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『シュジュギア -帝都神韻機鋼譚-』 #5 終

     前 目次

     二人で霊場を抜け、現世に帰還したとき、総十郎はふと小腹がすくのを感じた。

    「ピナハ嬢、〈霊視〉の使い過ぎで少々疲れたのではあるまいか? 糖分補給といこうではないか。」
    「え。」
    「良い欧風茶房カフヱテリアを知ってゐる。付き合ってくれたまえ。」
    「……まぁ、構わんが。」

     ピナハに歩調を合わせながら、二人で歩き出す。
     狭い路地の両側から、こちらに迫り出すように軒が連なり、さまざまな商店がひしめき合う。
     近年の星気機関化の波に取り残されたかのように、昔ながらの面影を残す町並みが広がってゐる。
     道行く人々は大半が人間だが、中には半妖や式神の姿もあった。
     帝都の元城下町は、今日も今日とて雑然とした活気に満ちてゐるのだった。

    「おう、総ちゃん。うちの坊主ども見なかったか?」
    「あゝ、二人ともさっきまでうちにゐたとも。今頃は祀くんの家で西瓜をごちそうになってゐるであろう。」
    「なんだそうなのか。まったくあいつら宿題もしねえで……。」
    「まぁ総ちゃんや、こないだはありがとうねえ。おかげでお財布は戻ってきたわ。」
    「それは良かった。これでお孫さんの誕生祝いは万全であるな。今後とも鵺火探偵事務所を御贔屓に。」
    「総ちゃん助けてくれ! 土地の権利書がやくざ者にとられちまった!」
    「よろしい。どこの組かな? 三日以内に戻ってくるよう取り計らおう。しかし三隅さんも良くない。危機意識が足りぬぞ。」
    「にゃーおう。」
    「うむ、巡回ごくろう。お互い大変であるな。奥方の調子はどうであろうか。」
    「あっ、総ちゃんだ。なー、五日後の天気教えてくれよー。デエトの約束しちまったぜ。」
    「相手は幸子くんかな? 日枝山王にでも嘆願しておこう。彼には貸しがあるから一日くらいは融通してくれよう。安心して爆発せよ。」

     人々と言葉を交わし、笑顔を交わす。

    「……探偵と言うより便利屋だな。」

     ピナハ嬢が半眼で見上げてくる。

    「まったくである。探偵とはもっとこう、怪盗と丁々発止の攻防を繰り広げたり狂科学者の非道な実験を阻止したり旧世界の邪神を再封印したりするもののはずである。」
    「貴様の探偵観も色々とおかしい!」
    「今では懐かしい思い出である。」

     総十郎は遠い目になる。神州大和は、実にさまざまな脅威に見舞われてきたものだ。
     しかもそれに加えて、総十郎はもうひとつの戦いをも切り抜けなければならなかったのだが――素直に話したところで荒唐無稽な法螺話としか思われぬであろう。

    「さて、着いたぞ。こゝのアヰスクリヰムパフェは帝都婦女子の間で中毒者が続出すると評判の絶品である。ぜひとも小生に奢らせていたゞきたい。」
    「いや、私は紅茶でいゝのだが……。」
    「待て。待っていただきたいピナハ嬢。これは小生にとって重要なことなのだ。どうかこの哀れな男を助けると思ってパフェを奢られていたゞきたい。どうか。なにとぞ。」
    「ドゲザをするな! そのような極東の風習、私には通用せんわ! だいたいお金なら持ってゐる! ガリギュラヰザア家の財力を舐めるな。確実に貴様より持ってゐるぞ! むしろ奢ってくれるわ!」
    「ご無体な! 小生、ロリコンなれば、幼女に甘味を奢って食すところを見守るために生きてゐると言っても過言ではないのである。」
    「やはりそういう魂胆か。自らの下種な欲望を満たすために私をこんなところに連れ込むとは見下げ果てた男だ。罰として貴様には一番高いメニュウを奢ってくれる!」
    「なんと無慈悲な……これがガリギュラヰザア……!」

     愕然とする総十郎。ピナハに腕を引っ張られ、生ける屍のごとき足取りで入店する。

     ――と、その瞬間。

     視界が、白く染まり始めた。欧風茶房カフヱのハイカラな内装が、光の中に没してゆくかのように薄れてゆく。
     即座に総十郎は、今何が起ころうとしているのかを悟った。
     思わず、苦笑する。

    「やれやれ、人気者は大変であるな。」
    「おい、どうした。さっさと座るぞ。」

     ピナハの声も、遠くなりつつある。
     せっかく出会えたこの凛々しくも愛らしい令嬢と、しばらく別れねばならないのは口惜しいが、助けを求められては応えぬわけにはいかない。

