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夏の香りに呼び起こされる記憶 ―斉藤由貴「ひまわり」に思う、さよならの向かうところ

    夏が来ると、頭の中でくり返し口ずさんでしまうメロディー。
    斉藤由貴さん「ひまわり」。

    夏の象徴のような元気いっぱいの花。
    強くて太陽みたいな。
    迷いも陰もなく、ただまっすぐにありのまま輝く、そんな花。

    由貴さんの、いえ、由貴ちゃんのこの「ひまわり」は、そんなイメージからは遠く、静かでただただそこに立ち尽くすような、ほんのり悲しみをたたえた1曲です。

    思いをよせている彼が好きなのは彼女。
    いくら言葉をかわすことができても、彼の気持ちはここにはない。
    きっと初めから知っていたのでしょう。それでもほんの少し話をするその瞬間だけは、彼は自分を見て笑ってくれる。そのやさしい声は自分にだけ向けられている。

    そんなささやかなひとときのしあわせ。
    それだけでいいと思っていた。それだけあれば十分だった。

    でも、ある日告げられる旅立ちの意志。
    そして彼女への気持ちをその口からはっきりと聞かされてしまう。メッセンジャーとして白羽の矢が立つことによって、主人公の思いはこぼれることすらできなくなってしまう。

    きっと笑顔で「わかったよ」と答えたのでしょう。
    必ず伝えるよ、と。

    無邪気に願いを託して走り去っていく後ろ姿。
    そのやさしい気配は、残酷に「私」の胸をつく。

    きっと「私」には、思いを伝える気持ちはなかったでしょう。
    ただおだやかに交わす笑顔とふたつみっつの他愛ない言葉。それだけでよかったのだから。

    彼の気持ちが彼女にあることも、彼女が彼を静かに想っていることも。
    全部ぜんぶ知っていた。
    それでもよかった。
    よかったのに。

    ♪「彼女にあなたからのメッセージ 伝えたと言ったのは 嘘なの 初めてあなたについた」

    彼に「伝えてくれた?」と聞かれて笑顔で「うん」と答えたとき、「私」の目に初めて宿ったひとかけらのくもりは、彼に気づかれることもなく。
    少し照れたようにお礼を言われて、そして足早に走り去る靴音をどんな思いで聞いたのでしょう。

    そして旅立ちの日に、彼が待つ彼女は現れない。
    ぎりぎりまで待つ彼の姿を、「私」はまっすぐで明るいひまわりの影から見つめている。
    あの娘は来ないよ。だって・・・。

    彼が列車に乗り込むとき、その背中に「私」はつぶやきます。
    「さよなら」

    淡くはかなかった思いが風に連れられていく。もともと秘めておくだけのつもりではあったけれど、それでも叶わなかった気持ち。
    そしてほんとうは、彼と彼女の思いは通じていたことを、「私」だけが知っていた。
    今頃、いつものように図書館の席で静かにページをめくりながら、そっと彼を思っている彼女。

    さよなら。
    「私」がお別れを告げたのは、かすかな思いを抱いた彼と、なにも知らずにいつもと同じ思いをあたためている彼女、そして「今なら間に合う」から呼びに行こうと思うのに、それでもどうしても足が動かずそこに立ち尽くしてしまった自分自身。

    夏が終わるころ、「私」の胸の痛みはきっとまだ癒えずに、ちくちくと心をさし続けていたのだと思います。

    ひまわりの明るくて強いその姿に、自分のずるさや後ろめたさを重ねて、どんな気持ちで枯れゆく様子をながめていたのだろうと思うと、胸がしめつけられるようです。


    「ひまわり」
    アルバム『風夢』に収録
    1987年キャニオン・レコード(現ポニー・キャニオン)発売


     
     
    校正歴12年の新米Web制作者| 読みやすくすんなりと心に届く、せせらぐ水音のような文章をめざしています。 小説・日記・エッセイなど、「ほんとうに伝えたいこと」が届くように、あなたにより添うやさしい校正をします。 「ていねいに書きたい人」のお手伝い、させてください。

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