
「花」の行書は、横画を最後に書く。──書道用品店が「行書の書き順アニメ」を作った話
こんにちは。篆刻と書道の道具を扱っている「アジア篆芸」の店長です。
今日は商品の話ではなく、最近つくった小さな無料ツールの話を書いてみます。
▼ 先に置いておきます(無料・登録なし)

書道の道具を売っていて、気になっていたこと
お店では筆や墨、半紙、篆刻の道具などを扱っています。道具をそろえる方の中には、学校の書写や書き初めをきっかけに書道を始める方も少なくありません。
道具がそろっても、つまずきやすいのが「どう書くか」のほう。とくにお手本と書き順は、家で練習するときに一番困るところではないかと思っていました。
そこで、まず好きな言葉でお手本を作れる 習字のお手本メーカー をつくり、次に 漢字の書き順アニメーション をつくりました。

書き順サイトはたくさんある。でも、行書がない
書き順を調べるサイトやアプリは、すでにたくさんあります。一画ずつ動くアニメーションも珍しくありません。
ただ、調べていくうちに一つ気になることがありました。どれも楷書(教科書の字)の書き順なんです。
中学校の書写では行書を習います。そして行書には、楷書とは書き順が変わる字があります。
試しにGoogleで「行書 書き順」と検索してみると、上位に出てくるのは解説記事やPDFの資料ばかり。一字ずつ動きで確かめられるツールは見当たりませんでした。
「それなら、うちで作ろう」と思ったのが、今回の始まりです。
たとえば「花」の行書は、横画が最後
いちばん分かりやすい例が、草かんむりです。
楷書:横画 → 縦 → 縦(カタカナの「サ」と同じ順番)
行書:点 → 点 → 横(「ソ」を書いてから、最後に横画)
花・草・茶・葉・薬……草かんむりの字はとても多いので、行書を書く人は毎日のようにこの「入れ替え」をしていることになります。
ほかにも、こんな字があります。
「書」:行書では、まん中の長い縦画を一番最後に書く
「成」「感」「戦」:「戈」の部分で、点を先に書いてから左払い
「馬」:中の縦画をあとに回す
どれも、前の画の終わりから次の画へ、筆をなめらかにつなぐための入れ替えです。理由が分かると、「ちがう書き順」が急に自然に見えてきます。
▼ 「花」「書」「成」を楷書と行書で並べて再生できます 行書・楷書の書き順アニメーションで見る
一覧で確認したい方は、ブログにまとめています → 行書で書き順が変わる漢字
間違ったことは書けないので、専門家の資料を読み込んだ
書き順のツールで一番こわいのは、まちがった順番を表示してしまうことです。子どもが見て、そのまま覚えてしまうかもしれません。
行書の書き順は、楷書のように国が一つに決めたものがありません。くずし方も何通りもあります。そこで、ネットの断片的な情報ではなく、書写教育の専門家(山梨大学名誉教授・宮澤鷲州先生)が専門誌で解説している例を一つずつ確かめて、動きに落とし込みました。
今のところ、行書で書き順が変わる表示に対応しているのは、草かんむり・耳へん・「馬」「書」「里」「重」「安」・「戈」をふくむ字など、約60字です。それ以外の字は、楷書の書き順を行書の形に当てはめた「目安」として表示しています。
画面には楷書と行書が並んでいて、行書の書き順が変わる字には「行書で筆順が変化」という印が出るようにしました。
▼ 実際に動かしてみてください(無料・登録なし) 行書・楷書の書き順アニメーション
作ってみて思ったこと
行書の書き順を調べていて一番おもしろかったのは、**「書き順は、きれいに速く書くための工夫の積み重ね」**だということでした。
楷書の書き順は「正しさ」を教えるもの。行書の書き順は「筆の気持ちよさ」を教えてくれるもの。同じ字でも、書体によって筆の通り道が変わるのは、毛筆ならではの面白さだと思います。
ただし、学校の書写のテストや課題では、教科書と先生のお手本が基準です。このツールは「どうしてこの順番なの?」を理解するための補助として使ってもらえたらうれしいです。
あわせて使えるもの
習字のお手本メーカー:好きな言葉で、楷書や行書のお手本を作って印刷できます。書き初めの練習にも。
行書で書き順が変わる漢字のまとめ(ブログ):今回の字を表にして、楷書との違いを詳しく解説しています。
書道をしている方、お子さんの書写を見ている方、学校の先生。「この字も行書で変わるよ」という情報があれば、ぜひコメントで教えてください。確かめたうえで、ツールに追加していきます。