
【落とし物の持ち主さま】の持ち主さま
子どもがまだ小さかった時、家族で某テーマパークへ出かけた。楽しい一日の終わりが近づいた頃、ふと気づくと息子の靴が片方なくなっている。
この広い園内で見つかるとは、とても思えなかった。息子は、まだいつも抱っこだったので、歩かせることもほとんどない。靴がなくても困らない。そう自分に言い聞かせて私はあっさり諦めた。
閉園間近、お土産を買って出口へ向かいゲートをくぐる寸前、アナウンスが耳に入った。
「機関車トーマスのイラストが入った、十二センチの靴をお預かりしています」
まさか、と思った。
「『落とし主の持ち主さま』、お心当たりの方は……」
(本当は「落とし物の持ち主さま」と言いたかったのかもしれない)
「落とし主の持ち主さま」?
靴の持ち主の、さらにその持ち主。まだ歩かない小さな息子の代わりに、親である私を呼ぶ少しおかしくて優しい呼びかけに聞こえた。
あの靴は、亡くなった義父が息子に贈ってくれたファーストシューズだった。
私が簡単に諦めてしまった小さな靴を、名前も知らない誰かが拾い、届け、探してくれていた。無事に手元へ戻ってきたとき、言葉にならない温かさが胸いっぱいに広がった。
あれから長い年月が過ぎたけれど、あの靴は今も取ってある。
あの日を思い出すと、「ぼちぼち…」と断捨離しようとする手を止まらせてしまう。
#拝啓文芸部
企画に参加させていただきました╰(*´︶`*)╯♡