
嘘|拝啓文芸部
拝啓。
元気にやっていますか。たぶん、やっているのでしょう。何も知らずに。
あなたは、信じていましたね。
「努力は、必ず、報われる」
「正直者は、損をしない」
「いい人でいれば、いつか、幸せになれる」
——今だから言います。どれも、本当は、嘘でした。
努力しても、報われないことは、山ほど、あります。正直者が馬鹿を見ることも。いい人ほど、都合よく使われることも。
だから、あなたに、教えてあげたい。
「世の中は、そんなに、甘くない」と。
*
——でも。
やめておきます。この手紙は出しません。
だって、その嘘を信じていなかったら
あなたはきっと、あんなに頑張らなかった。
報われないと知っていたら、努力なんてしなかった。損をすると知っていたら、正直になんて、いられなかった。
あなたは、嘘を信じていた。
だから走れた。まっすぐに。転んでも、また立ち上がって。
回り道も、たくさん、したけれど。
*
私は、あんな嘘を、信じてはいません。
大人になって、世の中を少しは知りました。
それでも、時々、思うのです。
賢くなった私と、何も知らずに、まっすぐだった、あなたと。
——どちらが、幸せなのだろう、と。
*
だから、これだけは、言わせてください。
あの嘘を、信じていてくれて、ありがとう。
今度は、私が、信じる番です。
——まだ、報われる、と。
かつてのあなたが、信じたように。
敬具
十五年前の私へ
いいえ、今の私へ
Mr.Qさんの企画に参加します。
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