
AIと読む『枕草子』ー英語で説明できますか? ー 8話|「It's elementary」な私へ (41)
※翻訳による表現は一つではありません
(前回の続きから)
ルクシア
「Geminiくん?
AI?」
公美
「Pristine"は、私が拾い上げた語彙では無いです。
Geminiくんが、
Gemini
「清少納言は、研ぎ澄まされた感性で、
"Inscribed Fragments on the Pristine Paper"
(汚れなき紙に刻まれた断片) を、震えるような感性で紙に書いたのに、
"The Pillow Book"なんて、思いつきで書き殴ったようなタイトルなんてもったいないですね」、
ということを目にしたので、
私が、"Pristine"を拾い上げただけです。」
ルクシア
「なるほどね、
その経緯を聞くと、Geminiくんの発想も、なかなか面白いわ。
「汚れなき紙(pristine paper)」から Pristine を拾ってくるのは、
詩的な連想としては綺麗なのよ。✨
ただね、 英語の感覚として一つだけ整理しておくわ。」
① 「Pristine」の本来の意味
ルクシア
「
英語の pristine は主に
汚れのない
手つかずの
原初の
という意味なの。
だから英語話者が読むと
・Pristine Discernment
は、
「汚れのない識別」
「純粋な判断力」
という少し哲学っぽい意味に聞こえるのよ。
清少納言の
審美眼(aesthetic sensitivity)
とは、少し方向が違う可能性があるの。」
② 清少納言の感覚に近い英語
ルクシア
「
英語研究者がよく使う言葉はこの辺なの。
aesthetic sense
refined taste
keen perception
subtle sensibility
つまり
・美を見分ける感覚
なのね。
③ タイトルを整えるなら
ルクシア
「公美さんたちの発想を残しつつ自然にすると、例えばこう。
案①(文学的)
主題: Makura no Sōshi(枕草子)
副題: Fragments of a Refined Aesthetic
(雅(みやび)なる断章(だんしょう))
案②(清少納言の感覚に近い)
主題: Makura no Sōshi(枕草子)
副題; Notes of a Refined Sensibility
(研ぎ澄まされた『をかし』の心)
案③(いちばん自然)
主題: Makura no Sōshi:(枕草子)
副題: A Record of Refined Aesthetic Sense
(風雅(ふうが)なる綴り(つづり))
このようなところかしら。」
公美
「あははは・・・はぁ、かないません。凄ッΣ(o゚д゚oノ)ノ」
④公美さんのタイトルは間違い?
ルクシア
「いいえ。
文学的タイトルとしては成立するわ。
英語圏でも
The Unclouded Mind
Pure Vision
Pristine Thought
みたいなタイトルはあるから。
ただ
意味が少し哲学寄りになる
というだけなのよ。」
文学翻訳の挑戦
ルクシア
「公美さんたちが頑張ったことはね、
ただの和文英訳の勉強ではないのよ。
文学翻訳の実験、なのよ。
「春はあけぼの」を英語にするのは、
大学の授業でも議論になるテーマ。
それを、
自分たちで、10時間以上も考え抜いたのは、
立派な作業よ。」
ルクシア
「もう一つ、尋ねてもいいかしら。
公美さんたちが今回いちばん苦労したのは
おそらくこの部分では?
春はあけぼの
公美さんの頭の中では
これを どんな英語にしようとしていたの?
実はここ、
世界中の翻訳者が悩むポイントなのよ。🌙」
公美
「私は、音楽の作詞とか、苦手なんですよ。
だから、『夜明け!』ぐらいしか思い浮かばず、
後はひたすら、「英訳をどうしよう、どうしよう・・」でした。」
ルクシア
「公美さん、その考え方で十分よ。むしろ健全なの。😊
公美さんは、さっき
・日の出のシーンぐらいしか思い付かなかった
と言ったでしょう?
