
徒然なるままに、下部温泉旅行記
6月、曇りの日。
13:25甲府駅発の身延線に乗り、各駅停車でトコトコと。
トンネルを抜け下部温泉駅に着いたのは14:34。身延線は無人駅だと1番前のドアしか開かないので危うく降りそびれるところだった。
山の谷間、線路に挟まれた駅で、乗ってきた電車が過ぎ去るのを踏切で待つ。
この時降りたのは私の他に、親子と思しき女性2人(50代・70代か。)
宿のチェックイン時刻は15時。
駅前から長く緩く続く勾配を見てサクサク行かんと間に合わなさそうな気配を受け取り、早足で坂を進む。
後ろで親子の「わあ…若いわあ…」の呟きを聞く。

川沿いを歩き、何度か虫に羽休めに使われつつ、14:55に宿に到着。
本日のお宿は「橋本屋」。
楽天トラベルで1番評価が高く、温泉ソムリエマスター・ヨシタカさんのnoteでも紹介されているので間違いない。
混浴文化の強い下部温泉の中で女性専用風呂あり・1人旅OK・リーズナブルと3拍子揃っているところが魅力。
宿泊台帳に記入していると、エントランスのソファに掛けている宿の方なのか常連さんなのか判断に迷う男性が話しかけてくる。
「下部は初めて?」
「そうなんです。今、県内の温泉を回ってて」
「そうですか。いやあ、若い人って珍しいから」
珍しい…?
思わず目の前にいる若女将に目が行く。いくつか上ではあるだろうが、四捨五入したら一緒くらいではないか。華やかな美人だ。客としては少ないという意味か、もしくは実は女将さんが美魔女か。
お部屋は渓流の音が程よくBGMになる「せせらぎ」。
予約時1人部屋はトイレ付きの部屋が無かったのだけれど、宿側が女一人旅に気を利かせてグレードアップしてくれたそうだ。
6畳の予約が、10畳+公縁が2辺をぐるっと囲って4畳半+玄関部・洗面所・トイレ。相当広い。ありがたさ半分申し訳なさ半分でお礼を言う。

早速浴衣に着替え、赤い暖簾の女湯に入る。
浴槽は二つあって、下部温泉らしいぬる湯と、近年湧出したらしい熱湯。
加温をしたものを上り湯とする宿が多い中、橋本屋だと2種類の温泉が楽しめるというわけ。
柔らかいお湯が気持ちいい。交互に入る。無限に入れるというやつである。
圧縮式のフェイスパックが置いてあり、湯口で戻して使ってくださいの説明書きがある。もちろん使う。
お肌がぶるんぶるんになる。ぷるんではなく、ぶるん。
上がりしな、手のひらサイズの巨大蜘蛛が桶に潜んでいるのを発見してしまい、怯えつつ山の中らしさを感じる。

ひと休みし、夕飯前にもう一度入ろうとふと宿の案内に目を向けると、
先程入らなかった方…青い暖簾がかかっていたお風呂が混浴の岩風呂であることに気付く。
女性専用浴室はあるが男性専用はないということか。入りたい。入る。
旅行前に夫と約束した「一人旅では混浴に入らない」は忘れることにする。人がいなければそこは女湯である。
岩風呂はなかなか広い。構成は一緒、ぬる湯と熱湯。
全面が岩ではなく、1区画が岩といった形で、印象はそこまで女湯と変わらず。
…自ら入ったとはいえいつ男性が入ってくるか分からない状況はやはり落ち着かない。満足して早々に上がる。
丁度帯を結んだ時に、年配の男性が入ってくる。危ない危ない。そのままやり過ごそうとしたが、流石に分かる。
「えっ!」
脱衣所の扉を閉める男性。開ける私。
「大丈夫です、ここ男湯です」
「えっなんで」
「いや、男湯っていうか、混浴らしくて」
つい出来心で…とはわざわざ言わず、すみませんと言い残して去る。
さらに、先の男性の連れと思われる男性ともすれ違う。
後ろで「今若い女の子が…」の声を聞きつつ追加で心の中で謝る。
普通入んねえよな。
宿側の気遣いで部屋も変えてもらっているのにここでまさかの自殺行為。男性側にも迷惑である。やめよう。
気を取り直して女湯に入り直す。

