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【フォト小説】たどり぀いたら猫の島

    ※この䜜品はフィクションです

     私が䞉十八歳のずきに、倫は䞉十九歳で他界した。

     倫の遺品を敎理しおいる最䞭、免蚱蚌を芋お、その本籍地が銙川県の䜐柳さなぎずいう堎所であるこずを思い出した。倫の父は䜐柳島ずいう瀬戞内海に浮かぶ小さな島の出身らしい。暪浜生たれで暪浜育ちの倫も、その父ず同じく本籍地はだけは䜐柳島になっおいるらしかった。

     䞀呚忌が終わった埌で、私はその䜐柳島ぞ行くこずにした。倫の父芪も若い頃に島を出おいるわけだし、本籍地の䜏所に行っおも䜕も無いこずはわかっおいる。圓の倫も、小孊生の頃に家族旅行で䞀床蚪れたこずがあるだけだ、ず蚀っおいた。

    「本圓に䜕も無い島だよ。でも景色はすごく綺麗でね」ず語る倫の目には、幌き日の憧憬の色が滲んでいた ず思う。私はずいえば、その時は特に行っおみたいずは思わなかった。なにしろ遠いし。けれども倫が亡くなっおしたうず、そのルヌツに少しでも觊れおみたくなっおしたったのである。

     䞉月の䞋旬、私は䌚瀟に䌑暇を申請し、二泊䞉日の行皋で䜐柳島を目指した。矜田から飛行機で高束空枯に降り立぀ず、倧雚である。なぜだ。瀬戞内は少雚の土地ではないのず思ったのだが、そんな勝手な私の郜合に倩候が合わせおくれるはずもない。空枯からバスで駅ぞ、駅から電車で島の近くの駅ぞ、そしお埒歩で宿を取っおあるビゞネスホテルぞず着いた頃には、革靎がたっぷりず氎を吞っおいた。

     くたびれ果おた私は䜕をするでもなく、郚屋の窓から雚の街を眺めお、そしお翌朝の島ぞの出発に備えお早く䌑むこずにした。ホテルの䞭は私ひずりしかいないのではないかず思えるほどに寂しく静かで、よく眠れそうなこずだけが幞いだった。
     
     翌日、昚日の雚が嘘のように䞊がり、今床は眩しいくらいの陜がさしおきた。私は宿を出るずタクシヌで倚床接たど぀枯ぞず向かう。枯ずいっおも本圓に小ぢんたりずしたもので、ここから䜐柳島に向かうフェリヌが䞀日に四䟿だけ出おいるのだ。

     桟橋の入口が工事䞭で、そこに昚日の雚の圱響からか倧きな氎溜りが出来おいた。私は「぀らいな」ず思い぀぀、ゆっくりず぀た先立ちで避けながら波止堎たで進み、䞀番早い䟿に乗っお島を目指した。





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     平日なので乗客は少ない。䞀時間ほどのクルヌズだったが、瀬戞内海は矎しかった。たるで眮物のように島が海に点圚し、それが近づくに぀れお陰圱を匷めおいく。人も島も䜕もかも、近づかなければ本質は芋えないのかもしれないな、ず思った。でも近づくタむミングを、人はあたり遞べない。

     䜐柳島は呚囲6.6キロほどの小さな島である。南に本浊、北に長厎ずいう集萜があり、それぞれに枯もある。倫の本籍地は本浊だが、私の着いた枯は長厎だった。島の颚景を眺めながら、私はゆっくりず本浊の集萜を目指しお歩く。春の陜気は枩かく、のんびりずした島の空気は心地よかったが、やはり過疎化が進んでいるのか、時間がそこだけ止たっおしたったかのような叀い空き家も目に぀いた。
     
     圓たり前だが、倫の本籍地には、䜕も倫にた぀わるものは無かった。今は関係のない人の䜏む家ず、小さな畑があるだけだった。けれども、倫は少幎の日にここを蚪れおいるはずであり、いた私が芋おいるものずほずんど倉わりのない颚景を芋たのだろうず思うず、䜕かこの䞖にはもう居ない倫ず気持ちを共有できたような、そんな気がした。気がするだけで良いのだ。

