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Photo bysugarline310

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #76

     前 目次

    「……かっ……っ……」
     意識が遠のく。体の中で何かの圧力が際限なく高まるような、切迫した感覚。
     息ができない。
     動脈と静脈が閉塞し、視界が赤く、黒く染まってゆく。
     シアラは驚き、そして受け入れた。
     自らの頸に絡みつく、この手の感触が、悪意や敵意によるものではないとわかったから。
     首の絞め方に、愛があったから。
     ――いいの。
     シアラは、その苦悶を、受け入れた。
     かまわず彼女に抱き着き、負けぬほど力を込めて抱きしめる。おへそに顔をうずめる。
     意識が暗転する。
     ――いいの。うれしい。いいの。
     肉体が、この致命的事態から逃れようと動くのを、シアラは押さえつけた。
     愛を伝え、愛を返される。
     それがどれほど幸福なことか、今ではもうわかっているから。
     そのために死んでしまうというのは、もちろんシアラにとっても軽いことではなかったが、愛を交換する代償がそれだというのなら、躊躇うつもりはなかった。
     むしろそうすることで、愛の価値をより感じられると思ったから。
     ――ね? しあわせですわね?
     言葉もなく、語り掛ける。
     ――うれしくて、あったかいの。
     彼女の体温と匂いを受け止めようと、頬ずりする。
     受け入れられず、寂しく苦しい気持ちが、そこには澱のように凝っていた。
     ――いいこ、いいこ。
     ――だから、ねえ、あたまなでなでしてほしいですわ。
     少しだけ、甘えて見せる。

     ●

     アメリは、戸惑っていた。
     混乱していた。
     自分がこれまで求め続けたものが、何の条件も、代償もなく目の前にぽんと置かれた現実を、理解できなかった。
     そんなことはありえないと、どこかで理解していたから。
     だから、怯えた。理解されることに慣れていなかった。
     この小さな聖女が、今までに一度も巡り合ったためしのない人種であり、未知であり、不気味であったから。
     魂の底から、己の狂気に殉ずることができなかったから。
     だからアメリは手を離した。〈無限蛇〉システムとの接続を、思わず切った。
     途端に消え失せる小さな女の子の感触、その名残を、寂寥とともに反芻しながら。

     ●

     〈美〉セフィラ全域で、肉虫の暴虐が止まった。
     上空にいた甲零式機動牢獄は、そのサイズからすると不気味なまでの高速で宙を滑り、〈教団〉の総本山へと帰投してゆく。
     再びリクライニングチェアに身を横たえながら、ギドは葉巻をふかしていた。
    「……ふぅん、まぁいいけどね」
     煙を吐く。
    「あなたらしからぬ失態ですね」
     乙零式が憮然としている。
    「返す言葉もないね。外すなんざ何年振りやら」
    「〈法務院〉からの出向にも限度はあることをお忘れなく」
    「あぁ、問題ないよ。次でラストだ」
     〈教団〉に抗うテロ組織たる〈帰天派〉は、その実「あまりに安定しすぎる統治」が敷かれている〈美〉セフィラに、争いと罪の種をバラまくため、〈法務院〉が意図的に作り上げた勢力だ。末端の構成員はそのことを知らないが、時として今回のように機動牢獄が密かに投入されることもあった。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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