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【信州暮らし31 /俳犬Alice】 2026.9.12 草露白

     朝、愛犬Aliceと一緒に散歩に出る。心地よい秋だが、草むらを歩く愛犬Aliceの足がよく濡れるようになった。葉に朝露が乗っているのである。少しひんやりとした光を纏う朝露は秋の季語でもある。信州の俳人井上井月の「除け合うて 二人ぬれけり 露の道」と同じようなことが犬の散歩でも起こる。道の向こうから犬を連れたひとが来ると、すれ違う時に「おはようございます」と挨拶を交わすのだが、犬同士が鼻を突き合わせるほどに近づく。もしものことを考えてお互いにリードにロックをかけて手前側に引っ張るような姿勢をとる。リードを持つ手に少し力を入れながら道端の草むらに足を踏み入れて思わず朝露を踏む。「朝露を 踏みし靴あと 吠ゆる犬(Alt)」草に乗る朝露を乱してしまった靴あと、まるでそれを注意するかのように犬が吠えたのである。まさか、愛犬Aliceに句心があろうとは思えないので、たまたま相手の犬に向かって吠えたのだろう。しかし、犬にも句心があればさぞかし面白い句を詠んでくれるのではないだろうか。目線の低さは何よりの特徴で、人には見えない景色を見ているはずである。地面に近いぶん観察力も鋭くなるし、言うまでもなく嗅覚や聴覚は抜群なのである。虫や小さな雑草、草の臭いや地を這う風音など、俳句になりそうなものは多い。散歩しながら17文字で語り合うなんて素敵ではないか。もしも、もしもであるが愛犬Aliceが踏まれた朝露のことを思って私を注意して吠えたとしたら、これからは「もののあはれ」がわかる俳犬Aliceと呼ばなければならない。

     当然のことだが愛犬Aliceも人間と同じように感情を持っている。朝、散歩用のリードをつけようとすると飛び上がってもう待てないと喜ぶ。ぬいぐるみを咥えて振り回している時に、そのぬいぐるみを取ろうとするとウーと唸って怒る。夫婦で出かけてしまう時には留守番が嫌なのか、玄関先で哀しそうな目で私たちを見つめる。廊下の向こうにぬいぐるみを投げると走って咥えて戻ってくるのだが、もう一度とせがんで何回も繰り返して楽しんでいる。少なくとも人間と同じように喜怒哀楽を感じている。犬は景色を見て素晴らしいとか美しいとかは感じないらしいが、眠たくてまさに瞼が閉じようとしている時の表情や、好きなぬいぐるみと遊んでいる時やおやつを前にした時の真剣な顔つきを見ると、その時々の気持ちによって感情が動いていることがわかる。人間と同じレベルで感動はしないかもしれないが、犬独特の感性で心が揺れることがあるに違いない。ということは隠れた句心があるのではないかと思う。ただこれを言葉に表せないだけである。それならば、家族の一員として俳犬Aliceの句心を読み取ったらいいのではないか。

    朝露や 光跳ね飛ぶ 靴の先(Alt)
    朝露に 草の香混じる 鼻の先(Alice)

    蟷螂の 見つめる先や 犬一人(Alt)
    目を合わせ 蟷螂匂う 葉蔭かな(Alice)

    不思議な目 何を思うか 秋歩き(Alt)
    時々は 振り向いてみる 秋歩き(Alice)

    AIによれば、犬は朝露に反射する光を捉えるし、水に濡れた鼻の嗅覚は土や草の香りに対してより敏感になり、肉球は温湿度の変化までも感じるそうだ。体の動きや目で感情を表現したり、前足で土を掘る動きをしたりという犬独特の習性もある。目にするものは青色系か黄色系に見えてしまうらしいから、犬の色の世界は人間とは違っている。俳犬の歳時記はさぞかしユニークなものだろう。17文字の出来不出来は別にして、俳犬Aliceとの朝の散歩はちょっとした吟行ともいえるのではないか。

     
     
    🍀一級建築士/🍀エッセイスト 🦋が花から花へ飛ぶように、本から本へと遊び回る。思考がいろいろな場所を散歩するような気持ちで言葉を重ねていきます。著書「素晴らしき哉、読書尚友」。

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