
お気に入りの時間
月を見る男の目に一滴の雫が落ちた。
「うわっ」
男は目を瞬いた。
「ふふ、目薬さしてあげただけよ」
女が人差し指で男の唇にそっと触れた。
この家を建てるとき、寝ながら月が見える大きな天窓を特注したのだ。
それは男のお気に入りの時間だった。
「あれっ、なんか目の前が真っ暗で何も見えない。月もキミの顔も」
女はベッドからおり、男を見下ろした。
「うっ、く、苦しい」
男が首を掻きむしり苦しみ始めた。
女は黙って部屋をあとにした。
部屋に残された男は悶絶して、ベッドの上を転がりまわった。
しばらくして、女が水の入ったコップを持って戻ってきた。
「ほら、胃薬飲んで。あんだけ餃子を食べればお腹も痛くなるわよ」
男は女から手渡された薬を、コップの水で飲み込んだ。
「ありがとう、ミユキ。でも、キミの作った餃子があまりにおいしくて」
「ほんとに? また作ってあげるね」
天井から見下ろす月が、そんな二人を優しく見つめていた。