
なぜ通常の家族再統合療法は片親疎外で機能しないのか|Dr. Millerの25の理由
通常のセラピーが機能しない理由
この記事は、主にアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど、離婚手続きの中で家族再統合療法(Reunification Therapy)が行われる国で、片親疎外の問題に直面している標的親の方に向けて書いています。
片親疎外のケースでは、一般的な家族再統合セラピーは十分に機能しないどころか、子どもの標的親への拒絶をさらに強め、状況を悪化させてしまうことがあります。
さらに深刻なのは、その「セラピーがうまくいかなかった」という結果自体を疎外親が利用し、「親子関係は修復不能である」という印象を裁判所に与えることで、親子の断絶が法的に固定化されてしまうケースがあることです。
私自身も、まさにその経験をアメリカでしました。
では、なぜ通常のセラピーは機能せず、片親疎外をさらに悪化させるのでしょうか?
その理由を、Dr. Millerは「通常の家族再統合療法が片親疎外で機能しない25の理由」として体系的に整理しています。
この記事では、その25のポイントを紹介するとともに、私自身の経験も交えながら、「なぜ通常の家族再統合療法が片親疎外では機能しないのか」を分かりやすく解説します。
この記事を読んでほしい方
海外で家族再統合療法(Reunification Therapy)を受ける方・検討している方・裁判所から命じられた方へ
この記事は、主に海外で家族再統合療法(Reunification Therapy)や、親子関係の修復を目的としたセラピーを受けている方、受けることを検討している方、あるいは裁判所から受けるよう命じられた方に向けて書いています。
片親疎外の状況で、子どもとの関係を回復するためにセラピーを受けているにもかかわらず、なぜか状況が改善しない。むしろ、子どもの拒絶が強くなっている。セラピーの場で、標的親だけが問題のある親のように扱われている。すでにそのような経験をされている方もいると思います。
私自身も、ここで紹介する内容と非常によく似た経験をしました。
この記事では、Dr. Millerが説明している「なぜ通常の家族再統合療法は片親疎外ではうまく機能しないのか」という考え方をもとに、その背景と構造を整理して紹介します。
片親疎外について学びたい方へ
日本では、家族再統合療法そのものはまだ一般的ではありません。
それでも、家庭裁判所調査官、弁護士、支援者、親子交流に関わる専門職の対応を考えるうえで、ここで紹介する内容は参考になる部分が多いと考えています。
なぜなら、片親疎外で問題となるのは、セラピーという形式そのものではなく、その前提となる考え方だからです。
例えば、
子どもの発言をどこまで自由意思として扱うのか。
拒絶している子どもに、どのように向き合うのか。
「中立」とは何を意味するのか。
親子関係の回復を、誰の責任として考えるのか。
こうした問いは、日本の離婚・親子交流・家庭裁判所の実務にも深く関わっています。
そのため、海外で家族再統合療法に直面している方だけでなく、日本で片親疎外について学びたい方にも、海外の専門家の考え方を知るための基礎資料として読んでいただければ幸いです。
通常の家族再統合療法が機能しないことは、以前から指摘されている
「通常の家族再統合療法は、片親疎外では機能しないどころか、状況を悪化させることがある。」
海外では30年以上前から、片親疎外のケースでは一般的な家族療法やカウンセリングが十分な効果を示さず、場合によっては子どもの拒絶をさらに固定化してしまうことが、複数の研究者や臨床家によって指摘されてきました。
実際、Dr. Millerが紹介している「通常の家族再統合療法が片親疎外で機能しない25の理由」も、このような研究や臨床経験の積み重ねを背景としてまとめられたものです。
以下は、その代表的な文献の一部です。
主な参考文献
‘We have added 300 new cases to our original sample of 700, for a total of 1000 cases (...) Our research continues to confirm that, even under court order, traditional therapies are of little, if any, benefit in regard to treating this form of child abuse.’
Clawar, S. S. & Rivlin, B. V. (2013). Children held hostage: Identifying brainwashed children, presenting a case, and crafting solutions (2nd Edition). Chicago, IL: American Bar Association.
‘In separation and divorce cases where a child is severely alienated from a once loved parent, traditional therapeutic approaches grossly fail.’
Reay, K. M. (2015). Family Reflections: A promising therapeutic program designed to treat severely alienated children and their family system. The American Journal of Family Therapy, 1–11, 197-207.
‘Traditional therapies and interventions are not successful in rehabilitating children affected by [parental alienation].’
Dunne, J. & Hedrick, M. (1994). The parental alienation syndrome: An analysis of sixteen selected cases. Journal Of Divorce & Remarriage, 21, pp. 21-38.
‘Therapy in more severe cases, which may include some moderate cases, may be associated with the alienation becoming more entrenched.’
Fidler, B. J., Bala, N., & Saini, M. A. (2013). Children who resist postseparation parental contact: A differential approach for legal and mental health professionals. New York, NY: Oxford University Press.
‘Therapists who insist on a trial of conventional therapy (e.g., to ‘see for myself’) are exceedingly unlikely to succeed (…) such an approach is worse than worthless because while the therapist provides futile treatment, the child, already injured, is deprived of effective intervention–including protection.’
Miller, S. G. (2013). Clinical reasoning and decision-making in cases of child alignment: Diagnostic and therapeutic issues. In A. J. L. Baker & S. R. Sauber (Eds.). Working with alienated families: A clinical guidebook (pp. 8–46). New York, NY: Routledge.
‘Traditional therapies invariably lead to calamitous results: the alienation deepens, and when the therapy fails, the targeted/alienated parent is blamed: after all, it is claimed that, even with the benefit of therapy, the relationship between the rejected parent and child was not restored.’
Gottlieb, L. J. (2017). Amicus brief discussing effective treatment for parental alienation or for a severed parent-child relationship.
‘Cases involving allegations of abuse and alienation require practitioners who have considerable clinical experience and specialized training.’
