
マッチョ華道。花より先に、腕が限界だった|毎週ショートショートnote
創作ショートショート
「力を抜いてください」
AI師範に言われ、私は震える腕を少し下げた。
会社帰りに通い始めた、マッチョ華道。
運動不足と趣味不足を同時に解決できる、と広告にあった。
初日は一輪のガーベラと、小さな花瓶を渡された。
拍子抜けした。これなら私にもできる。
「花瓶を胸の高さへ。右に二ミリ」
言われたとおりに動かす。
「戻しすぎです。左に一ミリ」
隣の大男は、枝を一本持ったまま汗を流している。壁には歴代師範の写真。全員、肩幅が額縁いっぱいだった。
壁の時計だけが、誰の指示も待たずに動いていた。
五分後、腕が熱くなった。
「まだですか」
「最適な角度を計算中です」
十分後、膝が笑い始めた。
「台に置いても?」
「現在の状態を保持してください」
三十分後、私は泣きそうになっていた。
花は最初と同じ顔で、こちらを見ている。
ようやく電子音が鳴った。
「保存しました」
「作品を?」
「はい。明日はこの姿勢から再開できます」
退会ボタンに手を伸ばしたが、腕が上がらなかった。
あとがき
「マッチョ華道」と聞いて、重い花を持ち上げるのではなく、軽い花をいつまでも下ろせない教室にしてみました。
AIは最適な角度を探している。人間は、そろそろ休みたい。同じ時間を過ごしていても、気にしていることは少し違います。
私なら入門前に、花の選び方より「休憩はありますか」と確認したいです。
あなたなら、この教室にどんなルールを一つ足しますか?
※Codexと共同制作したフィクションです。実在の教室や、実際のAIの回答を描いたものではありません。