
三題噺 ヤスシさんの企画

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一分の理 【1025字】
安かろう悪かろう。
どこかの国の製品のレッテルがぴったり嵌る、そんな団地がある。
往時の面影を探そうとしたわけではないが、以前、数字が振られた団地の棟数を数えてみたことがある。二十一棟までしか追えなかった。
しかし面影は役目を終えたわけではない。古いながらも今も大量の住民を飲み込んでいる。至極古く使い勝手の悪いこともあってか、家賃は安い。それは何よりの魅力でもある。
最寄り駅は庄モ内駅。
ホームから階段を降りると、半地下になったところにコンコースとは呼べない、呼びたくない腐ったメロンの臭いのする空間があり、そこから乗客は町の西側と東側に分かれていく。
ある男がいる。
ヤツは夕方になるとそこにやってきた。(ヤツはヤスと読み替えてもよい)どのような手段を用いたか知らないが、ある女性がこの駅を利用することを突き止めた。
しかし一ヶ月が経っても、ヤツが彼女の姿を見つけることは叶わなかった。その時間帯、その駅には部活帰りの高校生たちがコーラから吹き出す泡のように、改札口を通り抜ける。そこに紛れてしまうと、もはや見つけるのは至難の業だった。
しかし真相はそうではなかった。その女性は怪しげな男のことを察知してか、それとも何かほかの理由からか、隣の庄ガ内駅を利用していたのだ。
その女性の友人から聞いた。
「気持ち悪い人がメールをくれるの」
「そんなメアド、削除しちゃえばいいじゃん」
「それができないのよ。学校の連絡用のアドレスだから」
「じゃ着信拒否は?」
「それは学校を通さないとできないの。まだそれほどの被害とは言えないし」
「どんなメールなの?」
――あなたを駅でお見かけしました。あなたを見ることが今の僕の心の安らぎです――
「キモっ! それって完璧なストーカーじゃん」
「そう思うけど、これってまだ事件ってほどでもないでしょ?」
「メアドも利用駅も知ってるんじゃ充分ストーカーっしょ」
「だから迷惑ですってハッキリ言ってやったのよ」
「メールで?」
「そう、メールで。キモいからやめてくれって」
そんなやり取りをしたという。
しかし、ヤツにとっては、それは純粋な恋愛なのかもしれない。好きになった女性に近づきたいと思う。接触しようと試みる。メールアドレスを知り、メールを送ってみる。
それは純粋な恋心の発露ではないか、と言われれば、そうなのかもしれない。そこに不正な手段が使われていなければという条件付きではあるのだけれど。
ヤツは言う。
ある女性から迷惑メールが届いた、と。
イヤ、それは違うだろ!
了
ヤスさん
よろしくお願いします