Fidler, B. J. & Ward, P. (2017). Clinical decision-making in parent-child contact problem cases:| Tailoring the intervention to the family’s needs. In Abigail M. Judge and Robin M. Deutsch (Eds.) Overcoming parent-child contact problems: Family based interventions for resistance, rejection, and alienation. New York: Oxford University Press.
アメリカでの片親疎外の経験
私はアメリカで離婚を経験しました。結婚生活ではDV・モラハラが続いていましたが、離婚を決意すると、その攻撃は子どもを介したものへと変わっていきました。子どもを使った攻撃や引き離しが始まり、私は片親疎外を経験しました。
私自身は、片親疎外はDV・モラハラとは別の問題ではなく、虐待者が離婚後も元配偶者を支配し、攻撃し続けるための延長線上にあるものだと理解しています。
そんな中、「ナルシシストとの離婚に詳しい」と自称する弁護士から勧められたのが、家族再統合療法(Reunification Therapy)でした。私は専門家の助言なのだから間違いないだろうと考え、疑うことなく受けました。しかし、結果は期待とは正反対でした。親子関係は改善しないどころか、子どもの拒絶はさらに強まり、状況は悪化していきました。
「何かがおかしい」と感じた私は、自分で海外の文献や専門家の研究を調べ始めました。その中で出会ったのが、Dr. Steven Millerによる「通常の家族再統合療法が片親疎外で機能しない25の理由」です。読み進めるうちに、そこに書かれていることは、私が経験したことと驚くほど一致していました。
私はその25項目を自分なりに整理し、子どもがいない場でセラピストにも共有しました。しかし、セラピーの進め方が見直されることはなく、むしろ私がセラピーに口を出す親であるかのように受け取られました。結果として、うまく機能していないセラピーはそのまま続けられ、状況が改善することはありませんでした。
さらに私のケースでも、セラピーが機能しなかったという結果そのものが疎外親側に利用され、「親子関係は修復が困難である」という印象を裁判所に与えることにつながりました。その結果、親子の断絶は改善するどころか、法的にもさらに固定化されていきました。
だからこそ、この記事で紹介する内容は、単に海外の研究を要約したものではありません。私自身が実際に経験し、その後にDr. Millerの理論や海外の知見と照らし合わせた結果、「まさに自分が経験したことだ」と確信した内容でもあります。
また、記事の後半で紹介する「片親疎外について十分な知識や経験があるか分からない専門家から、安易に家族再統合療法を勧められた場合は慎重に考えた方がよい」という考えも、この経験と学びの両方に基づいています。私は、その知識がないままセラピーを受け、大きな代償を払いました。同じような経験をする方を一人でも減らしたいという思いで、この記事を書いています。
この動画について
この記事は、Dr. MillerによるYouTube動画をもとに、その内容を日本語で要約・整理したものです。
動画では、「なぜ通常の家族再統合療法(Reunification Therapy)は、片親疎外のケースでは十分に機能しないのか」というテーマについて、研究や臨床経験を踏まえながら25のポイントに分けて解説されています。
私は、この動画の内容に加えて、自身が実際に家族再統合療法を経験した当事者としての視点も交えながら紹介しています。
英語で視聴できる方は、ぜひ原文もご覧ください。
すべてを理解できる一つの構造
この25項目は、Dr. Millerが長年の臨床経験や研究をもとに整理したもので、一つひとつ読むと非常に納得できる内容です。
私自身も、自分の経験と照らし合わせながら読みましたが、「まさに自分が経験したことだ」と感じる項目ばかりでした。
一方で、25項目という数を見ると、「少し複雑そうだ」と感じる方もいるかもしれません。
しかし実際には、この25項目の多くは、たった一つの構造を理解することで整理して理解できます。
そして、その構造は、海外の家族再統合療法(Reunification Therapy)がうまく機能しない理由だけでなく、日本の家庭裁判所調査官や支援者が、なぜ片親疎外のケースを見誤りやすいのかという問題にも共通しています。
その「たった一つの原因」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、本記事では「通常の家族再統合療法は、片親疎外では十分に機能しない」という点を中心に紹介しています。
では、どのような支援や介入が比較的効果的だと考えられているのでしょうか。
もちろん万能な方法はありませんが、一定の成果が報告されているアプローチもあります。
その内容については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
Dr. Millerが挙げた25のポイント
Dr. Millerは、通常の家族再統合療法(Reunification Therapy)が片親疎外のケースでは十分に機能しない理由を、25のポイントに整理して説明しています。
25項目はそれぞれ独立した内容ではなく、共通する考え方のもとで整理されています。
この記事では、内容を理解しやすいように、次の4つのテーマに分けて紹介します。
① セラピストの役割(1~6)
Dr. Millerは、最初の6項目で「片親疎外では、通常の家族療法と同じ考え方でセラピーを進めてはいけない」と説明しています。
一般的な家族療法では、「誰の味方もしない」「家族全員の話を公平に聞く」「全員と信頼関係を築く」といった姿勢が基本とされています。
しかし、片親疎外では、その前提が必ずしも成り立ちません。
子どもが心理的な影響を受け、一方の親が親子関係を意図的に妨げている場合には、通常の「中立的な支援」が、結果として片親疎外を強化してしまうことがあるためです。
Dr. Millerは、その理由として次の6つのポイントを挙げています。
1. セラピストは疎外親を通常のクライアントとして扱うべきではない。
2. セラピストは疎外親との治療的な協力関係を築くべきではない。
3. 十分な評価を行わずにセラピーを始めてはならない。
4. 片親疎外には専門的な知識と経験が必要である。
5. 疎外親に過度に共感することは大きな誤りになり得る。
6. 「どちらの味方もしない」という一般的な原則は、そのまま適用すべきではない。
それでは、一つずつ見ていきます。
1. セラピストは疎外親を通常のクライアントとして扱うべきではない
In general, reunification therapists should not have a therapist-client relationship with the alienating parent.