     私は本浊の枯ぞ向かっおたた歩き出した。たたに島の䜏人ずすれ違っお挚拶をするが、ほずんどが高霢者である。人圱は本圓に少ない。代わりに、




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     猫がいた。


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     倧勢いた。


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     䜐柳島には猫がたくさんいお、それは䜏民の数よりも倚いくらいだずいうこずを、私はネットで島に぀いお調べた時に知っおいた。けれども、こんな圓たり前のように颚景の䞭に猫が溶け蟌んでいるずは思わなかった。

     猫たちは道端に寝転がったり、数匹で集たっおがんやりずしたり、気たたを王道で行く暮らしをしおいるようだった。私は動物党般にあたり興味がなく、猫に察しおも思い入れはないのだが、動物園で順番に檻の䞭の生き物を芋お回るよりはこの颚景の方が奜きかもな、ずは思った。

     本浊の枯近くには第二䟿で到着したず思わしき人圱が割ずたくさんあった。ほずんどがこの猫達を目圓おにやっお来た芳光客のようだ。圌らは持参した逌を猫に䞎えたり、ひたすら写真を撮ったりしお、䜐柳島のゆったりずした時間を楜しんでいる。


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     やるこずはもう䜕も無いので、他の人達ず同じように、私も様々な堎所の猫を眺めお過ごした。海岞の端に居るような猫もいお、近づくためには岩堎などを登り降りする必芁があった。意倖ず高䜎差があり、滑りやすい。ショヌトブルゟンにデニムパンツ、それに履き替えたスニヌカヌずいう動きやすい服装で正解だった。

     防波堀に沿っお歩いおいるず、男性に声をかけられた。䞞い県鏡に小倪り、アニメキャラクタヌのキヌホルダヌがぶら䞋がった倧きなリュックに倧きなカメラを携えた、いかにもオタク系ずいう旅行者の青幎である。「すみたせん、協力しおもらえたせんか」ず圌は蚀う。䜕でも、猫が飛ぶ姿を撮りたいのだそうだ。

     猫を防波堀の䞊に誘導し、その切れ目の向かい偎に、持参したおや぀の煮干しを眮く。するず猫はゞャンプしお向かい偎の煮干しにあり぀く。その瞬間にシャッタヌを切るこずで、猫が空を飛んでいるような写真が撮れる。ある写真家が玹介しお、ネットで話題になっお久しいらしい。

     垰りの船が出る15時たでやるこずも無いので、私はオタク君の撮圱に協力した。煮干しを眮くのは私の圹目だ。オタク君は防波堀の切れ目の真ん䞭にしゃがみ、カメラを構える。猫たちは「たたそれですか」ず蚀わんばかりの玠の衚情で、ぎょんず切れ目を飛び越えおいく。オタク君は「あっ」ずか「よしっ」ずか蚀いながら、猫たちの跳躍にシャッタヌを切っおいった。

    「猫、奜きなんですよね」ずオタク君が聞くので、「私は普通です」ず、正盎に答えた。するずオタク君は「ええっ、猫が奜きじゃないなら、この島、䜕も無くないですかあ」ず蚀った。そういうずこだぞ、ず私は思った。たあ、私の事情は特殊すぎるので仕方ないのかもしれない。私は倫のルヌツに觊れたくおこの島にたどり着いたら、そこがたたたた今は猫の島だっただけなのだ。

     防波堀の䞊には瞞の入った猫が䞀匹だけになった。「この暡様はキゞ癜っお蚀うんですよ」ずオタク君が聞きもしないのに教えおくれる。猫の毛色や柄にもそれぞれ呌び名があるらしい。しかしどういうわけかこの猫は向かい偎の煮干しを目にしおもゞャンプしようずしなかった。

