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『剛力流の夜明け』#マッチョ華道#毎週ショートショートnote(追記あり)

     華道とは、静寂である。

     呼吸を整え、己の雑念を削ぎ落とし、ただ一輪の命と対話する。室町より続く白百合流の第二十四代家元として、私はその教えを骨の髄まで叩き込まれて生きてきた。

     だからこそ、目の前で繰り広げられているこの光景が、信じられなかった。

    「切れてる! 茎がバッキバキに切れてるよ!」

    「若、肩に花器乗ってんのかい!」

     静まり返るはずの大広間に、野太い怒号がこだまする。

     壇上にいるのは、我が息子・蓮(れん)。

    『静寂の中に花を閉じ込めるのはもう古い。花も人も、もっと熱狂の中で咲くべきだよ』

     戯言をぬかし、私と大喧嘩の末に新流派『剛力流』を立ち上げた。

     今日は初めての公開実演だ。

     私は最前列で扇子を固く握りしめ、眉をひそめた。

     なんという浅ましい掛け声か。品性のかけらもない。

     客席を埋め尽くす若い弟子たちが、蓮が枝を剪定するたびに血管を浮かび上がらせて叫んでいる。

    「背中に千利休が宿ってる! 鬼の枯山水!」

     聞いていられない。私は立ち去ろうと腰を浮かせた。

     だが——その目が、壇上から離れなくなった。

     白紋付を着た背筋の伸び、花鋏を扱う指先の繊細さ、茎の断面を見極める確かな眼光。それらは忠実に作法に則ったものだった。

     ただ、違うのは熱量だ。

     弟子たちの暑苦しいコールを浴びるたび、息子の瞳に異様なまでの集中力が宿り、ハサミの鋭さが増していく。

     生けられていく百合や松の枝が、命を宿したかのように空間を支配していく。それでいて、虫食いの葉と枯れ枝が調和し、小さな世界を形作る。

     私は浮かせた腰を元に戻した。

     最後の主役、極太の枝垂れ桜が持ち上げられる。

     蓮が息を吸い込み、深々と腰を落とす。会場の空気が張り詰める。弟子たちも固唾を呑み、息を止めた。

     ドスッ、と重たい音がして、桜の枝が剣山の中央へ、寸分の狂いもなく打ち込まれた。

     大広間の空気が爆発するように揺れる。

    「うおおおおおっ!」

    「静寂がパンプアップしてるよ!!」

     割れんばかりの拍手と歓声の中、私の胸の奥が、何故だかトクトクと速く波打っていた。

     ふと、口元が緩むのを覚えた。

     私は扇子でそっと口元を隠し、誰にも聞こえないほどの小声で、舌の上で転がすように呟いてみた。

    「……剣山が、泣いて喜んでるよ」

     言った瞬間、耳たぶがカッと熱くなった。

     私はそっと立ち上がり会場を後にした。



    【お知らせ】
     静寂も筋肉も出てきませんが、魂を削って書いた本格ダークサスペンス連載小説『共生者——戦略資産としての人狼——』が、全10話(約2万5000文字)で堂々完結しました。是非第一話からご覧ください。
     なお、本作は一切ふざけておりません(笑)

    「駆除するより、飼ったほうが得だ」

     千葉の雑木林で見つかった、頭蓋骨を素手で割られた遺体。
     追うのは、警察組織の不自然な隠蔽に抗う新人刑事・三上陸。
     追われるのは、15歳で自らの血の宿命を知らされた少年・真壁朔。
     捕食する者と、飼い慣らす国家、そして間引かれる人間。
     二つの視点が交錯するとき、世界の前提が静かに崩れ落ちる。

    『共生者』



    【追記】

     本作が毎週ショートショートnoteの毎ショセレクションで紹介されました。田原にかさん、ご紹介ありがとうございました!

     
     
    ホモサピエンスが繁栄したのは「物語」のおかげらしいぞ! 日常の理不尽と戦う(たまに逃げる)すべての人へ。 7000時間インプットした本の海からインスピレーションを得て、不条理フィクションや青春物語を紡いでいます。 泥沼社会人が描く「笑いと絶望のエンタメ」が皆さんに届きますように!

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