Dr. Millerは、片親疎外を行っている親を通常の「クライアント」として扱うべきではないと述べています。
その理由は、疎外親は親子関係の回復を目指している当事者ではなく、場合によっては、その関係を妨げている当事者でもあるからです。
一般的なセラピーでは、クライアントの思いや立場を尊重しながら支援を進めます。しかし、その考え方を片親疎外のケースにそのまま当てはめると、結果として疎外を強めてしまう可能性がある、というのがDr. Millerの指摘です。
2. セラピストは疎外親と治療的な協力関係を築くべきではない
In general, reunification therapists should try not to forge a therapeutic alliance with the alienating parent.
Dr. Millerは、疎外親と「親子関係を回復するための協力者」として治療的な信頼関係を築くことにも慎重であるべきだと述べています。
片親疎外では、疎外親が表面上はセラピーに協力しているように見えても、実際には子どもと標的親との関係改善を妨げ続けるケースがあるためです。
そのため、セラピストは「協力的に見える」という印象だけで治療を進めるのではなく、その行動が親子関係の回復につながっているかどうかを慎重に見極める必要があるとしています。
3. 何が起きているのかを十分に評価せずにセラピーを始めてはならない
It is never appropriate for a therapist to treat any condition without first evaluating the client(s).
Dr. Millerは、セラピーを始める前に、その家族で実際に何が起きているのかを十分に評価することが不可欠であると述べています。
片親疎外が疑われるケースでは、それぞれの話を聞くだけでは十分ではありません。当事者の主張を裏付ける客観的な証拠はあるのか。子どもの拒絶は自由意思によるものなのか、それとも心理的な影響を受けた結果なのか。こうした点を慎重に評価する必要があります。
例えば、客観的な証拠を十分に検証せず、それぞれの言い分だけをもとに話を進めてしまうと、疎外親と子どもは同じナラティブ(説明や主張)を語り、標的親だけが異なる主張をする構図になりやすくなります。その結果、疎外親側のナラティブを前提としてセラピーが進み、標的親の説明は受け入れられにくくなることがあります。
私自身も、こうした状況を経験しました。そのため、片親疎外が疑われるケースでは、「誰が何を言っているか」だけではなく、「その主張を裏付ける客観的な証拠があるのか」を慎重に評価することが重要だと考えています。
一方、通常のセラピーは、事実認定や証拠の検証を目的としたものではありません。そのため、片親疎外という特殊な状況では、何が起きているのかを十分に評価しないまま介入してしまい、結果として状況を悪化させることがあるとDr. Millerは指摘しています。
4. 片親疎外には専門的な知識と経験が必要である
Cases of parental alienation or even suspected parental alienation are inherently forensic; they require the therapist to have much special expertise.
Dr. Millerは、片親疎外、あるいは片親疎外が疑われるケースでは、通常の家族療法とは異なる専門的な知識と経験が必要であると述べています。
これは、セラピーの進め方だけではありません。
その前提となる評価や見立ての段階から、片親疎外についての理解が求められます。
例えば、子どもの拒絶をそのまま自由意思と考えるのか、それとも心理的な影響を受けた結果である可能性も考えるのか。
この違いだけでも、その後の対応は大きく変わります。
だからこそDr. Millerは、片親疎外を理解していない専門家が善意で通常のセラピーを行ったとしても、結果として状況を悪化させることがあると警鐘を鳴らしています。
5. 疎外親のナラティブに過度に共感してはならない
One of the worst mistakes a reunification therapist can make is to over empathize with the alienating parent.
Dr. Millerは、家族再統合療法における最も大きな誤りの一つは、疎外親のナラティブ(説明や主張)に過度に共感してしまうことだと述べています。
一般的なセラピーでは、クライアントに共感し、その気持ちや立場を理解しようとすることは大切な姿勢です。
しかし、片親疎外が疑われるケースでは、疎外親が語る内容を十分に検証しないまま受け入れてしまうと、そのナラティブを前提としてセラピーが進んでしまう危険があります。
その結果、「子どもが拒絶しているのだから仕方がない」「標的親に問題があるから子どもが拒絶している」という見立てが強化され、親子関係の回復ではなく、片親疎外そのものを後押しする結果になりかねません。
だからこそDr. Millerは、セラピストは共感することと、相手の語るナラティブを事実として受け入れることは別であると考え、客観的な評価に基づいて判断する必要があると指摘しています。
6. 「どちらの味方もしない」という原則は、片親疎外にはそのまま当てはまらない
The therapist rule “don't take sides” isn't appropriate for parental alienation.
一般的な家族療法では、セラピストはどちらの親の味方にもならず、中立の立場を保つことが大切だとされています。
しかしDr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、この原則をそのまま適用すべきではないと述べています。
その理由は、片親疎外が認められる場合、単なる親同士の意見の対立ではなく、子どもへの心理的虐待が起きている可能性があるからです。
そのような状況で、「どちらの意見も尊重しましょう」「どちらにも問題があります」という姿勢を取り続けると、結果として虐待を容認し、片親疎外を強化してしまうことがあります。
Dr. Millerは、まず何が起きているのかを客観的に評価し、その結果として片親疎外が認められるのであれば、形式的な中立ではなく、子どもの利益と親子関係の回復を最優先に対応すべきだと考えています。
② 子どもへの対応(7~15)
ここからは、セラピーの中で子どもにどのように接するべきかについて、Dr. Millerの考え方を紹介します。
一般的な家族療法では、「子どもの気持ちを尊重する」「子どもの意思を大切にする」「無理をさせない」といった対応が基本とされています。
しかし、Dr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、こうした対応をそのまま適用すると、かえって片親疎外を強めてしまうことがあると指摘しています。
その理由は、子どもの拒絶や発言が、必ずしも自由意思だけによるものとは限らないからです。
Dr. Millerは、この点について次の9つのポイントを挙げています。
7. 通常のセラピーで用いられる多くの手法は、片親疎外では効果がなく、有害になることもある。
8. 子どもの疎外的な発言や根拠のない主張を、そのまま受け入れてはならない。
9. 子どもの前で疎外親を非難する必要はないが、誤ったナラティブは修正しなければならない。
10. 子どもの認知のゆがみや思い込みを、そのまま尊重・肯定してはならない。
11. 子どもが安心して標的親への肯定的な気持ちを表現できる環境をつくる必要がある。
12. 必要に応じて、明確なルールや働きかけを行うことも求められる。
13. 子どもの沈黙や参加拒否を、そのまま認めるべきではない。
14. すでに過度な影響力を持っている子どもに、さらに権限を与えてはならない。
15. 過度な力を持った子どもの状態を改善し、標的親としての役割を回復させる必要がある。
それでは、一つずつ見ていきます。
7. 通常のセラピーで用いられる多くの手法は、片親疎外では効果がなく、有害になることもある
Most of the techniques used for other types of relationship problems, e.g., marriage counseling, are strikingly ineffective for parental alienation and can be very harmful.
