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斎場の焔

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     落ち着き払ったこちらの様子に、困惑しているようだった。
     銃弾の速度で伸長してきた触手を、首を傾けてかわすと、総十郎は口の端を吊り上げる。

    「――予測、していなかったとでも?」

     そう、王国の領域に楔のように食い込んだトーリア連峰との境界に、砦樹は生育していない。オークたちも、氷点下の山嶺から襲撃を掛けようなどとは考えなかった。あまりにも無謀だからだ。
     だが、アンデッドならば寒さなど問題としない。ゆえに、敵が正面から大軍をぶつけて注目を向けさせつつ、山脈方面から別動隊を差し向けてくるであろうことは予測、というよりほとんど確信していた。

    「小生に時間を与えてしまったことを悔やみたまえ。お前たちは一匹たりともオブスキュアの地を踏むことはない。」

     白光とともに抜刀。鞘のオルゴールめいた機構と接触し、刀身が殷々と神韻を奏でる。

    「――〈神韻探偵〉鵺火総十郎、一手奏楽たてまつる。」

     次々に繰り出される触手・節足・毒棘・鉤爪を、輪舞のごとく軽やかにかいくぐりつつ、その長く滑らかな指先で幽遠なるしらべを奏でた。
     その音色に共鳴して、山岳部の各所に突き刺さった幽骨製の楔が同様に神秘の旋律を発し始める。

    「仏性なき厭魅の破却を希う。かかる三千世界を護摩と成し、迦楼羅焔の威光にて祓いたまえ清めたまえ――」

     伸ばした人差し指の腹同士を合わせ、残る四指を複雑に組み合わせた根本印を切る。
     穏やかに緩んでいた目元が、ギン、と尖った。

    「――火界咒・金剛手最勝根本大陀羅尼!」

     かつて悪鬼の王を焼き払った救済の炎が、数百倍の規模で再び猛威を振るった。総十郎の視界一面が、白熱した炎の奔流に満たされる。不動明王の慈悲が荒れ狂い、渦巻き、逆巻いた。
     鋭く甲高い絶叫がそこかしこで耳を劈き、異形の肉塊どもが痙攣しながらもがいている。
     終わりなき修羅道たる〈化外の地〉の存在が、この罪障滅徐の理に抗える道理なし。その身に染みついた殺戮の罪が燃え上がり、数十体のアンデッド混沌堕胎腫ケイオススポーンたちは速やかな滅びを迎える。
     このような巨躯の怪物どもは、総十郎の得意とする相手ではないが、一か月強の時間を与えられれば広範囲大火力の呪法儀式のひとつやふたつは成せる。
     最も苦労したのは、神韻軍刀と共振できる呪術媒体を大量に用意せねばならなかった点である。
     分子構造の中に梵字を形成する特殊な錯体を持つ神韻軍刀は、固有振動帯が極めて広く、ほとんどの音と共鳴できる。さらに単結晶構造によって高い可塑性を維持しており、その内部に溜められるエネルギー量はすこぶる多い。
     問題は、刀身より発せられた神韻を受け取り、共鳴できる特性をもった物体がこの世界には存在していなかったことである。いくつか神韻短刀を札にして懐に忍ばせてはいるものの、数が全く足りない。
     そこで、幽骨に着目した。年経た樹木の芯部に形成されるこの特殊な組織は、高い精神感応性を持っており、用途に合わせて材料特性を変化させることができる。それはつまり――分子構造に対して意図的な干渉ができるということを意味していた。総十郎は祭祀たちに頼み込み、梵字を分子構造の中に秘めた幽骨楔の制作を依頼。まず分子構造が何なのかを説明するところから始めねばならなかったが、祭祀のなかでも長老格と思われる女性(なにしろうっかり笑顔力をセーブせずに笑いかけてしまっても、他の祭祀たちが一斉に赤らめた頬を押さえる中、一人だけ泰然と微笑み返してきたのだ。かなりの人生経験を積んだ御方であろうと思われる)がついに神韻軍刀と共鳴できる材質を練り上げることに成功した。

     ――ありがとう、ユトナどの。

     後で何かお礼をしたいところだ。しかし自分のような若輩者が、彼女の喜ぶようなものを見繕えるものだろうか。ふと、フィン少年が編みぐるみを作っていたことを思い出し、大きな編みぐるみを贈られて目を白黒させているユトナどのの姿まで連想して、思わず笑みをこぼした。
     気が向けば黒神に教えを乞うてみるのも良いかもしれない――と考えて、不意に現実に立ち返る。

    「そうだ、危ないのは黒神の方であったな。」

     総十郎が呪術媒体を設置できたのは森の東側だけであり、西側には烈火を向かわせていた。
     あの男が負けるなどとは全く考えていなかったが、なにしろ戦い方が雑である。討ち漏らしが出る可能性はあった。
     しばし山間を見渡し、監視用の式神を放ったのち、総十郎は速やかに〈聖樹の門ウェイポイント〉に向かった。送迎のために同行してくれているエルフ青年とともに、王国の反対側を目指す。

     ●

    「お前ダメでしょう剣と魔法世界にお前らみたいな神話生物系のなんかが出てきちゃったらお前もうちょっと世界観大事にしなさいよバカなの? 大体なんだよそのヌルテカ触手は!! ねえわかってる? 君たちの触手はね、誰かを攻撃したり、破壊したりするために生えてるんじゃないんだよ? もっと尊いことのためにあるんだよそれは!!!! 美少女に絡みいてあはんうふん言わせるためにあるんでしょうがアアアアアアアアアぁぁァァァァァッッ!!!! それをお前、お前、こんな筋肉ムキムキマッチョメンの超天才に向けるとか、君たちのお母さんもきっと哀しんでるよ!!!! どうしてそうなっちゃったのアナタたちは!!!! 何か辛いことがあって心が歪んじゃったの!? お兄さんに話してみ? いや、わかる。わかるよ? 年頃になるとつい自分の本分に反抗して見たくなることって、あるよね!! いてッ!!!! テメーコラその汚らしいクソ触手叩きつけてくんじゃねーよコラ……粘液が!!!! 粘液がべっとりこびりつきやがった!!!! いてッ!!!! いてえっつうのクズがァ!!!! うわ汚ねッ!!!! ちょっ、待、話を、話を聞……いてぇっ!! クソがああああああ殺すぞテメェらああああああああああああアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

     爆撃!! 爆音!! 閃光!! 衝撃波!!
     全方位にガスバーナーのごとく放射される闘気が烈火にこびりついた粘液を蒸発させ、さらにアンデッド混沌堕胎腫ケイオススポーンどもの表皮をめっちゃ乾かしてカピカピにした!!!!
     そして振るわれる拳と蹴りはチュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーンと腐肉塊たちを爆裂四散溶解蒸発せしめ、跡形もなくこの世から葬り去った!!!!
     山間の大地はめくれ、耕され、植生は吹っ飛び、動物たちは逃げ去り、周囲の環境は戦術爆撃の跡でもこれよりは遥かにましだろうというような惨状と化した!!!!

    「ああ^~世紀末ストレスがめっちゃ溶けてゆくんじゃあ^~」

     肩を回しながらご満悦!!!! おもむろにバックダブルバイセップスからサイドチェストへの派生を決める!!!!
     カメラ目線で前歯がフラッシュ!!!!

    「大切なことは、すべて筋肉に教わった……」

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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