
落とし物の持ち主|拝啓文芸部
窓を開けると、壁に掛けていたカレンダーはばさばさと音を立て始め、棚の上の物を荒らし始めた。
僕は慌てて窓を閉め、棚から落ちてしまった物を拾う。
まず拾ったのは、ウサギのキーホルダー。
茶色の体で、目が赤くなっていて可愛らしい。
これは付き合う前に、彼女がガチャガチャで被ったからと僕にくれた物だ。
100円玉を何枚も握りしめ、白くて青い目をした子が欲しいんだと言って、何度も何度も回していた。
僕はその光景を隣でずっと微笑ましく見ていたのを覚えている。
次に拾ったのは、片方だけのイヤリング。
落ちた拍子でなのか、グレーの石は少し欠けてしまっていた。
彼女は一緒に出掛ける日、決まってこのイヤリングをつけてきた。
最後に会った日もつけていたが、帰る直前に落としてしまったと少し悲しそうな顔をしていた。
僕も一緒になって探していたが、結局帰る時間が迫っていたせいで見つけることはできなかった。
帰り道、彼女はいつになく元気がなかったのを覚えている。
あのとき、どんなに時間がかかっても探し出せば良かった。
棚上に戻そうと立ち上がると、飾ってあった写真立てはどれも倒れていて、左から順番に立て直し始めた。
これは遊園地に行ったとき、これは付き合った日のデート、これは旅行で海に行ったとき———
写真の中の彼女と僕は、世界中の誰よりも幸せそうな笑顔で写っている。
棚上のものは全て彼女にまつわる物で、それらに関係する出来事はまるで昨日のように鮮明に思い出すことができた。
ふと視線を上げると、カレンダーは風の勢いのせいで少しだけ根本が破れていた。
ある日付だけ赤い丸がついていて、でかでかと「記念日!」と書かれている。
ちょうど一年前の今日。
それは、彼女の命日でもあった。
拾った物を写真立ての横に並べ、元通りに飾り付ける。
元はといえば全て彼女の物だった。
しかし今この部屋は僕だけの部屋になり、彼女の物はそのままにしてある。
いや、そのままにすることしか出来なかった。
彼女は遺していったのではなく、敢えてここに落としていったのだろう。
この物たちも、そして僕も。
そう考える方がずっと楽だった。
「いっそのこと全て持って行ってくれれば良かったのに」
カレンダーの端が微かに揺れた気がした。
参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。