
猫のぼやき 2026.8.27号|金融機関への投資は得意なつもりだった──朝刊トップに出てきた、にゃあの出資先
プロローグ 朝刊トップに見覚えのある名前

今朝、いつものように新聞を開いた。
一面トップには、「全国17信用金庫が赤字に」という大きな見出しが載っていた。2026年3月期に最終赤字となった信用金庫は、前の期の5信金から17信金へ急増。そのうち5信金が九州にあるという。
メガバンクや上場地方銀行は、金利上昇を追い風に利益を伸ばしている。それなのに、地域の信用金庫では赤字が増えている。
同じ金融機関なのに、なぜこれほど違うのだろう。
そう思いながら記事を読んでいると、見覚えのある名前が出てきた。
あれ?
この信用金庫、にゃあが会社経営に携わっていた頃から付き合いのあったところではないか。
経営者向けの研修会や勉強会、交流会にも参加した。先輩や後輩には、そこで働いている人もいる。
そして、もっと大事なことを思い出した。
そういえば、にゃあはここに出資金を持っていたにゃ。
第一章 株ではないけれど、にゃあのお金だった

信用金庫で融資を受けたり、事業用の取引を始めたりするとき、会員になるために出資を求められることがある。
にゃあも当時、10万円を出資した。
信用金庫は株式会社ではない。地域の会員が出資し、相互扶助を目的として運営する協同組織金融機関である。
したがって、この出資金は上場会社の株式とは違う。
証券取引所で自由に売買できず、株価もつかない。値上がり益を狙うものでもなく、脱退するときには所定の手続きが必要になる。経営が悪化すれば配当が出ないこともあり、最悪の場合は出資金が戻らない可能性もある。
ただ、にゃあの感覚では、長い間「取引先になるために預けてある10万円」に近かった。
毎年、800円前後の配当が振り込まれる。
金額が小さいので、銀行口座に入金されていても、普段はほとんど意識しない。10年ほど受け取っているから、これまでに受け取った配当は1万円前後だろう。
上場株なら決算短信を読み、配当利回りを計算し、自己資本比率や貸倒引当金まで見る。それなのに、信用金庫の出資金については、毎年配当が入っていることしか確認していなかった。
金融機関への投資は、自分では得意な方だと思っていた。
ところが、いちばん身近な金融機関を見ていなかったにゃ。
第二章 67億円の赤字と、70億円の引当金

新聞には、この信用金庫の最終赤字が約67億円と書かれていた。
ディスクロージャー誌を確認すると、当期純損失は67億1,400万円だった。
ところが、損益計算書を読み進めると、貸倒引当金繰入額は70億5,400万円とある。
新聞の67億円と、引当金の70億円。
数字が合わないように見える。
しかし、これはどちらかが間違っているわけではない。
70億5,400万円は、融資先から将来回収できなくなる可能性に備えて、費用として計上した金額である。一方の67億1,400万円は、本業の利益やその他の収益、債券の売却損などをすべて合計した後の最終的な赤字だ。
この信用金庫には19億3,800万円のコア業務純益があった。本業では利益を出していたものの、70億円を超える貸倒引当金の負担を吸収できなかった。
新聞の見出しには金利上昇による債券損失が出ていたが、この信用金庫の赤字を数字で見る限り、最も大きな要因は貸倒引当金だった。
ただし、どの融資先に、いくら引き当てたのかは開示されていない。
物価高、人手不足、価格転嫁の難しさ、後継者問題。建設・建築をはじめ、借入金と運転資金を必要とする地域企業には、金利上昇も遅れて効いてくる。
一つの企業だけではなく、複数の融資先について将来の損失を厳しく見積もった結果なのだろう。
ここは推測で個別企業の名前を当てる場面ではない。分かるのは、信用金庫が地域企業の傷みに備え、大きな引当金を積んだというところまでにゃ。
第三章 約319億円の開示債権

