
白露|おいしかった。どちらも。そして、うれしかった。
日曜日の午前はお仕事だった。
午後は雨予報だったので、お弁当をササっと食べて帰途についた。自宅の最寄り駅への到着時刻を調べて嫁さんに連絡する。
電車のなかでは重松清さんの「ステップ」読んでいる。主人公の健一は最愛の妻を亡くし、幼い娘の美紀と再出発をかけて毎日を過ごしている。
義理の家族や仕事の同僚との関わり合い、父と娘の関係性が成長と共に変わっていく様子がなんとも愛おしい。家に帰るまでには読み終えそうだ。
最寄り駅まであと3駅というところで、急に眠気を感じた。
少し目をつむってみようか、と読んでいた本を閉じてリュックのなかにしまった。
目を開けると、窓から見える景色は見覚えはあるが、何かが違っていた。
「うわっ!これK駅やん。寝過ごしてたんやわ!」
こんなことは久しぶりである。
嫁さんから「駅に着いたよ。どこにおるん?」と連絡が来ていた。
K駅にいることを伝えた。昼過ぎの時間帯は本数が少ない。最寄り駅から2つ先のK駅まで迎えにきてもらうことになった。
帰宅すると、娘が台所でケーキ作りをしていた。ご近所のМおばちゃんに持っていくのだそうだ。娘は、この間のブルーベリーマフィンを喜んでもらえたのがよっぽど嬉しかったようだ。いい時間を過ごしているように思う。
ケーキ作りのお手伝いはできそうにもないので、畑に行く。

黒大豆は開花時期を迎えている。恵みの雨が続いたので、花が散り、そろそろ莢がつき始めているかもしれない。

黒大豆の畝は大小合わせて、9つある。ゆっくりと歩いて回る。あった、あった。莢があった。さあ、ここからだ。実りの秋へ一歩進んだように思う。
家に戻る。今にも雨が降りそうな空をしているので、ワンコを連れて早めの散歩に出る。
ご近所さんと会って少し立ち話をした。
「降りそうで降らへんねぇ、どないなってんのん?」
「ホンマやねぇ、夜には降るかもしれませんねぇ」
嫁さんと娘が乗った車が出先から帰ってきた。
チョコレートケーキを持っていくと、チーズケーキをもらったらしい。

「とーちゃん、どっち食べるー?」と娘が言う。
「どっちもでお願いします」と返事した。
おいしかった。どちらも。そして、うれしかった。
食べ終わってすぐ、娘に「ごちそうさまでした」と伝えた。
電車で寝てしまっていたせいで読めていなかった「ステップ」を読む。
おじいちゃん おばあちゃん 良彦おじさん 翠ちゃん
わたしは、3月15日に小学校を卒業します。
ママが亡くなってからずっと、おじいちゃんやおばあちゃんたちには、ほんとうにお世話になりました。
ママがいないのでさびしかったこともあるけど、おじいちゃんやおばあちゃんたちのおかげで、毎日とてもたのしく学校に通うことができました。
ありがとうございます。
わたしは、世界一幸せな女の子だと思います。
一生かかっても恩返しはできないと思いますが、お礼の気持ちをお伝えしたくて、卒業式のあとで謝恩会を開きます。どうかみなさんご出席ください。
悲しみや寂しさを早く消し去りたいと思っていたのは、いつ頃までだったろう。いまは違う。悲しみや寂しさは、消し去ったり乗り越えたりするものではなく、付き合っていくものだとーーー誰かが、というのではなく、僕たちが生きてきた日々が、教えてくれた。
最後まで読んだ。
だんだん胸が熱くなっていって、しばらくその場から動けなかった。
今日からまた新しい一週間が始まる。
▼はしさんの私の二十四節気に参加しています。いつもありがとうございます。