
文学VSラノベとかいう不毛な話
読書の秋になると、創作大賞の熱も少し落ち着いてきて、その代わりに「ジャンル論」が前に出てくる。
その中でも定番なのが、
文学 VS ラノベ
みたいな話だ。
正直、文学を上、ラノベを下みたいに並べる話は昔からあまり好きじゃない。
だって、今では「文学」と呼ばれている作品だって、当時はバリバリの流行りものだったから。
例えば夏目漱石。
新聞連載の締め切りに追われていた売れっ子作家だった。
太宰治だって雑誌メディアの人気作家だった。
『斜陽』が出れば「斜陽族」→「社用族」なんて言葉が生まれた。
○○族の祖。
今で言えば、完全にバズ作品だ。
芥川賞作家の石原慎太郎だってそう。
伝説の「ナニを障子に突っ込む」で有名な『太陽の季節』が大ヒットし、若者たちは慎太郎カットで街を歩いていた。
文学というより、むしろ若者文化そのものだった。
薬物とセックスを描いた『限りなく透明に近いブルー』もある。
吉行淳之介の『夕暮れまで』からは「夕暮れ族」なんて言葉まで生まれた。
中年男性と女子大生のカップル(愛人)を指した流行語みたいなもので、それを意識した「夕ぐれ族」という愛人バンクが社会問題になったこともある。
つまり昔から文学なんて、めちゃくちゃ俗っぽい。
少なくとも、最初から神棚の上に置かれていたわけじゃない。
その時代の人たちが面白がり、騒ぎ、夢中になった作品が、何十年も経って研究され、分析され、いつの間にか「文学史」の中に収まっていく。
だから、あと数十年もしたら『失楽園』が教科書に載っていても何も不思議じゃない。
例えばこんな解説が付くかもしれない。
バブル崩壊後の日本社会における中年男女の閉塞感と死生観を描いた金字塔。
経済成長神話の終焉後、制度化された家庭と企業社会の外部に生の実感を求める中年男女を描き、平成日本における欲望と死の結びつきを可視化した作品。
なんて文学的なんだろう。
日経新聞を折りたたみながら涙をこらえて読んでいた当時のお父さんたちは、実は崇高な文学作品を読んでいたことになる笑
では、今は格下扱いされがちなラノベやなろう系はどうか。
たぶん50年後、60年後には、その一部についてこんなことを言われている。
長期停滞下の日本社会において、所属・労働・評価制度に閉塞感を抱えた若年層が、異世界という再配分空間に自己効力感と承認を託した物語群。
特徴として、
能力が正当に評価されない現実社会への不満
努力よりも適性やスキルが可視化される世界への欲望
共同体から排除された主人公が別世界で再評価される構造
恋愛、仕事、階級上昇を一括で再設計する願望
などが挙げられる。
そんな分析が語られた結果、『転生したらスライムだった件』が大学受験に出題されても、別におかしくはない。
「次の文章を読み、リムルが共同体形成において果たした役割を80字以内で説明しなさい」
なんて問題が出てくるかもしれない。
受験生は必死で赤線を引く。
今、私たちが漱石にやっていることと、たいして変わらない。
文学を語れば頭が良さそうに見える時代も、そろそろ終わりにした方がいいんじゃないかと思う。
変に崇高なものにして神棚に祀ってしまうと、手を伸ばしにくくなる。
感想も言いづらい、文学警察がいそうで嫌だ笑
「読みが浅い。この背景には……」
うるさいよ
文学はマウントを取るための道具じゃない。
「俺は読めるんだぞ」
みたいな優越感のためのアクセサリーでもない。
その時代の人たちが何を面白いと思い、何に心を動かされたのか。
そこには、あとから見れば時代そのものが残っている。
文学もラノベも漫画もなろうも、全部そうだ。
その時代では単に面白がられていたものを、何十年か後の研究者が拾い上げる。
「実はこの作品には、当時の社会構造が反映されていて」
「主人公の行動には、当時の若年層の閉塞感が」
なんて言い始める。
そして気がつけば神棚に祀られている。
だいたい上から文学を語る人って面白くないし、個人的には「文學」なんて旧字体で書き始める人はちょっと、かなり苦手。
まあ、それは置いておこう。
ジャンルなんて、そこまで気にしなくていい。
文学でもラノベでもなろうでもいい。
その時代の人間が面白がって読んだ。
誰かの中に何かが残った。
あとから勝手に研究者が難しい名前をつける。
それくらいでいいんじゃないかと思う。
編集後記
Web小説はフックを置かないと離脱される。つかみが大切!
「恥の多い生涯を送ってきました」
どんな人生だったのー?
「吾輩は猫である。名前はまだ無い」
名無し猫、気になる。なぜしゃべる。
「ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた」
なんでそんなところで待ってる?
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」
いきなりキャラ提示。
「メロスは激怒した」
早い! すぐにわかる笑
「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」
おぉ、なんかヤバそう。何があったよ?
「こいさん、頼むわ――」
会話から。
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた」
カフカ、ちょっとした「なろう系」の始まりで面白いな。
なお、本編チートなし。
気味悪がられるだけ。
ダーク系呪いかな?笑
どうやら昔も「つかみ」は大切だったみたいです。