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📖【短編小説】「極楽詣」

    (あらすじ)
    生前、悪の限りを尽くした眞司は、死後、地獄に落とされる。そこは悪人だけが蠢く暗い世界。だが、ぶつかった男も、盗みを咎める店主も、誰もが「俺が悪い」と罪を引き取り、眞司を「善」と呼ぶ。地獄での奇妙な体験に戸惑う眞司は、やがて「改心した」として天国へ移される。白く輝く天国は、善人しかいないはずの楽園だ。だが、そこでは誰もが自分こそ正しいと主張し、眞司を「悪」と非難する。善悪の境界が揺らぐ不条理な物語。地獄の悪人たちが与える意外な救いと、天国の善人たちの冷たい視線を通して、眞司が見つけた居場所とは――。

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    短編小説「極楽詣」

    男の名は眞司(しんじ)。生前、彼は悪の限りを尽くした。

    強盗、詐欺、裏切り――人の痛みを顧みず、欲望のままに生きた。死後、当然のように地獄に落とされた。そこは、噂通り、悪人だけが蠢く暗い世界だった。空は赤黒く、地面はひび割れ、硫黄の匂いが鼻をつく。眞司は薄笑いを浮かべた。こんな場所なら、自分にふさわしい。

    地獄の狭い道を歩き始めた瞬間、眞司は人にぶつかった。

    横柄に肩を揺らし、道の真ん中を歩いていた自分のせいだ。
    相手も同じだった。顔に深い傷のある男で、目つきは生前の悪事を物語っていた。眞司が文句を言う前に、傷の男が口を開いた。

    「すまなかった。俺が悪い。よそ見してたんだ。あんた、来たばかりだろ? 知ってたのに、ぶつかった。俺が悪い。許してくれ」男は深々と頭を下げ、申し訳なさそうに笑った。眞司は面食らったが、「次は気をつけろよ」と吐き捨てた。傷の男は、なぜか嬉しそうに去った。

    しばらく歩くと、粗末な売店が目に入った。棚にはパンや果物、高価そうな金塊が無造作に並んでいる。腹が減っていた眞司は、パンを掴んでかじり、金塊をポケットにねじ込んだ。生前、盗みは日常だった。すると、店の奥から体格の良い店主が出てきた。眞司は殴られる覚悟をしたが、店主は言った。

    「取ったな? すまなかった。こんな風に置いていた俺が悪い。あんたを誘惑した。悪事をさせたのは俺だ。あんたは悪くない。どうか許してくれ」店主は目を潤ませ、眞司を見つめた。

    「この金塊、もらっていいんだな?」眞司が言うと、店主は満面の笑みで頷いた。「ああ、持っていってくれ。お詫びだ」眞司は混乱した。地獄で、罪が咎められない? 皆が「俺が悪い」と口を揃える。裏があるはずだ。警戒しながら歩き続けると、荒れ果てた寺が現れた。地獄に来てから歩き通しだった。眞司はそこで夜を明かすことにした。

    寺に入ると、ボロボロの袈裟を着た坊主が現れた。眞司は確信した。ここで、生前の罪を暴かれ、裁かれるのだ。地獄の「俺が悪い」は、悔い改めの最後の試練だったのかもしれない。だが、眞司は悔いていなかった。売店での盗みも、変わらぬ悪事だった。諦め半分、坊主の前に座り、生前の殺人、盗み、そして地獄での悪行を告白した。

    坊主はにっこり笑った。
    「なるほど。だが、お前は俺に比べれば悪人じゃない。俺は生前、何百人と殺した。快楽のためだ。お前は? 生きるために盗み、殺したんだろ? お前は悪人じゃない。俺が本物の悪だ」坊主はそういうなり奥に消えた。

    眞司は呆然とした。地獄では、誰も彼を悪人と認めない。皆、自分こそが「最悪」だと言い、眞司を「良い人」と呼ぶ。

    数十年、地獄で過ごした。眞司がどんな悪事を働いても、相手が「俺が悪い」と罪を引き取った。居心地の悪さに耐えかね、眞司は地獄の端で一人暮らした。

    ある日、小奇麗な天使が現れ、こう告げた。「お前は改心したようだ。天国へ連れて行ってやる」眞司は驚きつつ、喜んだ。地獄の居心地の悪さから逃れられる。天国は、善人しかいない、清らかな世界だと聞いていた。眞司は天使に連れられ、天国にたどり着いた。

    天国は眩い白に満ちていた。澄んだ空気、ゴミ一つない道。だが、眞司の汚れた服は目立った。案内人に従い、一本道を歩いていると、住人にぶつかった。謝ろうとした瞬間、相手が怒鳴った。

    「なぜ前を見ない? 汚らしい奴だ! 俺は半歩避けたのに、お前は避けなかった。悪人め!」眞司が呆気に取られていると、天国の住人は続けた。「俺は生前、貧しい者に施しを与えた。聖人だ。お前は何か良いことをしたのか? いや、おまえがどんな善行を積んでいようと、俺ほどじゃない。俺が善人だ、お前は俺の前では悪だ!」眞司が謝ると、住人は不満げに去った。

    天国では、皆が自分こそ善人と信じ、相手を悪人と決めつけた。良い行いをしても、「俺の方が上だ」と比較され、論争が絶えない。善人しかいないはずの天国は、互いを「悪」と非難する声で満ちていた。

    眞司は地獄に戻った。地獄では、皆が自分を「悪」と呼び、眞司を「善」とした。自分より悪い者はいないと信じる悪人たちの中で、眞司は救いを感じた。「俺なんかより、皆まだマシだ」と呟いた。天国では、善人しかいないが故に、誰もが相手を悪と貶す。地獄では、悪人しかいないが故に、誰もが相手を善と持ち上げる。

    眞司は思った。地獄こそ、自分の居場所だ。そこでは、誰も彼を裁かず、ただ「俺が悪い」と笑う。その笑顔が、なぜか救いだった。



    「ヘヴン」
    作詞.✋

    性善説
    決め込んだ瞬間
    周りが全て敵になった
    優しい言葉も 
    全部裏があるように聞こえて
    悪人だらけの世界と化した

    正義の旗を振るほど
    隣の奴が悪魔に見える
    きれい好きの世界線
    どんどん汚くなっていく

    ようこそ、天国
    自らの正しさ
    高らかに歌う天使たち

    意識高い系
    白々しい世界

    どっちがいいひと?
    不毛な争い
    やまない
    罪の押し付け合い

    性悪説
    決め込んだ瞬間
    世界に善人が溢れた

    どこにも自分ほどの
    害悪はいない
    目の前のひと
    すべてに感謝

    「あなたは悪くない、私が悪い」

    他人に悪を持たせず
    華を持たせる

    ようこそ、地獄
    自らの汚さ
    唱えあう悪魔

    意識は低いが
    自分が悪い

    自己憐憫の賽の河原
    他人を傷つけない

    優しい世界

    天国、地獄 
    蟻地獄...

    心根1つで見える世界

    落ちるか上がるか
    生前私葬

     
     
    静かで、冷たくて、切ない物語を書いています。 愛、善意、孤独、喪失、狂気。美しいものの裏側にある「ぞくりとするもの」を描く短編小説。読み終えたあと、少しだけ心に棘が残る物語を。 📖 短編小説を公開中↓「コトリバコ」

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