メインコンテンツへスキップ
見出し画像

VCと新規事業

     先日、ある大手企業を訪問した際に、「新規事業を立ち上げるスキルとVC(ベンチャーキャピタル)のスキルは異なるのではないか。つまり、VCには新規事業のことが本質的にはわからないのではないか」という趣旨の質問をいただきました。興味深いテーマですので、改めてここで整理してみたいと思います。

    新規事業を立ち上げるスキルとは 

     「新規事業を立ち上げるスキル」は、人によって定義が異なると思いますが、私自身は次の6つの力が必要だと考えています。
    1.事業アイデアを生み出す力
     新規事業において、事業アイデアの良し悪しが、結果に一番大きく影響します。アイデアが悪ければ、どんなに優秀なリソースを投入したとしても、成功は難しいと思います。無理なものは無理なのです。
    2.ビジネスプラン作成力(経営視点)
     事業アイデアを経営的な視点で整理し「ビジネスプラン」にまとめる力が必要です。たとえば「火星に行く」というアイデアを掲げた場合、どのようなロケットを作るのか、どのように資金を集めるのか、必要な人・モノ・金をどう運用するかといった構想を、具体的なプランとして落とし込む力が求められます。
    3.実行プラン作成力(現場視点)
     ビジネスプランは経営の全体構想にすぎません。実際に動かすには、現場の視点で要素分解し、タスクレベルまで落とし込む必要があります。 先の火星の例でいえば、設計者や製造業者の選定、人材の確保、予算の割り当てなど、「明日なにをすべきか」が明確になるレベルまで具体化する力です。
    4.実行力
     プランを遂行するには、粘り強さと突破力が欠かせません。ロケットの設計者や製造業者とつながりがなければ飛び込みで探し、断られても100人にあたるなど。新規事業の道には常に壁があり、それを創意工夫と努力で乗り越える力が求められます。
    5.組織運営力
     上記すべてを一人で担うことは現実的ではありません。自分に不足する能力を補うために仲間を集め、チームとして機能させるリーダーシップが必要です。
    6.社内政治力
     スタートアップでは不要なスキルかもしれませんが、大企業での新規事業立ち上げには不可欠です。所管役員からの承認や予算獲得など、社内調整を円滑に進める政治力が必要になります。

    VCに求められるスキルとは

     一方、VCに求められるスキルもさまざまな見解がありますが、私の考えでは次の6つに整理できます。
    1.事業アイデアを評価する力
     シード期のスタートアップは実績が乏しいため、投資判断ではアイデアそのものの良し悪しを見抜く力が問われます。限られた情報から、実現可能性や市場規模、難易度を予測する能力が必要です。
    2.ビジネスプランを評価する力
     事業アイデアを基に作成されたプランを、実現性・収益性・市場性の観点から分析します。この際、キャピタリスト自身がビジネスプランをある程度組み立てられることが重要です。自身の想定プランと比較し、差分を分析することで、ビジネスプランを評価します。
    3.実行プランを評価する力
     同様に、ビジネスプランを現場でどう動かすかを想像し、必要なタスクを洗い出せる能力が求められます。実際の実行プランとの比較を通じて、実行力や実現性を評価します。
    4.実行力を評価する力
     どんなに綿密に計画しても、実際の現場では想定外の課題が多く発生します。この段階では、経営陣が問題を解決し前進する力を持っているかを評価します。過去の経験、課題への姿勢、実行プランの設計品質などを資料や面談等を通じて見極める力が必要です。
    5.経営者能力を評価する力
     経営的なビジョンと具体的な実行案をバランスよく持っているか。優秀な人材を採用し、チームを適切に運営できるか。投資家との関係をどう考えているか。こうした「経営者としての総合力」を、資料やインタビュー、外部ヒアリングから総合的に判断する力が必要です。
    6.将来的なリターンを予測する力
     起業家はバラ色の未来を前提に事業計画を立ててVCに提示します。しかし、それを鵜吞みにするわけにはいきません。類似業種、類似会社などを参考に現実的な成長予測を行い、投資対効果を定量的に見積もる力も欠かせません。 

    両者の共通点と違い

     こうして整理してみると、新規事業とVCのスキルには立場の違いはあれど、根幹に共通する部分が多いことがわかります。
     新規事業側は「実行する力」、VCは「評価する力」に軸足がありますが、両者が扱うテーマ――アイデア、プラン、実行、組織、経営――は本質的に同じです。
     もちろん、キャピタリストが完璧なビジネスプランを自ら作成できる必要はありません。標準的なレベルまで理解できれば十分です。むしろ、自身にはない視点や論点を持つ起業家を見出し、そこに価値を見いだすことこそがVCの役割です。

    キャピタリストの経験蓄積

     キャピタリストが一人前になるまでには、およそ3年ほどかかると言われます。その間に500社以上のピッチを聞き、デューデリジェンスを重ね、投資先の経営陣と深く関わりながら、数多くのケーススタディを蓄積します。
     「どのような施策が成長につながるのか」「どんな課題が発生し、どう解決されたのか」――こうした知見は、貴重な実践知としてキャピタリストの中に蓄積されます。
     一方、新規事業の経営陣は、自社の領域には精通していても、組織を拡大し事業をスケールさせる経営経験には乏しいケースも少なくありません。

    結論

     以上を踏まえると、VCと新規事業立ち上げに求められるスキルは、根本的には同質であると考えられます。
     さらに、VCは数多くの投資・支援の経験から、事業成長期に必要となる経営ノウハウを豊富に蓄積しています。したがって、VCは新規事業経営者にとって、欠かせない強力なパートナーとなり得ると確信しています。

    あなたへのおすすめ