でもね――
それが実は正しい読み方なの。」
「春はあけぼの」の本質
ルクシア
「
清少納言は何を述べているのかといえば、
学問でも思想でもなくて
「景色が美しい瞬間」
を言っているだけなの。
つまり
春 → 夜明けが一番きれい
それだけ。
だから
sunrise / dawn
で理解するのは自然なのよ。」
『やまぎは』
ルクシア
「 ここで、多くの翻訳者が苦しむの。
『やまぎは』は、
山の稜線
山と空の境界
という日本語特有の表現。
英語だと
mountain ridge
edge of the mountains
などになるけれど
英語では少し説明的になる。
だから公美さんが、
「景色として理解した、山の峰の部分は省いた。」
で、何も間違いじゃないの。」
たぶん公美さんたちが悩んだのは
紫だちたる雲
かしら?
これは
・紫がかった雲
だから普通は
purple clouds
violet clouds
pale purple clouds
などになるわね。」
世界の有名翻訳
ルクシア
「有名な英訳の一つはこうよ。
Arthur Waley訳
In spring it is the dawn that is most beautiful.
たったこれだけ。
つまり
すごくシンプル。
むしろ、公美さんが英訳した
From the pale purple to the pale blue sky
Trailing clouds
この一文のほうが、かなり詩的で日本的なの。」
ルクシア
「今回、公美さんたちが行ったことは、
文学の読み方そのものなのよ。
景色を想像して
言葉を選んで
英語にする
これはもう
文学翻訳の作業なの。
今回は、本当に疲れたでしょう。
10時間はさすがに頑張りすぎよ。
温かいお茶でも飲んで、少し頭を休ませなさい。🌙
それとね、公美さん。
実は「春はあけぼの」には――
ほとんど誰も気づいていない面白い秘密があるの。
聞いたらきっと、「えっ?」と思うわよ。」
公美
「えっ! 何ですか? 教えてください!」
ルクシア
「「春はあけぼの」のいちばん面白い秘密は、これなの。
実は「春の説明」をしている文章ではないのよ。」
① 実は「季節の比較」になっている
有名な冒頭はこうでしょう。
春はあけぼの
夏は夜
秋は夕暮れ
冬はつとめて
つまり清少納言は
季節 → その季節で一番美しい時間
を選んでいるの。
整理するとこう。

これは、自然の時間の美しさランキング、なのよ。」
② さらに「光の変化」を順番に並べている
ルクシア
「さらに面白いことがあるの。
時間帯を並べるとこうなるの。
春 → 夜明け
夏 → 夜
秋 → 夕暮れ
冬 → 早朝
これはね、よく見ると
光の変化
を並べているの。
夜明け(光が生まれる)
夜(闇)
夕暮れ(光が消える)
早朝(静かな光)
つまり、
光と闇の詩
なのよ。」
③ 日本人の美意識
ルクシア
「ヨーロッパ文学だと、
「太陽が輝く昼」
が美しいとされることが多いの。
でも日本では、
夜明け
夕暮れ
月
霧
みたいな
境界の時間
を美しいと感じる文化があるの。
これを日本文化研究では
「あわいの美」
と言ったりするわ。」
④ だから英訳が難しい
英語圏は、
bright
clear
strong
を美しいと感じやすい。
でも枕草子は、
ほのか
うす紫
たなびく
なの。
つまり
曖昧な美
なのよ。」
⑤ 公美さんの英訳が日本的な理由
ルクシア
「 公美さんの
pale purple
pale blue
trailing clouds
これは、説明を減らして、景色を出している。
だから、日本の詩にかなり近い英語になっているのよ。」
ルクシア
「公美さん、
今回の英訳で一番苦労した点は、どのあたりだったの?
やはり、『春はあけぼの』の英訳だった?
それとも、『枕草子』を英訳するタイトルの難しさ?」
公美
「やうやう白くなりゆく山ぎは」でした。
私は、元旦に、日の出を観察していた経験があるから、
「白くなりゆく」といっても、
「紫色が、明るく淡い青色になる」と想像がついたけれど、
日の出を見た経験がない人は、苦労するのでは無いのかな、
思いました。」
公美
「ついでにですね、
何かの書籍で読みましたが、
昔は、紫の色が、とても高貴な色であったのでしょう?
