[#シロクマ文芸部]耐雪梅花麗
待つ時間。
桃色のパンプスが、棚の奥で眠っている。
まるでお姫様が眠っているみたい。
女の子はね、簡単に泣いてはいけないの。
好きな子が親友と手を繋いでいたって、次の日には笑顔でショートケーキを食べて「甘いものは、好きよ」って、その子と手を繋いで歩くの。
家に帰ってから、心配するママの声を振り切って、トイレでケーキを吐き出すの。
キラキラのネイルを無理やり剥がして痛いけれど、買ったばかりの白いブラウスの襟を胃液で汚してしまったけれど、私は笑っている。
薄桃色の壁紙、乳白色のレースカーテン、真っ白のドレッサー。
私を取り囲む全部が可愛いから、私は幸せなの。
女の子に、不幸なんて似合わない。
泣いた分だけ強くなるなんて、嘘。
涙を堪えた分だけ、強くなるの。
それも、嘘。
何にも救われない、私の心はずっと削られ続けている。
女の子はね、簡単に許してはいけないの。
親友が「ごめんね」と泣いて謝ってきた日も「涙がもったいないわ」って涙を拭ってあげる。
その後家に帰って、パパの制止を振り切って、買ったばかりのハンカチを燃やすの。
残ったレースが私の後悔、無くなった分が私の復讐心。
燃え滓になった復讐心を水で洗い流してから、心配そうに私を見つめるパパに言う。
「ねぇ、パパ。私、好きな人がいたの」
でもね、私じゃなかったみたい。
続く言葉を飲み込んで、ソファに腰を下ろしてから水色の靴下を脱ぐ。
先端に真っ赤な血が滲んでいた。
いつかあの子の隣を歩く日を夢見て、慣れないヒールの練習をしていたけれど、もう必要ない。
平たくて薄汚れたスニーカーの人があの子には必要だった。
たっぷり膨らんだスカート、リボンで縛られたウエスト。
白くて細い脚も、あの子には必要なかった。
私、可愛いから、なんだか笑ってしまったの。
だって、私以外に優しくする人なんて、最初からいらない。
ああ、夢でも見ていたみたい。
もう、夢から覚める準備をしなくちゃ。
バイト代の一万五千円で買ったヒールを靴棚の奥に押し込んだ。
ママが「似合っていたのに、なにかあったの」と、聞いてきたけれど、私は「脚が痛くなっちゃうから、もう少し大人になったら履くよ」と笑顔で答えた。
埃を被った靴を見たって、私は何にも感じない。
復讐心は、ハンカチと一緒に燃えてしまったから。
でもね、またいつかヒールを履いて隣を歩きたいと思える人に出会えると思うの。
女の子はみんな、幸せになれるから。
可愛ければきっと、いつかきっと、ね。
待ち焦がれているの。
桃色のお姫様が再び目を覚ます日が来るまで。