Dr. Millerは、夫婦カウンセリングや一般的な家族療法で用いられる多くの手法は、片親疎外では十分な効果が得られないだけでなく、かえって状況を悪化させることがあると述べています。
一般的なセラピーでは、「相手の気持ちを尊重する」「子どもの意思を大切にする」「本人のペースを尊重する」といった考え方が重視されます。
しかし、片親疎外では、子どもの拒絶や標的親に対する否定的な認識が、心理的な影響を受けて形成されている可能性があります。
そのため、通常のセラピーの手法をそのまま適用すると、結果として子どもの拒絶を正当化し、片親疎外をさらに強めてしまうことがあるというのがDr. Millerの指摘です。
このあと紹介する8〜15のポイントは、その具体例と言えるでしょう。
8. 子どもの疎外的な発言や根拠のない主張を、そのまま受け入れてはならない
Reunification therapists should not allow—and certainly should not encourage—the session to become a forum for children to voice unjustified or delusional opinions, promote the alienation narrative, assert grievances that have no basis in reality, or disrespect the targeted parent.
Dr. Millerは、セラピーの場を、子どもが標的親への拒絶や非難を繰り返す場にしてはならないと述べています。
一般的なセラピーでは、子どもの気持ちや発言を尊重することは大切な姿勢です。しかし、片親疎外が疑われるケースでは、子どもの発言が心理的な影響を受けて形成されている可能性があります。
そのため、子どもの発言を十分に検証しないまま「その子の真実」として受け止めたり、標的親への非難や拒絶について共感や支持を繰り返したりすると、そのナラティブ(説明や物語)がさらに強化されてしまいます。
場合によっては、繰り返し語られる出来事が、あたかも実際に経験した記憶であるかのように本人の中で定着していくケースも報告されています。セラピストがその話を事実であることを前提に受け止め、相談に乗ること自体が、その記憶やナラティブを「正しいもの」として追認(バリデーション)してしまう可能性があります。
私自身も、セラピーの中で子どもの語る内容がほとんど検証されることなく前提とされ、その話に沿ってセッションが進められることを経験しました。その結果、子どもは「自分の考えは正しい」「標的親を拒絶する理由は正当である」という確信をさらに強めていったように感じています。
Dr. Millerは、このようなセラピーは親子関係の回復にはつながらず、むしろ片親疎外のナラティブを強化してしまう危険があると指摘しています。
9. 子どもの前で疎外親を非難する必要はないが、誤ったナラティブは訂正しなければならない
Although therapists should not criticize the alienating parent in front of the children, they must correct that parent's inaccurate (alienation) narrative.
Dr. Millerは、子どもの前で疎外親を非難したり、対立を深めたりする必要はないと述べています。
しかし一方で、疎外親が事実と異なる説明や、標的親を不当に貶めるナラティブを語っているのであれば、それをそのまま放置してはいけないとも指摘しています。
例えば、「標的親は子どもを愛していない」「危険な親だから会わない方がよい」といった事実に基づかない説明を、誰も訂正しなければ、子どもはそれを事実として受け止め続けてしまいます。
そのため、セラピストに求められるのは、疎外親を責めることではなく、客観的な事実に基づいて誤ったナラティブを修正し、子どもが現実を正しく理解できるよう支援することだとDr. Millerは述べています。
10. 子どもの認知のゆがみや思い込みを、そのまま尊重・肯定してはならない
In general, it is not appropriate for a therapist to promote the premise that an alienated child's cognitive distortions or delusions "are real to [him or her]" and should therefore be "respected" and validated.
Dr. Millerは、「本人にとってはそう感じているのだから尊重すべきだ」という考え方を、そのまま片親疎外のケースに当てはめるべきではないと述べています。
一般的なセラピーでは、本人の感じていることや受け止め方を否定せず、まず受け止めることが重視されます。
しかし、片親疎外が疑われるケースでは、子どもが標的親について抱いている認識や記憶が、心理的な影響によって大きくゆがめられている場合があります。
そのような認識を「本人にとっての真実だから」とそのまま尊重し、肯定してしまうと、認知のゆがみや誤った思い込みをさらに強化することになりかねません。
Dr. Millerは、「子どもがそう信じていること」と、「それが客観的な事実であること」は区別して考える必要があり、セラピストはその違いを意識して関わることが重要だと指摘しています。
11. 子どもが標的親への肯定的な気持ちを安心して表現できる環境をつくる必要がある
Therapists who work with alienated children and families should create a safe environment in which the child feels free to express positive thoughts and feelings toward the previously rejected parent.
