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贅沢な悩み

     イギリスはロンドン、真夜中のトラファルガー広場。
     退屈していた四頭のライオン像の前に、突如三人の客が現れた。

    「僕はシンガポールのマーライオンです。顔がライオン、体が魚という中途半端な自分が嫌でたまりません。あなた方が羨ましい」
     すると一頭のライオンが口を開いた。
    「その体のおかげで水の中でも動けるのだろう。地で強く、水で速い。素晴らしいではないか」
     マーライオンは感激して帰っていった。

     次にエジプトのスフィンクスが言った。
    「私は長い間、人間の顔をいだく屈辱に耐えてきた。何とかならぬか」
     二頭めのライオンが答えた。
    「数千年の昔にあなたを建造したのは人間です。これほどの長きに亘って存在する像はないでしょう」
     スフィンクスは満足して帰っていった。

     最後の客は日本の狛犬だった。
    「本来は獅子だというのに、今や犬などと一括りにされてしまった。もう我慢ならん」
    三頭めのライオンが言った。
    「獅子でも犬でも神の眷属に違いはない。謹んで務めを果たすべきであろう」
     狛犬は納得して帰っていった。

    みな何と贅沢な悩みか、とライオンたちがぼやいていると、四頭めのライオンが言った。
    「贅沢なのはおぬしらだ。我は出番すらなかったのだぞ」


     
     
    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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