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愚者の天秤【蘇生試験】

    いよいよ「蘇生師」の最終試験だ。
    最後の課題は、死者を蘇らせる蘇生師には必須の「蘇生対象の見極め」。
    誰を蘇生させるか、させないか。
    その選択は時として、神にも悪魔にもなる。

    「では始めます。どちらかを蘇生させて下さい ―― 蘇生すべき方を」

    横たわった二人の女性の姿に息を呑む。
    一人は俺の妻だ。もう一人は初恋の女性、春菜だった。
    胸の奧で濁った感情がどろりと渦巻く。

    想い合って添ったはずの妻は、長い歳月の末に惰性と諦めに満ちた存在となり果てた。無関心という名の刃やいばは、時に暴言よりも深く心を抉る。
    一方、幼馴染の春菜は大学まで同じで、一時は交際の真似事もした。卒業後に自然消滅したが、もしもあのまま……と考えたことは一度や二度ではない。

    もう一度、人生をやり直せるとしたら……。


    数分後、俺は試験会場を後にした。
    「君、向いてないね」という試験官の言葉に苦笑する。
    長年の鬱屈と、所詮は幻想に過ぎない初恋の想い出を天秤にかけて、何の裁きができると言うのか。
    もういい。俺は神でも悪魔でもない、愚かな人間として生きていくさ。

    俺は分厚い教科書をゴミ箱へ放り込み、ひとり駅へと歩いていった。


     
     
    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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