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急性カーテンコール中毒【毎週ショートショートnote】

    老女は暗い夜道を歩いていた。
    この寒い夜に寝間着一枚の薄着で、震えながら住宅街を彷徨う。

    突如、目の前に公園が現れた。
    四隅にあるライトが煌々と広場を照らしている。

    ――ああ、昔はあのスポットライトの中にいた……。

    老女の脳裏に、往時の華やかな舞台がよみがえった。

    何かに誘われるように、老女は公園へ足を踏み入れた。広場の中央に立つとゆっくりと両手を挙げる。もう震えは止まっていた。

    『私、もう一度生きるのね。ああ、嬉しいわ……!』

    何度も演じた『椿姫』の台詞を朗々と響かせる老女の耳に、万雷の拍手と割れんばかりの歓声が聞こえてきた――。


    「――昨晩は冷えましたからね。人のいない夜の公園で倒れて、それっきりだったのでしょう」

    検死を担当した医師が言った。

    「住民によると、夜中に何やら叫んでいたようだが」
    「認知症の高齢者は、華やかなりし頃を思い出して気が昂り、心臓発作を起こす人もいます。俗に『急性カーテンコール中毒』とも言いますが」
    「ふうん、往年の大女優も淋しいものだな」

    医師は肩をすくめた。

    「さあ……逆に本望だったかもしれませんよ」

    そう呟くと、医師は死亡検案書にさらさらと病名を書き込んだ。

    (487字)


    【あとがき】
    相変わらず締切に追われている上に、また股関節の調子が悪くなってしまいって、毎SSへの力が割けない秋しばです……(それでもさっき夜の公園近くを通った時、このネタを思いついたので参戦できましたw)

    ええと作中の台詞は、デュマ『椿姫』のヒロイン・ヴィオレッタが最後に亡くなる時のもの……だそうです。(読んでない&観てない💦)
    適当に選んだものの、よく見たらこっちのストーリーにも合ってますね。
    よきよき(笑)


    *この記事は、以下の企画に参加しております。


     
     
    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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