
遊鮎楼ボレロ旅 四国四万十編
夏の陽射しがギラギラと照りつける高知県、四万十川学遊館(トンボ公園)。
旅人のAyuは、世界屈指のトンボの聖地で、水面を見つめていた。
「暑いなぁ……」
その時、メタリックブルーに輝く巨大な影が、空中でピタリと静止した。
体長は優に三十センチ。翅(はね)の表面に、電子回路のような光のラインが走っている。
「新種のトンボ……? いえ、サイボーグ?」
『ギギ……音声言語認識完了。我が名は「ヤンマ・零号」。未来から来た時空観測機ナリ』
なんと、そのメカニカルなトンボが脳内に直接語りかけてきた。
「未来のトンボって、喋るの!?」
『四万十の美しい水を守るため、環境データを21世紀へフィードバック中。Ayu殿、我のエネルギーが切れそうナリ。推進力を求む』
「エネルギーって、何をあげればいいの?」
『……冷たくて、甘い、あの四国の名物を所望する』
Ayuは苦笑しながら、ポケットからお土産の「アイスクリン」を一口すくい、そっと差し出した。
ヤンマ・零号は超高速のナノ吸管を伸ばし、シャリシャリと音を立ててそれを吸引する。
『ウマッ! 冷却完了、エネルギー充填100%ナリ!』
途端にトンボのボディが虹色に発光し、小さなワームホールが出現した。
『感謝する! これで未来の四万十も安泰ナリ!』
未来の面白生物は、楽しげにプロペラのような音を響かせ、光の中へと消えていった。
「あ、待って! 私のアイスクリン、半分以上持っていかれたんだけど!」
青空の下、スカスカになったカップを手に、Ayuの笑い声が夏風に溶けていった。
(おしまい)