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マニュアルのない設計事務所で働く、生き残るメンタル

    2026/10/22 約2000字を加筆・修正しました


    深夜の事務所。

    終わりのない図面修正や上司からの指示を前に、
    「なんで自分はこんな環境にいるんだろう」
    とパソコンの前でひとり、
    ため息をついているあなたへ。


    設計事務所で働いております、auloraと申します。
    ひとつの事務所で働き続け、6年目を迎えました。

    設計事務所(業界ではアトリエとも呼ばれます)の現場はなかなか厳しいところがあり、私の働く事務所でもこれまでにたくさんの人が入っては辞め、入っては辞めていきました。

    あなたがいま見ている景色も、同じようなものかもしれません。


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    そもそも多くの学生は、「独立のための修行期間」としてアトリエの門を叩きます。

    しかし、学生時代のインターンや社会人になってからの私自身の経験や、同じようにアトリエに飛び込んだ大学の同級生たちの話、彼らの事務所の環境なども含めて広く観察してみると、この激しい荒波のなかで実際に働いている人の生存状態は、大きく4つのパターンに分類されるように感じます。


    1. 【独立・ステップアップ組】
      初めから「3〜4年」や「2〜3物件担当したら」と期限を決めて働き、スキルを盗んで別の事務所へ行くか、独立する人。目的意識が明確です。

    2. 【早期リタイア組】
      数ヶ月〜2年程度で壮絶な労働環境に直面し、心身のバランスを崩して休職・退職する人。おそらくこの層が一番多いのではないでしょうか。
      ※早期と書きましたが、中堅と呼ばれる層に差し掛かっている人のなかにも当然いらっしゃるかと思います

    3. 【なんとなく定着組】
      明確な目標はなく、「企業への就活がしんどいから」と入社。意外と性に合っていたり、忙しすぎて考える暇がなかったりして、気づけば5年以上働き、重要な戦力になっている人。

    4. 【奇跡の適合者】
      給与、やりがい、休日のバランスが奇跡的に自分の価値観と噛み合っている人。(極めて希少種)


    ①や④の人は迷いがないでしょうし、③の人も転職できるスキルが身についています。 一番苦しいのは、やはり②の「早期に心が折れてしまう人」でしょう。

    これから設計事務所に入ろうとする方、あるいは今まさに②の状況で苦しんでいる方へ。(またはその親御さんへ)

    これはアドバイスや説教ではありません。

    「こういう生存戦略もあるんだな」
    くらいの気持ちで、
    6年目の独り言を聞いてください。




    ただ、大前提として言わせてください。
    建築設計は、しんどい仕事です。

    夢を壊すようですが、はっきり言って
    「向いている・向いていない」
    は残酷なほど存在します。


    なぜ、しんどいのか。

    それは、
    「関係者」と「仕事量」と「正解」が
    あまりにも多いから
    です。

    施主、上司、所長
    建築基準法、消防法、各自治体の条例、検査機関
    役所の関係者の方々
    構造、設備、電気
    測量、地盤調査、 施工会社、メーカー担当者
    近隣住民の方々……

    まだまだありますが、これら数え切れない関係者の間に入り、潤滑油となり、交通整理を行い、すべての利害を調整しながら建物を竣工へと導く。

    その上で、自分のやりたいデザインを表現し、納得してお金を払ってもらわなければなりません。


    日々新しい知識やトラブルが雪崩のように押し寄せ、やることリストは無限に増殖します。

    特に最初のうちは、何をどうすればいいのか全くわからず、不安と無力感で押しつぶされそうになるのが「普通」です。

    現在バリバリ働いている建築士も、おそらく全員がこの限界に近い期間を経験しているはずです。




    今の学生の方や若手の方にとって、
    一番のストレスは
    「マニュアルがないこと」ではないでしょうか。

    全ての工程にマニュアルが揃っている
    定時で帰ってもいい
    研修制度が充実している
    給料も高い
    有給制度がある
    残業代も昇給も賞与もある
    通勤手当も資格手当も家賃補助もある
    育児休暇も慶弔休暇もある
    夏季休業も年末年始休暇もある
    その他手厚い福利厚生がある

    …大手なら当然の福利厚生でしょう。しかし、多くのアトリエで完備されているかというと、そうではありません。(弊社はコーヒー飲み放題ですよ)


    上司も忙殺されていて教える暇がない。所員の入れ替わりが激しく、事務所にナレッジが蓄積されない。

    また、よく「建築は1案件ごとに敷地も条件も違うから、画一的なマニュアルなんて作れない」と言われます。

    私もそう思っていました。しかし、本質的な問題は、具体的な作業手順書がないことではありません。

    一つひとつのトラブルや事象を体系化・類型化し、「未知の課題に対してどう構えればいいか」という思考のアーカイブ(課題解決の型)が組織として言語化されておらず、すべてが先輩個人の頭の中にしか残っていないことが、若手を最も苦しめるクリティカルな原因なのです。


    本来なら組織が持続するためにそこを整備すべきなのですが、悲しいかな、多くのアトリエにはそれに割ける人数も時間もありません。

    「背中を見て覚えろ」と言うつもりはありませんが、膨大な業務量を前に個人の頭の中で体感して覚えるしかないというスタイルに、業界全体が慣れきってしまっているのが現実です。

    この環境に、覚悟なしで飛び込むと、ギャップで即死します。


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    実を言うと、学生時代の私は、特に何の賞もとったことのない普通の建築学生でした。

    同世代のなかには、学生のうちからすでに頭角を現し、卒業してすぐに独立したり、個人で仕事を取って実際に建築を建てたりしているような、圧倒的に優秀な人たちがいました。

    彼らと自分を比較しては、「自分には何もないのではないか」と、焦りと葛藤ばかりを抱えていたのを覚えています。

    そんな私が卒業後に飛び込んだのは、マニュアルはない、誰からも何も教えてもらえない結果、無能として怒られながら残業しまくる世界。当然、心は何度も折れかけました。


    では、そんな日々のなかで、どうやって心を折らずに生き残ってきたのか。もがきながら見つけた、2つの思考による防衛術をお話しします。


    決して、綺麗事の精神論ではありません。

    明日からの業務に対する見方を変え、出社の足取りを軽くするための私なりの答えです。

    あるいは、この先どんな理不尽な環境に身を置くとしても、他人に自分の人生のハンドルを握らせず、自分の足でタフに生き抜いていくための構え方として受け取ってください。


     
     

    aulora

     
     
    建築を通し、世界の解像度が少し上がる 一級建築士|設計事務所勤務 全国47都道府県・海外8カ国を巡り、建築を通して出会った景色や気づきを綴ります。 名建築の空間や差し込む光、その土地の歴史。設計業界の実情や、仕事と人生についての思考も。 世界を少しだけ美しく整えるための備忘録

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