Dr. Millerは、子どもが標的親に対する肯定的な気持ちを、安心して表現できる環境をつくることが重要であると述べています。
片親疎外が疑われるケースでは、子どもは標的親に対して愛情や好意を示すことに強い心理的な抵抗を感じている場合があります。
もし、そのことが疎外親に知られれば責められる、失望される、あるいは関係が悪くなると感じているため、本当の気持ちを表現できないことがあるからです。
そのため、単にセラピーの場を設けるだけでは十分ではありません。
子どもが安心して本音を話せる環境が確保されて初めて、標的親との関係を回復するための支援が可能になります。
場合によっては、子どもが疎外親からの心理的な影響を受けない環境を確保するために、裁判所による保護的な措置や、一時的な接触制限などが必要になることもあるとDr. Millerは指摘しています。
12. 必要に応じて、明確なルールとその結果を伴う対応が求められる
To be successful, reunification therapists may need to adopt an authoritarian approach; they may not only need to set limits, but to mete out consequences.
Dr. Millerは、片親疎外のケースでは、親子関係を回復するために、必要に応じて明確なルールを設け、そのルールが守られない場合には適切な対応を取ることも必要であると述べています。
一般的なセラピーでは、当事者の自主性を尊重し、無理に行動を変えさせることはあまり行われません。
しかし、片親疎外では、子どもや疎外親が親子関係の回復を妨げる行動を続けている場合、「本人の意思だから」と放置していては状況は改善しません。
そのためDr. Millerは、必要に応じて参加のルールを明確にし、そのルールが守られない場合には相応の対応を取ることも、親子関係を回復するためには重要であると指摘しています。
ここでいう「権威的な対応」とは、子どもや疎外親を支配することではなく、親子関係の回復という目的のために、専門家が適切な枠組みを維持するという意味です。
13. 子どもの沈黙や参加拒否を、そのまま認めてはならない
Reunification therapists should rarely, if ever, give an alienated child permission to remain silent, or to otherwise not participate, in the therapy sessions.
Dr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、子どもがセラピーで話さないことや参加を拒否することを、そのまま認めるべきではないと述べています。
一般的なセラピーでは、「話したくなければ無理に話さなくてよい」「参加したくなければ本人の意思を尊重する」という対応が行われることがあります。
しかし、片親疎外では、その沈黙や参加拒否自体が、標的親との関係を拒絶する行動の一部になっている場合があります。
そのため、参加拒否をそのまま認めてしまうと、「標的親とは関わらなくてもよい」というメッセージを結果として与え、片親疎外をさらに固定化してしまう可能性があります。
Dr. Millerは、子どもの気持ちに配慮することは大切である一方で、親子関係の回復という目的を見失わず、子どもが適切にセラピーへ参加できるよう支援することが重要であると述べています。
14. すでに過度な権限を持った子どもに、さらに力を与えてはならない
Reunification therapists should not further empower the already empowered alienated child.
Dr. Millerは、片親疎外では、子どもはすでに本来以上の権限を与えられている状態であると考えています。
健全な親子関係では、親には子どもを保護し、導く責任があります。そのため、子どもが一時的に「会いたくない」と言ったとしても、それだけで親子関係を断つことはありません。親は子どもの利益を考えながら、もう一方の親との関係も大切に育んでいく責任があります。
しかし、片親疎外では、この力関係が逆転します。
Dr. Amy Bakerは、片親疎外を「一方の親が、子どもにもう一方の親の心を傷つける許可を与えること」という印象的な言葉で説明しています。
"Parental alienation is when one parent gives a child permission to break the other parent's heart."
つまり、子どもは「標的親に会うかどうか」「標的親を拒絶するかどうか」を自分で決められる立場となり、本来であれば親が担うべき決定権や権威が、子どもに与えられてしまっているのです。
例えば、「会いたくなければ会わなくてよい」「嫌ならセラピーに参加しなくてもよい」といった対応は、一見すると子どもの意思を尊重しているように見えます。
しかしDr. Millerは、そのような対応は、すでに標的親を拒絶する権限を持っている子どもに、さらに大きな決定権を与えることになり、片親疎外を強化してしまう危険があると指摘しています。
片親疎外で問題なのは、心理的な影響を受けた子どもの拒絶や攻撃的な言動を、そのまま自由意思として扱い、正当化してしまうことです。
そのような状態では、子ども自身が標的親との関係を壊すことに加担させられており、それ自体が子どもに深刻な心理的影響を及ぼす可能性があります。
そのためDr. Millerは、この異常な力関係や拒絶行動を追認するのではなく、親子関係を回復する方向へ導くことが重要であると述べています。
15. 過度な権限を持った子どもを本来の立場に戻し、標的親としての役割を回復させる
In striking contrast, reunification therapists should: (A) disempower the over-empowered child; and (B) re-empower the disempowered parent.
Dr. Millerは、片親疎外の回復では、過度な権限を持つようになった子どもを本来の立場に戻し、反対に権威や役割を失ってしまった標的親を、本来の親としての立場へ戻していくことが重要であると述べています。
ここでいう「子どもの力を弱める」とは、子どもを支配したり、意見を言わせなくしたりすることではありません。
例えば、標的親を侮辱するような発言や、親に対して著しく失礼な態度が見られた場合には、「そのような話し方は親に対して適切ではありません」と境界線を示し、本来の親子関係にふさわしい関わり方へ導くことを意味しています。
一方で、標的親に対しては、親としての役割や責任を回復できるよう支援し、子どもとの健全な親子関係を少しずつ取り戻していくことが求められます。
片親疎外では、子どもが第三者の影響によって標的親を拒絶し、傷つけることを許され、時には求められている状態そのものが問題です。
そのためDr. Millerは、そのような異常な力関係を維持するのではなく、本来あるべき親子の役割へ戻していくことこそが、家族再統合療法の重要な目的であると述べています。
③ 標的親への対応(16~21)
ここからは、標的親(Target Parent)への対応について、Dr. Millerの考え方を紹介します。
一般的な家族療法では、関係改善のために「相手の話をもっと聞きましょう」「もっと共感しましょう」「謝るべきところは謝りましょう」といった助言が行われることがあります。
しかしDr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、このような対応を標的親に求めることが、かえって片親疎外を強化してしまう場合があると指摘しています。
その理由は、片親疎外では問題の本質が、標的親のコミュニケーション能力や養育技術ではなく、親子関係を意図的に妨げる構造そのものにあるからです。
Dr. Millerは、この点について次の6つのポイントを挙げています。
16. 標的親に謝罪や共感を求めることを、治療の中心にしてはならない。
17. 標的親の養育スキルやコミュニケーション能力の改善を、治療の中心にしてはならない。
18. 片親疎外は児童保護・児童虐待の視点から対応すべきである。
19. 深刻な精神病理や人格特性を見逃してはならない。
20・21. 標的親に「一歩引きましょう」「子どものペースに合わせて少しずつ関係を回復しましょう」と助言することは、多くの場合適切ではない。
それでは、一つずつ見ていきます。
16・17. 標的親に謝罪や改善ばかりを求めることを、治療の中心にしてはならない
16. Reunification therapists should not base their treatment plans—or put undue emphasis—on having the target parent apologize, empathize, or listen better.