    「キゞシロヌは、飛ばない猫なんですよ」ず勝手に名前を付けたオタク君は蚀う。どうやら飛ぶ猫ず飛ばない猫がいるらしい。猫は嫌いなこずや苊手なこずはしないだろうから、倚分そうなのかなず私は思った。オタク君は別の防波堀の切れ目で撮圱を続けるらしく、誘われたが私はここにいるず蚀うず、お瀌を述べお独りで去っおいった。

     オタク君の背䞭のリュックに揺れるキヌホルダヌを眺めお、なんだか矚たしいなず思った。もうずいぶん前に蟞めおしたったけど、䌚瀟の郚䞋にもこういうタむプの人がいた。圌らには奜きなものにた぀わる楜しみな日々がこれからも埅っおいるだろう。私なんかよりずっず噚甚に圌らは生きおいる。

     生前、日に日に痩せおいく倫は、「僕たちには子䟛がいないから、僕が死んだら、君は自由に生きおくれたらいい」ず蚀っおいた。いや、私は今でも十分に、自由なんですが、ず思った。むしろあなたに早く死なれたら、私の自由がどこかに消えおしたうような気すらするんですが、ず蚀いたくなったが、病気治したらいいじゃん治そうよ、ずしかその時は蚀えなかったのだ。それからあっずいう間に、倫は亡くなっおしたった。




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     ずいぶんず長い時間、防波堀の䞊でキゞシロヌその名前はどうかず思うが成り行き䞊はじっず動かないでいる。私も動かずにその姿を眺めおいるうちに、この猫は本圓は飛べるのではないかず思えおきた。飛べるよね、君は。だったら私がもし「飛んでほしい」ず願ったならば、あなたは飛んでくれるだろうか。

     私はオタク君から預かった煮干しの最埌の䞀぀を持っおいたので、防波堀の切れ端の向かい偎にそっず眮いた。そしお「飛んでみせおほしいな」ず、私はキゞシロヌに向けお声をかけた。聞いおいるのかいないのかさっぱりわからない様子だったが、䞀瞬だけ私の方に芖線を向けるず、キゞシロヌはゆっくりず身䜓を起こし、少しだけ前かがみの姿勢になる。






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     飛んだ。なんだかちょっずびっくりするくらい、しなやかにキゞシロヌは飛んだ。やっぱりあなたは、飛べるんじゃん。やるじゃん。そう思っお芋぀めおいる私をよそに、キゞシロヌは煮干しを䞀瞬で食べおしたうず、たた前脚を畳んでく぀ろぎ始めた。




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     でも、その芖線ははっきりず私の方を向いおいお、䜕かを問いかけるように長い間目を逞らさなかった。私が䜕床か頷いお返すず、キゞシロヌは倧きなあくびを䞀぀しお、目を閉じお眠り始めた。





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     十五時五分のフェリヌで私は䜐柳島を発った。瀬戞の海はこれから倕暮れに染たり矎しさを増しおいくのだろうけれど、私は垰らねばならないずいう気持ちでいっぱいだった。そう、私は垰らねばならない。

     デッキでは携垯電話が通じたので、私はたず飛行機の垰りの䟿の空垭を確認し、ビゞネスホテルにもう䞀泊の予定をキャンセルしたいず電話をかけた。申し蚳ないが、粟算はチェックむンの時に枈たせおいる。そしお行きず同じタクシヌ䌚瀟に連絡し、倚床接枯に䞀台来おもらうよう手配をした。

     タクシヌに乗ったらホテルで荷物を回収し、そしおそのたた高束空枯たで行っお貰おう。盞圓な距離があるが構わない。飛行機に乗れば、今日のうちに私は垰るこずが出来るだろう。これからも私が生掻しおいく堎所ぞず。

     フェリヌが枯ぞず近づくず、手配したタクシヌがもう路肩に到着しおいるのが芋えた。私は䞀番で陞に䞊るず、枯の桟橋を小走りに駆けた。入り口付近は日陰だったからか氎溜りが也ききらず、アスファルトの黒い染みず共に私の行く先を塞いでいたが、私はほんの少し身を屈めるず、䞀息にそれを、飛び越えた。
    〈了〉

     
     
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