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人の話には色がつく〜聞く力がない人と関係は気付けない

    彼と話さなくなった、いや、視界に入らなくなった。それは、いつからだろう。挙式に参列いただいた大きな恩もあるし、やさしさを感じたこともある。
    だけど、それでも、いつの間にか、関わりがなくなった。糸が切れたように。
    ………
    「このように、スケジュール、権利関係の調整などの条項が入ってます。」
    青年は誇らしげに共同開発契約書の説明をする。私は相槌を打つ間さえない。続く説明に息を切らしたのか、一瞬、時ができた。
    「知っています。だって、その雛形を作成したのは、私ですから。」
    青年は、黒目だけを動かす。
    「A部から弁護士事務所に雛形作成を依頼すれば800万円かかると言われたので、社内で作成したいからあやとさんお願いしますと言われて、私が作成しました。」
    青年は、何も言えなくなっていた。そうだろう、まるで自分の手柄のように話してきたことは、他人の手柄だったのだから。そして、その時に分かったのは、青年だけが屈折しているのではない、それを許す環境と言う事実だった。
    ……………
    急にA部の担当を外す連絡が来たのは、その少し前だった。
    「A部の担当は、あやとさんではない方にします。」
    上長に言われた私は
    「共同開発契約書の作成をここまでやってきて、譲る気はないです。」
    と抗議した。上長は、何のことか、分かっていない様子で言葉を発しない。それは、私がさらなる説明をすることを許可していることを意味する。私は約半年、10回以上の会議記録と、100は超えるやり取りのメールを表示した。
    「これは、あやとさんが?青年がやったんじゃぁない?」
    「彼にはできないですよ。」
    部長は絶句し、担当変えの話は立ち消えした。
    ………
    しかし、それからも不自然なことは起こる。
    「あやとさんが勝手にコンプライアンスセミナーの内容を提案した。そうあなたの上長から聞いている。」
    取締役から話を聞いたとき、私は、全員が了解したチャットを見せた。そこには、上長が、私の提案への一部修正案を出し、部のトップとして最終承認した記録が残っていた。独断で進めたものではないことを証明をするのは容易く、取締役はそれ以上何もいわなくなった。
    ………
    「これからも中立の立場で真実をみて評価していきます。」
    そう上長から連絡がきたのは、真実と異なる発言や評価がいくつも積み重なったあとだった。日が迫るエンゲージメント調査に合わせてのタイミングだからこんな発言をされるのだろうか。このときには、私はもしかしたら純粋な誠意かもしれない言葉を、もはや屈折して見るしか出来なくなっていた。
    上長が中立の立場で話を聞く力も、意欲もない人にしか見えなくなってしまっていたのだ。
    …………
    勿論、人は間違える。だからその都度訂正するのは悪いことではない。だけど間違えるから、そもそも色が付く他人の話を鵜呑みにしてはいけない。自分の目と耳で確かめる。
    人のせいにする前に自分の発言は、見直す。一度疑われた嫌さを他人に残すと、その他人との関係を良好なものに戻すには困難を極めるのだから。何より、自身の発言はチャットやメールに残っているから簡単に見直せる。

    だけど、何もしない。それどころか、自身の発言を忘れて責任転嫁をする。そんな人が中立にものを見ることはできないだろう。現に疑義がある事態がいくつも発生しているではないか。私は返信をしなかった。
    …………
    仕事の1つや2つ、もしかしたら大したことがないかもしれない。しかし、その1つ1つを丁寧に向き合うから、次の仕事が生まれ、その成功によって居場所ができる。そして、成功のために作成した共同開発契約書の雛形は完成まで数年かかり、10年近く使ってきた。それは決して、他人が成せるものではないし、弁護士事務所に頼めば800万円の価値がある。それをやすやすと、他人の手柄として評価する、やられた方としては、スーッと引いていく。
    こうしていつの間にか、私の視界に上長が入ることはなくなっていた。いただいたメールの思いは分かる。でも、心を引き戻すものではなかった。
    …………
    消えた思いを東京において、初めて行く出張先の広島の空を見ながら。

     
    記事1つ1つに伝えたい人がいます〜記事トップは自分で撮ったお気に入りの写真✨ 日経新聞社様主催「天職だと感じた瞬間」入賞、「お金について考える」日経COMEMO賞✨お米とわたし北海道教育委員会教育長賞✨️法務局主催人権について奨励賞 法務博士号取得、商社にて企業法務、管理職女性✨