17. Reunification therapists should not base their treatment plans—or put undue emphasis—on having the target parent improve his or her empathizing, listening, and other parenting skills.
Dr. Millerは、片親疎外のケースでは、標的親に謝罪や共感、傾聴、あるいは養育スキルの改善ばかりを求めることを、治療の中心にしてはならないと述べています。
一般的な家族療法では、「親が変われば子どもも変わる」という考え方から、標的親に対して「もっと子どもの話を聞きましょう」「もっと共感しましょう」「謝るべきところは謝りましょう」と助言されることがあります。
しかし、片親疎外では、そのような対応は「標的親に問題があるから子どもが拒絶している」という前提を強化してしまう危険があります。
その結果、子どもは「やはり自分は正しかった」「悪いのは標的親だった」と受け止め、標的親への拒絶をさらに正当化することがあります。
もちろん、標的親にも改善すべき点がある場合はあります。しかしDr. Millerは、それを片親疎外の主な原因や、治療の中心課題として扱うべきではないと指摘しています。
問題の本質は、標的親の養育スキルではなく、親子関係を妨げている片親疎外の構造そのものにあるからです。
18. 片親疎外は児童虐待・児童保護の視点から対応すべきである
Proper treatment of parental alienation requires an approach based on a child maltreatment and child protection model. Parental alienation meets standard criteria for psychological and emotional abuse and psychological maltreatment.
Dr. Millerは、片親疎外への対応は、親同士の対立やコミュニケーションの問題としてではなく、児童虐待・児童保護の視点から行う必要があると述べています。
一般的な家族療法では、「親同士の関係を改善する」「お互いを理解する」といったアプローチが取られることがあります。
しかし、片親疎外では、子どもが一方の親から心理的な影響を受け、もう一方の親を拒絶するようになっているのであれば、それは単なる親子や夫婦の関係の問題ではありません。
Dr. Millerは、そのような状態は心理的虐待や精神的虐待の基準を満たすものであり、まず子どもをその状況から守るという視点で対応しなければならないと指摘しています。
そのため、標的親に改善や譲歩を求めることよりも、子どもがなぜ標的親を拒絶するようになったのか、その背景に心理的な虐待や操作が存在しないかを見極めることが重要であると述べています。
19. 背景にある深刻な精神病理を見落としてはならない
One of the worst mistakes a reunification therapist can make is to fail to recognize serious underlying psychopathology.
Dr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、その背景にある深刻な精神病理(psychopathology)を見落としてはならないと述べています。
一般的な家族療法では、親同士のコミュニケーションの問題や価値観の違いとして関係改善を目指すことがあります。しかし、片親疎外では、その背景に深刻な心理的・精神的な問題が存在している場合があります。
とくに、重度の片親疎外(Severe Parental Alienation)では、疎外親に自己愛性人格特性や境界性人格特性などがみられるケースがあることは、多くの研究者や臨床家によって指摘されています。
そのような可能性を考慮せず、通常の家族間の対立として対応すると、問題の原因を見誤り、結果として片親疎外をさらに悪化させてしまうことがあります。
Dr. Millerは、そのためにも片親疎外について専門的な知識を持ち、背景にある心理的・精神的な問題を適切に評価することが重要であると指摘しています。
20・21. 「一歩引く」「子どものペースで少しずつ」という対応は、多くの場合適切ではない
20. With few exceptions, it is usually inappropriate—and often catastrophic—to advise an alienated parent to "step back in order to get the child to come to you."
21. In treating parental alienation, it is rarely appropriate to advise that resumption of contact with the alienated parent be done gradually and slowly over time.
Dr. Millerは、片親疎外が疑われるケースでは、標的親に「一度距離を置きましょう」「子どもがその気になるまで待ちましょう」と助言することは、ほとんどの場合適切ではないと述べています。
また、「子どものペースに合わせて少しずつ交流を再開しましょう」という方法についても、多くの場合は片親疎外を改善するどころか、かえって固定化してしまう危険があると指摘しています。
その理由は、子どもが拒絶すればするほど、交流が減り、標的親との接触がさらに少なくなるからです。
その結果、子どもは「拒絶すれば自分の望む結果になる」と学習し、標的親との関係はますます回復しにくくなります。
私自身も、裁判所から宿泊交流が命じられていたにもかかわらず、「まずは宿泊をやめて日帰り交流から始めましょう」と提案された経験があります。
一見すると子どもに配慮した提案のように思えます。しかし、結果として「拒絶すれば条件を変えることができる」というメッセージになり、親子関係の回復にはつながりませんでした。
Dr. Millerは、片親疎外では子どもの拒絶に合わせて交流を縮小するのではなく、親子関係を回復するという本来の目標を見失わないことが重要であると述べています。
④ 治療全体の考え方(22~25)
最後に、Dr. Millerは、片親疎外の治療そのものをどのように考えるべきかについて説明しています。
ここまで見てきたように、通常の家族療法の考え方をそのまま片親疎外に当てはめると、かえって親子関係の回復を妨げてしまうことがあります。
そのためDr. Millerは、治療の進め方だけでなく、「何を治療の目標とするのか」「何を成功と考えるのか」という基本的な考え方そのものを見直す必要があると述べています。
そのポイントとして、次の4つを挙げています。
22. 標的親との楽しい時間だけで片親疎外が解消すると考えてはならない。
23. 必要な場合には、保護的な措置や裁判所の命令を支持しなければならない。
24. 通常のセラピーが失敗した責任を標的親に負わせてはならない。
25. 治療の成功は、親子関係が正常に回復したかどうかで判断すべきである。
それでは、一つずつ見ていきます。
22. 標的親との楽しい時間だけで、片親疎外が解消すると考えてはならない
Reunification therapists should not assume that by encouraging, or arranging for, an alienated child to have "positive experiences" with the rejected parent, the child is likely to discard his or her negative beliefs.
