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引退後の日々|風まかせ文芸部|今週の三題噺

    引退したら、どうしようか。
    スポーツ選手でなくとも、誰もが一度は考える問いだろう。

    長嶋茂雄氏は1974年、38歳で引退した。「私はきょう引退をいたしますが、わが巨人軍は永久に不滅です」と語った。イチロー氏は2019年、45歳で引退。現役ラストゲーム後の会見で「後悔はあるか」と問われ、「後悔などあろうはずがない」と答えた。
    宮本武蔵の『独行道』にも「我事において後悔せず」とある。時代が変わっても、自分の歩んだ道への覚悟は変わらない。

    そのイチロー氏が先日、高校生との対話で興味深いことを語っている。

    「うまくいかない時は平均的な自分に合わせていく。落ちた時には『上』を見ちゃだめ」と。
    一旦自分を見失うと取り戻すことがどれほど大変かを思い知らされる言葉だ。

    さて、現代の引退後の選択肢は格段に広がった。以前なら「趣味に生きる」が一つの答えだったが、その趣味自体が随分と多様化している。お金の余裕さえあれば、本当に何でもできる時代だ。

    経済的な不安があるなら、毎日投稿という手もある。noteでもSNSでも。朝の卵かけご飯を写真に撮り、日々の雑感を綴れば良い。自分が好きなこと、得意なこと、あるいは興味があること。ネット上には際限ない可能性が広がっている。

    ただし、これには歴史がある。『インターネットは空っぽの洞窟』というベストセラー(1997年)は「インターネットできずば人にあらず…という風潮に真っ向から批判を加えた話題の本」と書評にある。ジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』(1984年)は既に未来への警鐘を鳴らしていた。2000年を基準とすれば25年後の今年、当時多くの人が待ち望んでいたAIやWebは現実となった。その一方で、私たちはこうしたテクノロジーにどれほど振り回されていることか。

    自分が引退する時、この環境はどう変わっているだろう。

    …と考えかけて気づいた。「引退」の意味そのものが変わっている。人生から引退するその日まで「生涯現役」は、もはや夢物語ではない。

    むしろ、そうでなければ生きていけない時代になったのかもしれない。

    問題は、それが解放なのか、束縛なのかということだ。





    二つの素敵な企画に参加させていただきます。

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