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ショートショート 「うっせえわ」 #アマノ文筆クラブ

    東京では銀色のイルミネーションが街路樹を包み、冬の夜を静かに照らしていた。ショーウィンドウには、トナカイと雪だるまが楽しげに踊り、甘いシナモンの香りがパン屋の角から漂ってくる。カップルたちは手をつなぎ、子どもたちは声を上げてはしゃぎ回る。街はまるで、夢の中のようなクリスマスの絵本だった。


    その中心に、ひときわ目立つ赤い衣装の男が立っていた。白くふさふさの髭、丸いお腹。誰が見てもサンタクロースそのものだ。だが、その男は突然、夜空に向かって叫んだ。


    「Ole hiljaa!」


    フィンランド語のその言葉は、澄んだ空気を震わせて響いた。子どもたちは歓声を上げ、サンタを囲んで手を取り合い、くるくると踊り始める。


    「Joten en ole joulupukki.」


    男はふと寂しげな表情を浮かべた。だが次の瞬間、何かを吹っ切ったように顔を上げ、満面の笑みで叫んだ。


    「Hyvää joulua!…Merry Christmas!」


    その笑い声は、ツリーに巻かれたキラキラの飾り紐のように、街の空気をくるくると巻き込みながら広がっていった。ハハハ、ハハハ。笑いは連鎖し、子どもたちの笑顔が夜を照らした。


    だが、その時だった。


    赤いサイレンを鳴らしながら、パトカーがゆっくりと近づいてきた。制服姿の警官が降り立ち、サンタと何やら言葉を交わす。やがて、男は観衆に向かって最後の言葉を残した。


    「Olkaa kaikki kilttejä poikia」


    そう言い残すと、男は静かにパトカーに乗り込んだ。街は一瞬ざわめいたが、やがてその熱狂も、夜の帳に溶けていった。風が通り過ぎ、イルミネーションの光が揺れる。


    後になって分かったことだが、あのサンタはフィンランド語でこう言っていたらしい。


    「うっせえわ」「オレはサンタじゃねぇ」「メリークリスマス」「みんな、いい子にしてるんだぞ」


    あの夜、彼に何があったのか。なぜあんなにも陽気で、そしてどこか哀しげだったのか。今となっては知る由もない。ただ、思い返せば、あの赤い衣装も、鮮やかな赤ではなく、どこか血のようにくすんでいたような気がする。


    真実は、神のみぞ知る。


    メリークリスマス🎄


    完


    (本文895字)


    あとがき


    甘野充さんの企画『アマノ文筆クラブ』に参加させて頂きました。もうすっかりクリスマスと物価高一色ですね。メリークリスマス🎄


    #アマノ文筆クラブ
    #うっせえわ
    #サンタ
    #サンタクロース
    #フィンランド語
    #真実は神のみぞ知る

     
     
    思いつきを物語に。日常の片隅に潜む違和感から、クスッと笑える奇想天外なショートショート、ちょっぴり不思議で哲学的な掌編まで。言葉遊びと予想外の展開を楽しみながら、今日も気ままに妄想中。5分で読める物語を中心に綴っています。

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