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七夕の歩幅【毎週ショートショートnote】

    彦星は、ムカついていた。
    昨夜の電話で織姫にがっちりと釘を刺されたのだ。

    「アンタ、毎年遅刻するでしょ。明日は夜明け前に出発してよね」

    確かに自分も悪いが、何しろ距離が距離だ。毎回こちらが出向く苦労も察してほしい。

    「そうだ!」

    彦星はぴかりと閃いた。星だけに。

    「いいか。足、怪我したフリしろよ」

    七夕当日、彦星は牛に言い聞かせて出発した。

    のそ……のそ……のそ……

    どこぞの国会の愚鈍な作戦のように、ちまちました歩幅でわざとゆっくり歩いていく。


    そのころ織姫は、怒り狂っていた。

    「おっそーーーいっっっ!!!」

    手あたり次第にその辺の星を蹴とばしていると、ようやく遠くに彦星の姿が見えた。だが彦星は、にやにや笑って牛の足を指差すだけだ。

    「アイツ、わざとか――見とれよ」

    織姫は纏っていた鮮やかな紅色の羽衣をさっと脱いだ。

    「Olé!」

    掛け声とともに強く振られた羽衣を見るや、牛は突如狂ったように走り出した。

    「うわあああ!」

    狭い歩幅に散々ストレスが溜まっていた牛は、自分の背から落ちた飼い主にも構わず、思うさまに走る足跡を天空に残し、織姫の羽衣に向かってモウ然と駆け寄っていった。

    (477字)


    【あとがき】
    私ごとで恐縮なのですが、近頃大変にしんどい出来事がありまして。
    不本意ながら、そちらにエネルギーを取られておりました。
    (病気、あるいは人の生死に関わることではないのでご安心ください)

    本当に、人の世というのは思うようにならず。
    『禍福は糾える縄の如し』とはよく言ったものです。

    それでも、たとえ煮えたぎるような怒りや、声も出ないような虚しさの中でも、「書く」という手段が自分の中にあるのがどれほどありがたいかと、あらためてかみしめる次第です。

    折しも、note創作大賞2026も締切間近。
    なかなか皆さんの作品が追えていませんが、仲間の活躍は何よりのエネルギーになります。少しでも応援できればと思っております。

    ラストスパート、皆さんファイトーーー!!!


    *この記事は、以下の企画に参加しております。

    【既刊一覧】


     
     
    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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