もう一つ気になった数字がある。
金融再生法に基づく開示債権は、318億6,700万円。総与信に占める割合は約8.4%だった。
およそ12円を貸したうち、1円が正常債権以外に分類されている計算になる。
もちろん、開示債権の全額が回収不能になるわけではない。
担保や保証、すでに積んである貸倒引当金によって、一定部分は保全されている。しかし、その保全率は54.36%だった。
つまり、開示債権約319億円のうち、半分強は担保や保証、引当金でカバーされているが、残りについては今後の回収状況に左右される。
にゃあが最初に気にしていたのは、保有債券の含み損だった。
その他有価証券の評価損は82億8,100万円に達している。金利が上昇すると、過去に買った低金利の債券価格は下がるため、債券を多く持つ金融機関ほど含み損が膨らみやすい。
では、82億円の含み損から70億円の引当金を引いて、残り12億円がリスクなのか。
そういう計算にはならない。
債券の含み損は保有有価証券の価値低下であり、貸倒引当金は融資先の信用リスクに備える費用である。発生している場所も会計上の扱いも違うため、単純に足したり引いたりできない。
それでも、債券側に82億円を超える含み損があり、融資側でも70億円を超える引当金を積んだという事実は重い。
金利上昇によって、資産運用と融資の両側から圧力を受けている姿が見えてくるにゃ。
第四章 配当はどこから出たのか

さらに気になったのが、出資配当である。
この信用金庫は大幅な最終赤字になったが、普通出資に対して年1%、1口500円につき5円の配当を実施していた。
上場会社なら、大赤字なのに配当を続けると聞けば、「資本金を取り崩して配当したのではないか」と心配になる。
ただし、今回取り崩したのは普通出資金そのものではない。
信用金庫は、60億円あった特別積立金を取り崩し、損失の処理などに充てている。これによって繰越損失を残さず、普通出資への配当も維持した。
したがって、会員から集めた出資金を、そのまま配当として返したわけではない。
それでも、蓄えてきた積立金を60億円取り崩したことに変わりはない。
純資産は、前の期の222億5,200万円から136億4,100万円へ減少。自己資本比率も8.22%から6.22%へ低下した。
国内だけで営業する信用金庫に求められる自己資本比率の基準は4%なので、直ちに基準を割ったわけではない。
しかし、余裕が大きいとも言いにくい。
毎年800円ほど振り込まれる配当だけを見ていれば、「今年も配当が出た」で終わる。
その裏側では、長年積み立ててきた60億円が、一年で使われていたにゃ。
第五章 もう一つの10万円

ここで、さらに思い出した。
にゃあは、もう一つの信用金庫にも10万円を出資している。
二つ合わせて20万円。
比較のため、もう一つの信用金庫のディスクロージャー誌も開いてみた。
こちらは2億2,500万円の黒字。コア業務純益は13億2,900万円、自己資本比率は8.37%だった。
金融再生法上の開示債権は46億8,900万円で、開示債権比率は約2.1%。保全率は85.19%ある。
貸倒引当金繰入額は2億4,200万円。先ほどの信用金庫と比べると、融資側の数字はかなり落ち着いている。
出資配当率も年1.75%だった。
同じ地域の信用金庫に、同じように10万円を出資している。それでも、決算の姿は大きく違った。
ところが、こちらも無傷ではない。
その他有価証券の評価損は72億1,600万円。満期保有目的債券にも7億1,900万円の含み損があり、合わせると経済的な含み損は約79億円になる。
債券の売却・償還損も4億9,800万円計上していた。
融資側は比較的安定していても、金利上昇による債券価格下落の影響は受けている。
赤字の信用金庫と黒字の信用金庫。
結果は違っていても、どちらも金利上昇という同じ波の中にいたにゃ。
コラム 元締めも上場していた?