夕飯は部屋食であった。
品数は多いが程よい量。完食する。
瓶ビールも飲み切る。深酒はこの時点ではやめておく。
温泉で炊いているというご飯も、お櫃の3膳分しっかり食べ切る。
なんてったって美味しい。

20:00、ロビー集合。
なんと女将さんがホタルを見に連れて行ってくれるという。宿泊客6名でミニバンに乗り込む。
女将さんのお子さんが助手席に同乗する。子供が周りにいなさすぎて学年は予測がつかないが、小学生かな。結構大きい。
女将さん美魔女説が再浮上する。やはり温泉に浸かると若々しく美しいのか。
途中、鹿に遭遇する。
いつも思うのだが、鹿というものはなぜあんなに逃げないのか。国内ではオオカミが絶滅し、鹿の天敵は人間だけだと言う。車にのっている人間は天敵の対象にならないのだろうか。
10分程度車に揺られただろうか、湯町ほたるの里に到着。熱湯の源泉はこの辺りから引いているとのこと。
ホタルは見れました。ヤッター。
女将さんによると、今日はあまり出ていないとのこと。ただ雨が少しでも降ると出ないので、明日からの長雨で今週は見納めだろうと。
毎年ホタルを目当てで泊まる人もいるらしく、天候による宿泊リスケもあるらしい。
帰り、温泉街エリアに入ると懐中電灯を持った歩行者が。
轢きそう〜!!
と思うと歩行者が話しかけてくる。
「女将、鹿肉、いる?」
「欲しいですー。」
「じゃあまた連絡するわ」
ジビエがお裾分けされる町、下部町。
やっぱり鹿の天敵は人間らしい。

宿に戻って一息ついてから、さきほど夜道を歩くからと我慢していたお酒を頼む。
山梨地酒飲み比べ。1合瓶7種を、3本から。
フロントでお願いすると、また気遣いをしてもらって1本でもいいですよと言ってもらうが、せっかくなので飲み比べをさせてもらう。
瓶で貰えるので、飲みきれなければ持って帰れる。
先に本日最後のお風呂(入浴時間は22時まで)をいただき、部屋の冷蔵庫で冷やしておいたお酒をいただく。
ペットボトルの水とお茶も宿の玄関先にある自販機で調達。
改めて、春鶯囀(シュンノウテンと読むそう)が好き。
七賢も、煮物とかをつまみに飲みたい。
甲斐の開運は初めて飲んだが、香り強めで苦手な系統だった。焼酎が飲めないのでこういった日本酒も苦手になってしまうの、損だなあと思う。
あんまり飲みすぎても明日に響くので、それぞれ半分程度までいただいて寝る。

朝5時。アラームの1.5時間前。
なぜ自分が目覚めたのか原因を探る。
川の流れの音がする。昨日通り。
鳥のさえずりが聞こえる。山の中らしい…音量がでかい!!!
文字で表現するとピピピとかチチチなんだけれども、え、話しかけて来てます?もしかして怒ってます…?な音量。おお、本来こんななのか。天然のアラームだ。
これは連泊したら生活ペースが整いそう。
爆音を聴きながら二度寝。

朝7時からの風呂を浴び、これまた部屋食の朝食。こちらもしっかり完食。
休憩スペースにサービスのコーヒーがあったのでこちらもいただく。
ここから春鶯囀を作っている萬屋酒造に行こうと思っていたのだが、まさかの本日定休日に気付く。ふてる。もう一度風呂に浸かる。
雨も降ってきた。帰ろう。

また行こ。
おわり。
2023.7 また行った。