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こざかしい落下【毎週ショートショートnote】

    「歩美、ごめん! 愛してるのは歩美だけだ!」

    崖の上から颯太の絶叫が響き、観客がやんやの喝采を上げる。

    『謝りたいあの人に』は、高い崖の上から謝りたい相手に思いをぶつけ、パラシュートを背負って飛び降りるイベントだ。着地するまでに、どれだけ謝罪の言葉を重ねられるかが誠意とされる。


    ――先日、我が夫颯太の不倫が発覚した。
    熟慮の末、ひとまず離婚は見合わせると決めた私へ、颯太が土下座せんばかりに縋る。

    「歩美、ありがとう。俺、本当に反省してるから」

    その贖罪の一つがこの『飛び降りイベント』だったのだ。


    「俺の誠意を見てくれ、歩美!」

    颯太の足が宙に浮くや、パラシュートが開いて【ごめん】の横断幕がひらひらと泳ぐ。支給されたパラシュートに各自が細工する仕掛けも採点項目の一つだ。
    観客が沸いた途端、颯太の体が、突如重力を思い出したかのように急激に落ち始めた。崖下に悲鳴が満ちるその様子を静かに眺める。

    「その裏切り、こざかしい落下ごときで消せると思う方がどうかしてるわ」

    まあ、パラシュートの糸が切れた時の颯太の顔はなかなかの見ものだったけれど。

    (461字)


    【あとがき】
    久々に『ブラック秋しば』の登場です(笑)
    それにしても「こざかしい」って、なかなか日常では使わない単語だなあ。小説だと地文でよく使うんですけどね。台詞で言わせると、その人の怒りが沸々とたぎっているようで怖いです💦

    *この記事は、以下の企画に参加しております。


     
     
    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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