今朝、テレビから信用金庫のCMが流れてきた。
そこで思い出したのが、信金中央金庫である。
信金中央金庫は、全国の信用金庫を会員とする信用金庫の中央金融機関。いわば、信用金庫の元締めのような存在にゃ。
証券コードは8421。
ただし、東京証券取引所で売買されているのは、株式会社の普通株ではなく「優先出資証券」である。8月27日昼時点では、一口19万円前後で取引されていた。
地域の信用金庫に出資した10万円は、市場で自由に売買できない。一方、信金中央金庫の優先出資証券には市場価格があり、証券会社を通じて売買できる。
同じ「出資」という言葉がついていても、仕組みも流動性もリスクも違う。
信用金庫の出資金、信金中央金庫の優先出資証券、上場会社の普通株。
似ているようで、別の金融商品だったにゃ。
第六章 二つ合わせて20万円をどうするか

では、二つの出資金を引き揚げるのか。
今のところ、にゃあは急いで脱退するつもりはない。
信用金庫との出資関係は、単なる利回りだけで決まるものではない。経営に携わっていた頃、勉強会や交流会で多くのことを学び、人とのつながりもできた。
先輩や後輩には、今もそこで働いている人がいる。
にゃあにとって信用金庫は、株価画面の中だけにある金融機関ではない。会社経営に携わっていた時間と結びついた存在でもある。
二つ合わせて20万円。決して無視してよいお金ではない。
それなのに、毎年の配当額が小さく、株価も表示されないため、にゃあは長い間その経営状態を確認してこなかった。
出資金は預金ではない。預金保険制度によって元本1,000万円までとその利息が保護される普通預金や定期預金とは違い、経営状態によっては元本が戻らない可能性がある。
これまで受け取った配当は、一つの信用金庫につき累計で1万円前後だろう。仮に10万円の出資金が戻らなければ、配当で全額を回収できているわけではない。
それでも、今回すぐに脱退するのではなく、まずは数字を継続して見る。
最終損益だけでなく、コア業務純益、貸倒引当金、開示債権比率、保全率、債券の含み損、自己資本比率。そして、積立金をどれだけ取り崩したのか。
来年のディスクロージャー誌で、70億円を超える引当金が一時的なものだったのか、それとも地域企業の傷みが続いているのかを確かめたい。
20万円を取り戻すことを急ぐより、見落としていた投資先を見直すこと。
今のにゃあがするべきなのは、そちらだと思うにゃ。
エピローグ 株価のない投資先

にゃあは、金融機関への投資は得意な方だと思っていた。
メガバンク、地方銀行、証券会社、リース会社。決算を読み、金利を見て、配当を比べてきた。
けれど、株価のない出資金については、毎年振り込まれる配当だけを見て、ディスクロージャー誌を開いてこなかった。
新聞には、全国17信用金庫の赤字と書かれていた。
その数字を遠い金融ニュースとして読んでいたはずが、そこに自分の出資先の名前を見つけた瞬間、話は急に近くなった。
しかも、もう一つの信用金庫も調べてみれば、黒字ではあるものの、債券に約79億円の含み損を抱えていた。
赤字か黒字かだけでは分からない。
配当が出たかどうかだけでも分からない。
そして、新聞の見出しだけでも分からない。
金融機関は、地域企業にお金を貸しながら、預かった資金を債券などで運用している。金利が上がれば利ざやが改善する一方、保有債券の価格は下がる。借り手の返済負担が増えれば、貸倒れへの備えも必要になる。
「金利上昇は銀行に追い風」
その一言だけでは、信用金庫の決算は読めなかったにゃ。
にゃあのしっぽ

上場株を何百銘柄見ていても、いちばん身近な投資先を見落とすことがある。
二つ合わせて20万円。金額の大小にかかわらず、自分のお金を託している相手であることに変わりはない。
それでも、毎年配当が振り込まれているというだけで、にゃあは安心していた。
見るべきなのは、配当の有無だけではない。出資金、自己資本比率、開示債権、保全率、貸倒引当金、そして大きな赤字の理由。
来年からは、二つの信用金庫のディスクロージャー誌を、上場会社の決算短信と同じように並べて読むことにする。
今朝の朝刊で漏れた「あれ?」は、信用金庫の名前を見つけた驚きだけではなかった。
金融機関への投資は得意なつもりだった、にゃあ自身への「あれ?」でもあったのかもしれないにゃ。