Dr. Millerは、標的親と楽しい時間を過ごしたり、良い思い出を積み重ねたりするだけで、子どもの拒絶や否定的な信念が自然に変わると考えるべきではないと述べています。
一般的な親子関係の問題であれば、一緒に過ごす時間が増え、楽しい経験を共有することで関係が改善することは少なくありません。
しかし、片親疎外では、子どもの標的親に対する否定的な認識そのものが、心理的な影響によって形成・維持されている場合があります。
そのため、どれほど楽しい時間を過ごしたとしても、その認識が修正されなければ、「今日は楽しかったけれど、やっぱりお父さん(お母さん)は嫌い」「一緒にいても危険な人だ」というように、体験と信念が切り離されてしまうことがあります。
Dr. Millerは、親子で良い時間を過ごすこと自体は大切である一方、それだけでは片親疎外の根本的な解決にはならないと指摘しています。
23. 必要な場合には、保護のための接触制限を支持しなければならない
One of the worst mistakes a therapist can make is to fail to honor, or fail to support, an order for protective separation—i.e., a "no contact" order—when such an order is clinically indicated.
Dr. Millerは、片親疎外が重度であり、子どもを心理的な影響から守る必要があると判断される場合には、一時的な保護措置を支持することも重要であると述べています。
ここでいう「保護的な分離(protective separation)」とは、標的親との接触を制限することではなく、子どもを疎外親からの継続的な心理的影響から一時的に保護するための措置を指します。
セラピーの場で親子関係が改善したとしても、その後も疎外親から継続的な働きかけが続けば、子どもは再び標的親を拒絶するようになり、治療の効果が失われてしまうことがあります。
そのためDr. Millerは、必要な場合には裁判所による接触制限命令なども含め、子どもを保護するための措置を治療の一部として支持すべきであると指摘しています。
もちろん、こうした措置はすべてのケースで必要になるわけではありません。しかし、片親疎外が重度であるにもかかわらず、保護が必要な状況を見過ごしてしまうことは、大きな誤りになり得るとDr. Millerは述べています。
24. 通常の家族再統合療法が失敗した責任を、標的親に負わせてはならない
Since traditional reunification therapy has virtually no chance of success, practitioners who provide such therapy are providing futile treatment. Therefore, it is rarely, if ever, appropriate for a therapist to blame the alienated parent for the failure of such therapy.
Dr. Millerは、通常の家族再統合療法は片親疎外では成功する可能性が極めて低く、その治療がうまくいかなかった責任を標的親に負わせるべきではないと述べています。
一般的な家族療法では、親子関係が改善しないと、「もっと子どもの話を聞くべきだった」「もっと共感すべきだった」「もっと努力できたのではないか」と標的親に改善を求めることがあります。
しかし、片親疎外では、問題の本質は標的親の努力不足ではなく、通常の家族療法では対応できない構造そのものにあります。
そのため、適切ではない治療を行った結果として親子関係が回復しなかったにもかかわらず、その責任を標的親に負わせることは、公平ではないとDr. Millerは指摘しています。
私自身も、セラピーが期待したような結果にならなかった際、その原因を標的親である私の対応に求める場面を経験しました。しかし振り返ると、問題は私個人ではなく、片親疎外という特殊な状況に通常のセラピーを適用していたことにあったのではないかと感じています。
25. セラピーの成功は、親子関係が正常に回復したかどうかで判断すべきである
Success in therapy should be defined as the restoration of a normal relationship between the child and the parent, not a subjective opinion by the therapist or anyone else that the child is allegedly "making progress".