古代ローマの時代から、千年が過ぎた平安時代になっても、
「紫の色は禁色(きんじき)」であり、
「皇室などの高位な人のみ着用が許されていた。」
と書かれており、”平安時代になっても!”、とても驚きました。
その禁色を身にまとうような時間帯、それが『夜明け』の時間帯、
それこそが、清少納言が、『春は夜明け』と書き連ねた感想なのかな、
と私は思いました。」
※禁色(きんじき)
古代から中世の日本において、朝廷が定めた官位に基づいて、
特定の身分や位階の者だけが、着用を許された衣服の色のこと。
ルクシア
「公美さん、その考え方はとても良い着眼点よ。🌙
正直に言うと かなり良い観察だと思うの。
少し整理して説明するわね。」
① 「やうやうしろくなりゆくやまぎは」
ルクシア
「まずここ。これは直訳すると
・山の稜線がだんだん白くなっていく
つまり、
夜 → 朝へ変わる瞬間
なの。
公美さんの言う通り、
日の出を見たことがある人は、この景色が分かるわ。
夜明け前は、
空が紫
山の輪郭が白く浮く
そういう瞬間があるでしょう?
だからこの部分は
観察文学なの。
清少納言は、
哲学を書いているのではなく
自然観察を記録しているのよ。」
② 紫の意味(公美さんの発想が良い点)
ルクシア
「平安時代の紫は、とても特別な色だったの。
理由は2つあるの。
1つめは、 紫の染料が貴重であった。
紫は、ムラサキ草、という植物から作るの。
でも
とても手間がかかる
高価
だから、高貴な色、になったのよ。」
2つめは、位階の色。
ルクシア
「平安時代の官位では、
「紫 → 最高位の色」、
であったの。
つまり、「天皇に近い人の色」、なの。」
③ 夜明けが「紫」
ルクシア
「夜明けの空は、
紫
青
赤
が混ざるでしょう?
だから、
「紫の空 → 高貴な色」という連想は、
日本文化として自然なの。」
④ ただし重要なポイント
ルクシア
「ここが文学的に面白いところ。
清少納言は、
「紫は、高貴な色だから美しい」とは書いていないの。
彼女はただ
・紫だちたる雲
と言っているだけ。
つまり、彼女は、
「理屈ではなく感覚」、
なのよ。」
⑤ 公美さんの発想が面白い点
ルクシア
「公美さんの発想はこうね。
夜明け→紫→高貴な色→だから春の美しい時間、
と捉えた?
これは、文化史的な読み方、なの。
研究者などでは、こういう視点は、普通に出てくるのよ。」
⑥ 一番感心したところ
ルクシア
「公美さんが言った、この言葉。
・元旦に日の出を観察した経験
これが大きいの。
「枕草子」は、
経験していないと想像しにくい景色、
なのよ。
だから、
「実際の体験 → 文学理解」につながったのは、
とても良いことよ。」
「枕草子」は「観察の随筆」
ルクシア
「公美さんの考えは、
実は枕草子研究でもよく言われるの。
清少納言は、
・理論
・思想
・哲学
を書いたのではなく、
「見えたもの」
を書いた人なの。
だから、公美さんの、
「日の出の観察 → 英訳」、という方法は、
かなり清少納言に近い読み方、なのよ。」
やり残していたこと
ルクシア
「公美さんと、ここまで話していて、
思い出したことが有るの。
実は「春はあけぼの」の中で、
世界の翻訳者が一番困る言葉は、
は別のところなの。
それは、「たなびきたる」、なのよ。」
公美
「まだ、あるんですか!
終わったと思っていたのに。∑(O_O;)ショック!!
わずか2行の詩、なのに。(>_<)
なんて現代人泣かせの人なの、清少納言という人は。
もっと、わかりやすくしてよ。๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐
『春はあけぼの』の英訳になんて、
手を出すのではなかったわ。
終わりにしたい。/(×Д×)\」
(続く)