    「なんでもない、ピナハ嬢。少し立ちくらみを起こしただけだ。」

     そんな言葉も、もはや光の奔流に飲み込まれて届いたかどうか定かではない。
     今度は果たしてどのような世界であろうかと思いを馳せながら、総十郎はゆっくりと眼を閉じた。

     ●

     空気の質感が、明らかに変わった。
     爽やかで暖かな萃星気の風味が消え、替わりに静謐で厳かな気配が体を包み込んでゐる。

     ――気温、やや低め。湿度、高め。萃星気、なし。ただしそれに代わる奇妙な力が働いておるようだ。

     眼を閉ざしながら、この世界の環境を受け止める。

     ……今回で四度目である。

     鵺火総十郎は紛れもなく神州大和で生を享けた、生粋の大和男児やまとおのこであるが、〈神韻探偵〉として活躍しだして以降、これまで三度ほど異世界に召喚されたことがあるのだ。
     三度が三度とも、文明、文化、環境、物理法則、世界構造、いずれもが奇妙奇天烈不可思議な世界であった。それぞれの世界の召喚者らが、それぞれ恐るべき危難に見舞われ、藁にもすがる思いで総十郎に助けを求めてきたのだ。そんなものに付き合う義理など本来まったくないのであるが――事情を聞いてしまえばどうしても情が移ってしまい、いかんと思いつゝも手を差し伸べてしまう総十郎なのであった。
     ロリコンやマブダチといった言葉も、それら異世界召喚の折に習い覚えたのである。
     そこでふと思い出す。

     ――そうだ、次に召喚されたら真っ先に言おうと思ってゐた台詞があるのだ。

     総十郎は涼やかに微笑み、ゆっくりと眼を開きながら言った。

    「――問おう。貴殿が小生の召喚者マスタアか。」

     目の前には誰もいなかった。
     やや冷たい風が、制服をかすかに揺らしていった。

    「……おや?」

     軽く首を傾げる。目の前に広がるのは、まるで太古の時を封じ込めたかのような、深い深い苔むした大森林であった。
     いったい、樹齢は何千年なのか。ひとつひとつの樹木が、帝都の高層建築よりもさらに雄大である。
     総十郎が立ってゐるのは、遥か過去に倒れたと思しき大樹の上であった。さまざまな菌類や宿り木が群生してゐる。
     人影は、どこにもない。動くものと言えば、樹々のあわいを飛び交う小さな発光体の群れのみであった。
     召喚者が近くにゐない、というのは、初めての事例である。

    「ふうむ。」

     総十郎は首を逆に傾げて思案すると、ともかくこの世界を探索しようと歩み始めたのであった。

     システムメッセージ:主人公名鑑が更新されました。
    ◆銀◆主人公名鑑#3【鵺火やび総十郎そうじゅうろう】◆戦◆
     十八歳 男 戦闘能力評価:A+
     ロリコン。大正時代の書生。美形。コミュ力の化け物。
     スチームパンク大正浪漫ADVゲーム『シュジュギア ‐帝都神韻機鋼譚‐』の主人公。楽器と刀を組み合わせた全く新しい退魔兵装『三四式神韻軍刀』を振るい、怪盗とか秘密結社とかマッドサイエンティストとか軍部の陰謀とか旧世界の荒神とかと戦ってゆく。男すら見惚れるほどの超美形だが、ロリコン。生粋のロリコン。ロリコンの中のロリコン。幼女が甘いものを食うところをニヨニヨしながら眺めるのが三度のメシより好き。今日も今日とて幼女たちの笑顔のためにさまざまな厄介ごとを解決してゆく。ロリコンと言っても狭義のロリコンであるため、ペドフィリアを見かけると殲滅モードが発動し、地の果てまで追い詰めて殺す。
     所持補正
    ・『無敵系主人公』 自己完結系 影響度:S
     圧倒的な勝利を約束された主人公補正。総十郎の人生には数多の敵が現れるが、彼はそのすべてに対して涼しい顔で勝利する。あらゆる戦闘における勝率が常に百パーセントになる。負傷すらしない。
    ・『■■の■ちゃん』 因果干渉系 影響度:■
     ■■や■■、■■■など、■に■■の■■であり続けた総十郎の■き■。■■■■とはまた異なる■■■な■■。■■■■■わず、総十郎と■■を■ったキャラクターの■■■に■■な■■■■■がつく。■ですら彼に■■な■■■を■く■は■。■に■■■に■する■■は■■で、■■■■の■■は■■■で総十郎の■■になる。
    ・『■■の■■』 自己完結系 影響度:■
     ■■を■■できないさだめ。総十郎の■■は■■に■いものに■わる。彼自身、それをどこかで■している。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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