何年も外の世界を見ていない。
しばらくは何も届かなくても生活ができると思うのだが、今日もAIは段ボールを寄こしてきた。
部屋の隅には、すでに開封された段ボールが並ぶ。飲料、食料、日用品、医薬品などを別けて段ボールに入れている。
届いたものはすべて使いきらなければならないのだが、私は不安もあって節約していた。水が届いたら、足りなくなったら困るからと1本残す。缶詰が届いたら、何か起こるかもしれないと1個残す。そんな風に生活をしていたら、部屋の隅が段ボールに占領されてしまった。
そういえば今日の段ボールはやけに軽かったような気がする。こういうときは、大抵、薬などの軽いものが入っているのだ。
特に困っていることのない私は、届いた段ボールをそのまま開封されている段ボールの横に置いた。
AIも送る量を少なくしても良いと判断したのかもしれない。
次の日、段ボールは届かなかった。
備蓄があるから不要だと判断したのかもしれない。私はすぐに段ボールのことなど忘れて、いつも通りの生活に戻っていた。
だが、段ボールが届かなかったのは、その1日だけではなかった。次の日も、またその次の日も。段ボールが届かなくなってから1週間が経とうとしていた。
備蓄も少なくなり、余裕よりも不安の方が大きくなっていた私は、生活管理AIを呼び出した。
「おい、どうして段ボールを送ってくるのを止めているんだ」
「これは適切な判断の結果です」
「私にはまだ段ボールは必要ないっていうのか」
「ワタシは最適な選定を行っています」
生活管理AIでは話にならない。
生活管理センターに尋ねるしかないと思い、連絡をしてみるが繋がらない。
「こちらは生活管理センターです。届いた段ボールはすべて開封してください。不要な物資があった場合は速やかに破棄してください。困りごとは生活管理AI――」
「私は人と話したいんだ」
ただ繰り返し流れる自動音声に怒鳴りつけた。
「あなたは冷静さを欠いています。落ち着いてください」
生活管理AIがいさめようとするが、今の私には逆効果だ。
「うるさい。役立たずは黙ってろ」
静まり返った部屋の中、気持ちを整理しようと歩き回っていると、部屋の隅にある段ボールのひとつに足をぶつけた。
足は痛くなかったが、音に驚いて思わず下を見た。
勢いよく床を滑ったのは、いつかの未開封の段ボールだった。
脳内で、先ほどの自動音声が流れる。
『届いた段ボールはすべて開封してください』
そうだ。この段ボールの存在を忘れていた。
私は蹴られてへこんだ段ボールを抱えると、テープをはがして開封した。
開けてみると、中には封筒が1つ。封筒には何も書かれていない。
封筒の中を覗いてみると、便箋が1枚入っていたので、取り出してみる。
『あなたは必要ない人間として処理されました』
便箋には、それだけが書かれていた。
お題は「未開封の段ボール」でした。
読んでいただきありがとうございました。