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私が覚えていたのは、彼じゃなくて音だった。|あの頃のスカイラインとBOAから、歌を作った

    元彼のことを書いた。

    そしたら、昔のことを、ふと思い出した。

    付き合っていた人が、黒のスカイラインに乗って家まで来ていたこと。

    夜になると、後ろの丸い赤いテールランプが印象に残っていた。
    車内には、青い光があった。

    エンジンの、乾いた低い音。
    「ブゥン」と鳴って、アクセルを踏むと車体が動く。

    マニュアル車だったから、ギアを変えると、
    カチッ。と音がして、身体が少し前に揺れる。

    その感覚が好きだった。
    そして何より、車のスピーカーから出る低音が好きだった。

    当時、車の中でよく流れていたのがBoAだった。

    私の記憶に強く残っているのが「Amazing Kiss」や「VALENTI」。
    懐かしくなって、久しぶりにその曲を聴いた。

    記憶の中では、ものすごく低音が響く曲だった。
    ところが、改めて聴いてみると、音源そのものはそこまで低音が強いわけではない。

    どうやら私は、曲そのものよりも、
    あの車のスピーカーで聴いた音を覚えていたらしい。
    かなり低音を強くした設定だったのだと思う。

    黒い車。
    赤いテールランプ。
    青い車内の光。
    ギアが変わる音。
    身体に響く低音。
    そこで流れていた、透明な女性の声。

    そういうものが全部ひとつになって、私の中に残っていた。

    そして、「ああいう音が好きだったんだ」と気づいた。

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    そこで、あの頃に聞いていたような曲が聴きたくて、曲を作ってみた。

    BoAの「Amazing Kiss」みたいな歌を作りたかったけれど、なかなか同じようにはできなかった。

    速めのテンポ。
    2000年代っぽいJ-POP。
    少しR&Bのニュアンス。
    透明感のある女性ボーカル。
    低い音から高い音まで、大きく動く声。

    そして、身体に響く低音。
    夜の道路を走っているような疾走感。

    いくつか作ってみて、ちょっとおかしい部分もあるけれど、今回はメロディー重視で選んだ。

    アルバムタイトルは、「LOW SOUND」

    作っているうちに、良くわからなくなってきたのだけれど。
    多分ドライブに合うはず…。


    そういえば、もうひとつ思い出した。
    実家には、大きめのテレビとステレオセットがあった。

    いろんな音の調整ができるつまみがついていて、子どもの私には、それがちょっとした機械のように見えていた。

    その中で一番好きだったのが低音の調整だった。
    低音を強くできるつまみを、いつも最大にする。

    今思えば、かなり分かりやすい好みだ。

    父も、映画を見るときにはそうしていたのだと思う。
    家の中に、映画の音が響いていた。
    一階で見ているのに、二階にいても低音が聞こえてくる。

    ドン、と響く音。身体の中まで届くような音。
    私は、多分あの感じが好きだった。

    それが父の好みだったのか。
    父がそうしているのを聴いて育ったから、私も好きになったのか。
    それとも、もともと私自身が低音の強い音を好む人間だったのか。
    そこは分からない。

    でも、思い返してみると、
    スカイラインに乗っていた頃より、ずっと前からきっと、私は低音が好きだった。

    そう考えると、あの車の中で聴いた音が好きだったのも、偶然ではなかったのかもしれない。

    「この音、好きだな」と思ったのは、そのとき初めてではなくて。
    もしかすると私は、ずっと前から同じものを好きだったのだ。


    作っているうちに、今回の曲が「元彼の思い出」ではないことがはっきりした。
    もちろん、あの人がいなければ、この記憶は生まれていなかった。

    でも、今の私が覚えているものを一つずつ取り出してみると、

    顔よりも、
    言葉よりも、
    一緒にいた時間よりも、

    音のほうが鮮明だった。

    人との思い出なのに、最後まで残っていたのは人ではなかった。

    赤い光。
    青い光。
    ギアの音。
    低い音。
    高音から低音まで動く声。
    夜の空気。

    そして、

    「私はこういうものが好きなんだ」

    という、自分自身の感覚だった。


    たぶん、記憶って全部が均等に保存されるわけじゃない。

    その人のことを忘れていても、その人といた場所の匂いだけ覚えていたり。
    会話の内容は忘れているのに、ある曲を聴くと当時の景色だけ戻ってきたり。

    私の場合は、どうやら「音」と「光」が残りやすいみたいだ。

    そして二十年以上も経ってから、その音を手がかりに、
    昔の自分が何を好きだったのかを見つけた。

    面白い再発見だった。
    過去を振り返っているようで、実際には今の自分を見つけている。

    「あの頃に戻りたい」ではない。
    「あの人に会いたい」でもない。

    ただ、私は、あの音が好きだった。
    そして今も、こういう音が好きなんだと思う。

    そうやって、昔の記憶の中から「自分の好き」を拾い直していく。
    今回作った「LOW SOUND」は、そんな記録になった。

    昔の恋愛の記録というより、
    自分の感性がどこから来たのかを、少しだけ観測してみた記録。

    たぶん私は、あの頃からずっと、
    こういう音を探していたのだと思う。

    そして今回、自分でその音を作ってみた。

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    私が覚えていたのは、彼じゃなくて音だった。|あの頃のスカイラインから、歌を作った

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    夫婦で飲食店を営みながら、実体験をもとに創作と記録のあいだを綴っています。 スキとフォローの返しはしておりません、すみません。 INTP-T / Cool Winter(旧名:深海のアンコウ女)

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