Dr. Millerは、片親疎外のセラピーにおける成功は、子どもと標的親との親子関係が正常に回復したかどうかで判断すべきであると述べています。
一般的なセラピーでは、「子どもが少し話せるようになった」「セラピーに参加するようになった」「以前より前向きになった」といった変化が「進歩」と評価されることがあります。
しかしDr. Millerは、そのような主観的な評価だけでは十分ではないと指摘しています。
親子関係が実際に回復していないのであれば、それは片親疎外という問題が解決したことにはなりません。
そのため、セラピーの成果は、セラピストの印象や評価ではなく、子どもが再び標的親と健全な親子関係を築けるようになったかどうかという客観的な結果によって判断すべきであると述べています。
高熱で幻覚が見える人で例えると
ここまで25項目を見てきましたが、私はDr. Millerが伝えたいことは、とてもシンプルなのではないかと思います。
例えば、高熱によって幻覚が見えている人がいるとします。
その人に対して、「あなたにはそう見えているのですね。その見え方を尊重しましょう」と言い続けても、症状は改善しません。
もちろん、本人を否定したり責めたりする必要はありません。しかし、幻覚を現実として扱ってしまえば、回復からは遠ざかってしまいます。
必要なのは、「なぜそのような状態になっているのか」という原因を理解し、その原因に対して適切に対応することです。
Dr. Millerがこの25項目を通して伝えているのも、これと同じだと私は理解しています。
片親疎外では、子どもの拒絶や攻撃的な言動をそのまま自由意思として扱い、それを前提に治療を進めても、親子関係は回復しません。まず必要なのは、その背景にある心理的な影響や家族の構造を理解し、本来の親子関係を取り戻せるよう支援することです。
だからこそ、通常の家族再統合療法は、片親疎外では機能しないどころか、かえって状況を悪化させてしまうことがあるのです。
私自身の経験
この25項目を初めて知ったとき、私は驚きました。なぜなら、ここで挙げられていることのほとんどすべてを、自分自身が実際に経験していたからです。子どもの拒絶がそのまま本人の自由意思として扱われること。
標的親である私ばかりに、謝罪や改善、歩み寄りが求められること
子どもの拒絶を尊重する形で面会交流の内容が変更されること
疎外の影響や背景にある心理的な問題が十分に検討されないこと
そして、セラピーが思うような結果にならないと、その原因が標的親である私に求められること。
振り返ってみると、Dr. Millerが挙げた25項目は、私が経験した出来事を一つずつ整理したものではないかと思えるほど、一致していました。
この25項目は、多くの片親疎外の事例を研究・分析したうえでまとめられたものです。その内容と自分の経験がこれほど重なることに、私はDr. Millerの長年の臨床経験と研究の深さを強く感じました。
私からのおすすめ
この25項目と自分自身の経験を重ね合わせてみて、私は次の2つを強く感じています。
① 片親疎外を理解していないセラピストによるセラピーは、安易に受けない方がよい
片親疎外について専門的な知識を持ち、適切に対応できるセラピストは存在します。
しかし、そのような専門家はアメリカでも決して多くありません。
私がこれまで当事者や海外の情報に触れてきた限りでは、「片親疎外に対応できます」と言えるレベルの専門家に出会える可能性は決して高くないのが現状だと感じています。
そのため、少なくとも「通常の家族再統合療法」で子どもとの関係を改善しようと考えることには、私は慎重であるべきだと思っています。
私自身も、「子どもとの関係を何とかしたい」という思いからセラピーに取り組みました。しかし結果として、それが親子関係の改善ではなく、片親疎外をさらに強める方向へ働いてしまいました。
もちろん例外はありますし、新しい知見を学び続けている専門家もいるでしょう。
それでも、この記事で紹介したような問題を理解しないまま通常のセラピーを受けることは、私自身の経験からはお勧めできません。
補足
この記事では、「通常の家族再統合療法がなぜ片親疎外では機能しないのか」を中心に解説しました。
では、片親疎外を理解したセラピストが見つからない場合、標的親はどう考え、どのように対応すればよいのでしょうか。
その点については、私自身の経験や海外の専門家の知見をもとに、別の記事で詳しくまとめています。
また、本記事で紹介した25項目は一見すると複雑に見えますが、実際には、その多くが一つの共通した構造から理解できます。その構造を知ると、なぜ通常のセラピーだけでなく、日本の家庭裁判所調査官なども片親疎外を見誤りやすいのかも理解しやすくなります。
私自身は、もし当時これらの知識を知っていたら、通常のセラピーを受ける前に、まず立ち止まって情報を集めていたと思います。
だからこそ、これからセラピーを受けることを考えている方には、まずこれらの記事を読んだうえで、ご自身にとって最善の選択肢を検討していただければと思います。
② 弁護士の「まずセラピーを受けましょう」という助言には注意してほしい
私がもう一つお伝えしたいのは、弁護士から「まず家族再統合療法(Reunification Therapy)を受けましょう」と勧められたときは、その助言をそのまま受け入れないでほしいということです。
アメリカでは、「片親疎外に詳しい」「ナルシシストとの離婚案件を多く扱っている」と説明する弁護士は少なくありません。しかし、そのような弁護士が、通常の家族再統合療法を特に疑問視することなく勧めてきた場合は、一度立ち止まって考えることをおすすめします。
なぜなら、この記事で紹介したように、片親疎外では通常の家族再統合療法が十分に機能しないどころか、状況を悪化させる可能性があることは、海外では以前から指摘されているからです。この点を知らずに「まずセラピーを受けましょう」と勧めているのであれば、その弁護士は片親疎外に関する最新の知見を十分に理解していない可能性があります。
また、ナルシシズムが強く関わる離婚案件では、片親疎外が生じることは決して珍しくありません。そのような案件を本当に数多く扱い、継続的に学んでいるのであれば、通常の家族再統合療法の限界やリスクについても、少なくとも認識しているはずだと私は考えています。
私自身は、そのことを知らず、「ナルシシストとの離婚案件に詳しい」と説明していた弁護士の助言を信じて通常の家族再統合療法を受けました。その結果、Dr. Steven Millerが挙げる25項目の多くを、実際に経験することになりました。
そのため私は、「まずセラピーを受けましょう」という助言そのものが、その弁護士が片親疎外をどの程度理解しているかを判断する、一つの指標になると考えています。本当にこの問題を理解している弁護士であれば、少なくとも通常の家族再統合療法のリスクや限界、そしてセラピスト選びの重要性について説明があるはずです。
まとめ
通常の家族再統合療法(Reunification Therapy)は、本来であれば親子関係の回復を目的とした支援です。
しかし、片親疎外という特殊な状況では、その前提となる考え方が当てはまらず、かえって親子関係を悪化させてしまうことがあることを、Dr. Millerは25のポイントを通して説明しています。
私自身も、この25項目を読んだとき、「これは自分が経験したことそのものだ」と感じました。
だからこそ、この内容は海外でセラピーを受ける方だけでなく、日本で片親疎外について学ぶ方や、家庭裁判所、親子交流、支援のあり方を考える方にとっても、大きな示唆を与えてくれるものだと思います。
重要なのは、片親疎外という特殊な状況を理解しないまま、通常の家族療法を適用することの危険性を理解することです。
そして、片親疎外では何が起きているのか、その構造を正しく理解したうえで支援や介入を考えることが、親子関係の回復への第一歩になると私は考えています。
もし現在、子どもとの関係を取り戻そうと努力しているにもかかわらず、セラピーによって状況が改善しない、あるいは悪化していると感じているのであれば、この25項目を一つの判断材料として役立てていただければ幸いです。
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