
第9話:明治神宮に、行けなかった朝
夜になると、
なんとなく部屋が静かに感じる日がある。
テレビもつけずに、
明かりだけつけてソファに座ってた。
考えないようにしてたことって、
こういうときに限って、ちゃんと出てくる。
でもその日は、
「まあいっか」って思った。
無理に押し戻す元気もなかったし、
ちょっとくらい向き合ってもいいかなって。
ただぼんやり、
頭の中に浮かんでくるものを見てた。
そんな夜だった。
次の日の朝、
ふと、明治神宮に行こうかなって思った。
時間もあるし、
なんとなく、そういう気分だった。
でも、
「あ、七五三の時期か」
って気づいた瞬間、足が止まった。
きれいに着飾った子どもたちと、
その横を歩く家族。
たぶん、今の私にはちょっときつい。
そう思って、やめた。
でも、その判断ができた自分に対して、
ちょっとだけ思った。
──あ、ちゃんと自分のこと分かってきてるかも。
逃げたっていうより、
普通に自分に優しくしただけ、みたいな。
そう思えたのが、なんかよかった。
そのとき、ふと
楽しかった夜のことを思い出した。
彼がごはん作ってくれて、
テレビ見ながらワイン飲んで、
どうでもいい話して笑って。
「こういう時間、好きだな」って、
ちゃんと思えた夜。
でも、
その時間があったあとでも、
心の奥に残るものは、別にあった。
楽しかったはずなのに、
なんか少し重たい。
そのズレに気づいたとき、
ああ、これが本音か、って思った。
最近、なんでこんなに
自分の気持ちに気づくようになったんだろうって思ったときに、
ひとつ思い当たることがあった。
コーチングスクールに通い始めて、
関わる人がガラッと変わったこと。
年上の女性が多くて、
みんなびっくりするくらい生き生きしてた。
軽やかで、でもちゃんと地に足ついてて、
強いのに、やわらかい。
離婚歴のある人も普通に多かった。
でもそのどの人も、
全然「不幸そう」じゃなかった。
むしろ逆で、
──あ、この人たち、自分の人生ちゃんと生きてるな
っていう感じ。
それがすごく印象的だった。
彼女たちと話すたび、
胸の奥がちょっと明るくなる感じがあった。
「自分を大切にすると人生って変わるよ」
って、言葉で言われたわけじゃないけど、
なんか空気で伝わってきた。
私はずっと「いい子」で生きてきた。
波風立てないように、
嫌われないように、
自分の気持ちは後回し。
それでも笑っていれば、
うまくいくと思ってた。
でも今は、ちょっと違う。
好きなものも、
嫌なことも、
ストレス感じるポイントも、
前よりちゃんと分かる。
「あ、私こういうの無理なんだ」
「あ、これ好きなんだ」
って。
それが分かるようになっただけで、
ちょっと強くなった気がした。
七五三を避けたあの朝も、
ちょっと泣きそうになった理由も、
「なんでこんなことで?」じゃなくて、
「今の私にはそう感じるんだな」
って思えた。
それだけで、
自分を責めなくて済むようになった。
深呼吸すると、
胸の奥が少しあったかくなる。
まだ怖いし、
不安も全然ある。
でも、
未来のことを考えたとき、
前よりちょっとだけ軽い。
これから、どうなるんだろう。
そう思ったときに、
ほんの少しだけ、楽しみな気持ちが混ざってる。
たぶん私は、
前よりちょっとだけ、
自分のことを信じ始めてる。
その小さな変化を、
今日は、ちゃんと認めてあげてもいいかなって思った。